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PM 令和5年度秋期 午後Ⅰ 問3

   

化学品製造業における予兆検知システムに関する次の記述を読んで,設問に答えよ。

 J社は,化学品を製造する企業である。化学品を製造するための装置群(以下,プラントという)は1960年代に建設され,その後改修を繰り返して現在も使われている。プラントには,広大な敷地の中に,配管でつながれた多くの機器,タンクなど(以下,機器類という)が設置されている。
 機器類で障害が発生すると,プラントの停止につながることがあり,停止すると化学品を製造できないので,大きな機会損失となる。このような障害の発生を防止するため,J社は,プラントの運転中に,ベテラン技術者が“機器類の状況について常に監視・点検を行い,その際に,機器類の障害の予兆となるような通常とは異なる状況があれば,早めに交換・修理”(以下,点検業務という)を行っている。機器類の障害を確実に予兆の段階で特定し,早めに交換・修理を行えば,障害を未然に防止できる。しかし,プラントに設置されている機器類は膨大な数に上り,どの機器類のどのような状況が障害の予兆となるのかを的確に判断するには,長年の経験を積んだベテラン技術者が点検業務を実施する必要がある。
 最近は,ベテラン技術者の退職が増え,点検業務の作業負荷が高まったことにベテラン技術者は不満を抱えている。一方で,以前はベテラン技術者が多数いて,点検業務のOJTによって中堅以下の技術者(以下,中堅技術者という)を育成していたが,最近はその余裕がなく,中堅技術者はベテラン技術者の指示でしか作業ができず,点検業務を任せてもらえないことに不満を抱えている。
 ベテラン技術者は,長年の経験で,機器類の障害の予兆を検知するのに必要な知見と,プラントの特性を把握した交換・修理のノウハウを多数有している。J社では,デジタル技術を活用した,障害の予兆検知のシステム化を検討していた。これによってベテラン技術者の知見をシステムに取り込むことができれば,中堅技術者への業務移管が促進され,双方の不満が解消される。しかし,プラントの点検業務の作業は,一歩間違えば事故につながる可能性があり,プラントの特性を理解せずにシステムに頼った点検業務を行うことは事故につながりかねないとのベテラン技術者の抵抗があり,システム化の検討が進んでいない。

〔予兆検知システムの開発〕
 J社情報システム部のK課長は,ITベンダーのY社から設備の障害検知のアルゴリズムを利用したコンサルティングサービスを紹介された。K課長は,この設備の障害検知のアルゴリズムがプラントの障害の予兆検知のシステム化に使えるのではないかと考え,Y社に実現可能性を尋ねた。Y社からは,機器類の状況を示す時系列データが蓄積されていれば,多数ある機器類のうち,どの機器類の時系列データが障害の予兆検知に必要なデータかを特定して,予兆検知が可能になるのではないかとの回答を得た。そこでK課長は,プラントが設置されている工場に赴いて,プラントの点検業務の責任者であるL部長に相談した。L部長は,長年プラントの点検業務を担当してきており,ベテラン技術者からの信頼も厚い。
 L部長から,機器類の状況を示す時系列データとしては,長期間にわたり蓄積されたセンサーデータが利用できるとの説明があった。そこでK課長は,プラント上の様々な機器類のセンサーから得られるセンサーデータに対し,Y社のアルゴリズムを適用して“障害の予兆”を検知するシステム(以下,予兆検知システムという)の開発をL部長と協議した。
 K課長はL部長の同意を得た上で,工場と情報システム部で共同して,予兆検知システムの開発プロジェクト(以下,本プロジェクトという)を立ち上げることを経営層に提案して承認され,本プロジェクトが開始された。

プロジェクトの目的
 K課長は,本プロジェクトの目的を,“プラントの障害の予兆を検知し,障害を未然に防止すること”とした。さらにK課長は,中堅技術者が早い段階からシステムの仕様を理解し,システムを活用して障害の予兆が検知できれば,点検業務を担当することができ,ベテラン技術者の負荷軽減につながると考えた。一方で,システムの理解だけでなく,予兆を検知した際のプラントの特性を把握した交換・修理のノウハウを継承するための仕組みも用意しておく必要があると考えた。K課長は情報システム部のプロジェクトメンバーとともに,工場の技術者と共同でシステムの構想企画の策定を開始することにした。その際,L部長に参加を依頼して了承を得た。

構想企画の策定
 K課長は,L部長に依頼して工場の技術者全員を集め,L部長から本プロジェクトの目的を説明してもらった。その上で,K課長は,本プロジェクトでは,最初に要件定義チームを立ち上げ,長期にわたり蓄積されたセンサーデータから,障害の予兆を検知するデータの組合せを特定すること,及び予兆が検知された際の機器類の交換・修理の手順を可視化することに関して要件定義フェーズを実施することを説明した。要件定義チームは,工場の技術者,情報システム部のプロジェクトメンバー,及びY社のメンバーで構成される。
 K課長は,事前にY社に対し,業務委託契約の条項を詳しく説明していた。特に,J社の時系列データ及びY社のアルゴリズムの知的財産権の保護に関して,認識の相違がないことを十分に確認した上で,Y社にある支援を依頼していた。
 K課長は,要件定義チームの技術者のメンバーに,ベテラン技術者だけでなく中堅技術者も選任した。要件定義チームの作業は,多様な経験と点検業務に対する知見・要求をもつ,技術者,情報システム部のプロジェクトメンバー及びY社のメンバーが協力して進める。また,様々な観点から多様な意見を出し合い,その中からデータの組合せを特定するという探索的な進め方を,要件定義として半年を期限に実施する。その結果を受けて,予兆検知システムの開発のスコープが定まり,このスコープを基に,要件定義フェーズの期間を含めて1年間で本プロジェクトを完了するように開発フェーズを計画し,確実に計画どおりに実行する。

プロジェクトフェーズの設定
 本プロジェクトには,要件定義フェーズと開発フェーズという特性の異なる二つのプロジェクトフェーズがある。K課長は,要件定義フェーズは,仮説検証のサイクルを繰り返す適応型アプローチを採用して,仮説検証の1サイクルを2週間に設定した。一方,開発フェーズは予測型アプローチを採用し,本プロジェクトを確実に1年間で完了する計画とした。
 さらに,K課長は,機器類の交換・修理の手順を模擬的に実施することで,手順の間違いがプラントにどのように影響するかを理解できる機能を予兆検知システムに実装することにした。

設問1 〔プロジェクトの目的〕について,K課長が,工場の技術者と共同でシステムの構想企画の策定を開始する際に,長年プラントの点検業務を担当してきており,ベテラン技術者からの信頼も厚い,L部長に参加を依頼することにした狙いは何か。35字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 ベテラン技術者の抵抗感を抑えプロジェクトに協力させるため

解説

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設問2 〔構想・企画の策定〕について答えよ。

 

(1)K課長が,L部長に本プロジェクトの目的を説明してもらう際に,工場の技術者全員を集めた狙いは何か。25字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 技術者全員の不満解消になることを伝えるため

解説

 ー

 

(2)K課長が,J社とY社との間の知的財産権を保護する業務委託契約の条項を詳しく説明し,認識の相違がないことを十分に確認した上で,Y社に依頼したのはどのような支援か。30字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 予兆検知に必要なデータを特定するコンサルティング

解説

 ー

 

(3)K課長が,要件定義チームのメンバーとして選任したベテラン技術者と中堅技術者に期待した役割は何か。それぞれ30字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 ベテラン技術者 :機器類の予兆検知と交換・修理のノウハウを提示する。
 中堅技術者:早い段階からシステムの仕様を理解し活用できるかを確認する。

解説

 ー

 

設問3 〔プロジェクトフェーズの設定〕について答えよ。

 

(1)K課長が,本プロジェクトのプロジェクトフェーズの設定において,要件定義フェーズと開発フェーズは特性が異なると考えたが,それぞれのプロジェクトフェーズの具体的な特性とは何か。それぞれ20字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 要件定義フェーズ:探索的な進め方になること
 開発フェーズ:計画を策定し計画どおりに実行すること

解説

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(2)K課長が,機器類の交換・修理の手順を模擬的に実施することで,手順の間違いがプラントにどのように影響するかを理解できる機能を予兆検知システムに実装することにした狙いは何か。35字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 中堅技術者がベテラン技術者の交換・修理のノウハウを継承するため

解説

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IPA公開情報

出題趣旨

 プロジェクトマネージャ(PM)は,システム開発プロジェクトの目的を実現するために,プロジェクトのステークホルダと適切にコミュニケーションを取り,協力関係を構築し維持することが求められる。
 本問では,化学品製造業における障害の予兆検知システムを題材として,ステークホルダのニーズを的確に把握し,適切なシステム開発のプロジェクトフェーズ及び開発アプローチを設定して,ステークホルダのニーズを実現する,PM としての実践的なマネジメント能力を問う。

採点講評

 問 3 では,化学品製造業における障害の予兆検知システムを題材に,ステークホルダーのニーズを的確に把握し,適切なシステム開発のプロジェクトフェーズ及び開発アプローチを適切に設定して,ステークホルダーのニーズを実現する実践的なマネジメント能力について出題した。全体として正答率は平均的であった。 
 設問 2(1)の正答率は平均的であったが,“ステークホルダーだから”という,プロジェクトマネジメントとしての目的を意識していないと思われる解答が散見された。プロジェクトマネージャ(PM)として,立ち上げの時期に全員がプロジェクトの目的を共有することの重要性を理解して解答してほしい。 
 設問 3(2)の正答率は平均的であったが,プラントの特性を理解した交換・修理のノウハウの継承という点を正しく解答した受験者が多かった一方で,交換・修理の手順を模擬的に実施する機能の実装だけで機器類の障害の発生を防げると誤って解答している受験者も散見された。
 PM として,システムを正しく機能させるための 利用者の訓練の重要性を理解して解答してほしい。

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