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PM 令和4年度秋期 午後Ⅰ 問1

   

SaaSを利用して短期間にシステムを導入するプロジェクトに関する次の記述を読んで,設問に答えよ。

 M社は,ECサイトでギフト販売を行っている会社である。自社でECソフトウェアパッケージやマーケティング支援ソフトウェアパッケージなどを導入し,運用している。
 顧客からの問合せには,コールセンターを設置して電話や電子メールで対応している。ECサイトにはFAQを掲載しているものの,近年ギフト需要が高まる時期にはFAQだけでは解決しない内容に関する問合せが急増している。その結果,対応待ち時間が長くなり顧客が不満を抱き,見込客を失っている。また,現状はオペレーター問合せの対応履歴を手動で登録しているが,簡易的なものであり,顧客の不満や要望などのデータ化はできておらず,顧客の詳細な情報を反映した商品企画・販売活動には利用できない。さらに,顧客視点に立ったデジタルマーケティング戦略も存在しないので,現状ではSNSマーケティングやAIを活用したデータ分析などを行うことは難しい。
 M社は,次に示す2点の顧客体験価値(UX)の改善によるビジネス拡大を狙って,Webからの問合せに回答するAIを活用したチャットボット(以下,AIボットという)を導入するプロジェクト(以下,導入プロジェクトという)を立ち上げた。

・Webからの問合せにAIボットで回答することで,問合せへの対応の迅速化と回答の品質向上を図り,顧客満足度を改善して見込客を増やす。

・AIボットに記録される詳細な対応履歴から顧客の好みや流行などを把握,分析し,顧客の詳細な情報を反映した商品企画・販売活動を行い,売上を拡大する。

 

 早急に顧客の不満を解消するためには,2か月後のクリスマスギフト商戦までにAIボットを運用開始することが必達である。M社は,短期間で導入するために,SaaSで提供されているAIボットを導入すること,AIボットの標準画面機能をパラメータ設定の変更によって自社に最適な画面機能とすること,及びAIボットの機能拡張はAPIを使って実現することを,導入プロジェクトの方針とした。
 また,導入プロジェクトの終了後即座に,マーケティング部署が中心となりデジタルマーケティング戦略も立案することにした。戦略立案後は,更なるUX改善を図るマーケティング業務を実施することを目指す。そのために,導入プロジェクト終了時には,業務におけるAI活用のノウハウをまとめることにした。実践的なノウハウを蓄積することで,デジタルマーケティング戦略に沿って,様々なマーケティング業務でAIを活用したデータ分析などを行うことを可能とする。

AIボットの機能と導入方法
 プロジェクトマネージャ(PM)である情報システム部のN課長は,導入プロジェクトの方針に沿い,次に示す特長を有するR社のAIボットを選定し,役員会で承認を得た。

(1)機能に関する特長

 ・問合せには,AIボットが顧客と対話してFAQから回答を提示する。AIボットはこれらの履歴及び回答にたどり着くまでの時間を対応履歴として自動記録する。

 ・AIボットは,問合せ情報などのデータを用いてFAQを自動更新するとともに,これらのデータを機械学習して分析することで,より類似性の高い質問や回答の提示が可能になるので,問合せへの対応の迅速化と回答品質の継続的な向上が図れる。

 ・AIボットに記録される詳細な対応履歴は,集計・分析・ファイル出力ができる。

 ・AIボットの提示する質問や回答を見て,顧客はAIボットから有人チャットに切替えが可能なので,顧客は必ず回答を得られる。

 ・M社内のシステムと連携し,機能拡張するためのAPIが充実している。

 

(2)導入方法に関する特長

 ・M社の要求に合わせた画面機能の細かい動作の大部分が,標準画面機能へのパラメータ設定の変更によって実現できる。

 

 N課長は①あるリスクを軽減すること,及び商品企画・販売活動に反映するための詳細な対応履歴を蓄積する必要があることから,次の2段階で開発することにした。

 ・第1次開発:Webからの問合せにAIボットで回答し,顧客の選択に応じて有人チャットに切り替えるというUX改善のための機能を対象とする。画面機能はパラメータ設定の変更だけで実現できる範囲で最適化を図る。2か月後に運用開始する。

 ・第2次開発:把握,分析した顧客の詳細な情報を反映した商品企画・販売活動を行うというUX改善のための機能を対象とする。AIボットの機能拡張はAPIを使って実現することを方針とする。APIを使って実現できない機能は,次に示す二つの基準を用いて評価を行い,対応すると判断した場合,M社内のシステムの機能拡張を行う。
(ⅰ)実現する機能が目的とするUX改善に合致しているか
(ⅱ)実現する機能が創出する成果が十分か
次のギフト商戦を考慮して,9か月後の運用開始を目標とする。

 

第1次開発の進め方の検討
 M社コールセンター管理職社員(以下,CC管理職という)は要件を確定する役割を担うが,顧客がどのようにAIボットを使うのか,オペレーターの運用がどのように変わるのかについてのイメージをもてていない。
 N課長は,要件定義では,R社提供の標準FAQを用いて標準画面・機能でプロトタイピングを行い,CC管理職の②ある理解を深めた上でCC管理職の要求を収集し,画面・機能の動作の大枠を要件として定義することにした。受入テストではM社の最新のFAQと実運用時に想定される多数の問合せデータを用い,要件の実装状況,問合せへの対応迅速化の状況,及び③あることを確認する。同時に,要件定義時には収集できなかったCC管理職の要求を追加収集する。また,受入テストの期間を十分に確保し,追加収集した要求についても,次に示す基準を満たす要求は受入テストの期間中に対応して第1次開発に取り込み,2か月後の運用開始を必達とする条件は変えずにUX改善の早期化を図ることにした。

  a  

・問合せへの対応が迅速になる,又は回答品質が向上する。

 

第2次開発の進め方の検討
 第2次開発の対応範囲を定義するために,マーケティング部署にヒアリングし,表1に示す機能に対する要求とその機能が創出する成果を特定し,要求に対応する機能拡張APIをAIボットが具備しているかを確認した。

表1 マーケティング部署の機能に対する要求と機能が創出する成果
No. 機能に対する要求 機能が創出する成果 API
1 詳細な対応履歴と問合せ者の顧客情報・購買履歴に基づく推奨ギフトの提案 顧客が自身の好みに沿ったギフトを簡単に購入できる。 有り
2 顧客情報・購買履歴と商品企画・販売活動の統合分析 M社が顧客の真のニーズを踏まえたギフトを企画,販売できる。 無し
3 AIを活用した市場トレンド・詳細な対応履歴などのデータ分析による最適なSNSへの広告出稿 顧客の関心が高いギフトの広告をSNSに表示できる。 無し

 No.1については,AIボットの機能拡張を前提に,ECソフトウェアパッケージの運用チームに相談してより具体的な要求を詳細化することにした。No.2については,マーケティング支援ソフトウェアパッケージの機能拡張の工数見積りに加えて,ある評価を行って対応有無を判断することにした。No.3は対応しないことにした。ただし,導入プロジェクト終了時には,業務におけるAI活用のノウハウを取りまとめ,今後のNo.3などの検討に向けて現状を改善するために活用することにした。

設問1 〔AIボットの機能と導入方法〕の本文中の下線①について,N課長が第1次開発においてこのような開発対象や開発方法としたのは,M社のどのようなリスクを軽減するためか。35字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 AI ボットの運用開始がクリスマスギフト商戦に遅れるリスク

解説

 開発を2段階に分けるのは、部分的に早期運用開始する必要がある、ということです。第1段階の開発対象は次の通りですが

 Webからの問合せにAIボットで回答し,顧客の選択に応じて有人チャットに切り替えるというUX改善のための機能を対象とする。画面機能はパラメータ設定の変更だけで実現できる範囲で最適化を図る。2か月後に運用開始する。

 これをやらなければならない理由を本文中から探すと、次の部分が該当すると思われます。

 早急に顧客の不満を解消するためには,2か月後のクリスマスギフト商戦までにAIボットを運用開始することが必達である。M社は,短期間で導入するために,SaaSで提供されているAIボットを導入すること,AIボットの標準画面機能をパラメータ設定の変更によって自社に最適な画面機能とすること,及びAIボットの機能拡張はAPIを使って実現することを,導入プロジェクトの方針とした。

 つまり、第1次開発をこのようにしたのは、AIボットの運用開始がクリスマスギフト商戦に遅れるリスクを考慮してのことだとわかります。

 

設問2 〔第1次開発の進め方の検討〕について答えよ。

 

(1)本文中の下線②について,N課長は標準画面機能のプロトタイピングで,CC管理職のどのような理解を深めることを狙ったのか。30字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 ・AI ボット導入によるコールセンター業務の実施イメージ
 ・顧客がどのように AI ボットを使うのかのイメージ

解説

 ー

 

(2)本文中の下線③について,N課長は何を確認したのか。20字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 より類似性の高い質問や回答の提示状況

解説

 ー

 

(3)N課長は,要件定義時には収集できなかったCC管理職のどのような要求を受入テストで追加収集できると考えたのか。20字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 FAQ の自動更新に関わる要求

解説

 ー

 

(4)本文中の  a  に入れる適切な字句を,25字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 パラメータ設定の変更だけで実現できる。

解説

 ー

 

設問3 〔第2次開発の進め方の検討〕の表1について答えよ。

 

(1)N課長は,No.2について対応有無を判断するために具体的にどのような評価を行ったのか。30字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 顧客の真のニーズを踏まえたギフトを販売できるかどうか

解説

 ー

 

(2)N課長が,No.3は対応しないと判断した理由を30字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 デジタルマーケティング戦略の立案を先にすべきだから

解説

 ー

 

(3)N課長は,今後のNo.3などの検討に向けて現状を改善するために,取りまとめたノウハウをどのように活用することを狙っているのか。35字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 マーケティング業務で AI を活用したデータ分析などを行う。

解説

 ー

 

IPA公開情報

出題趣旨

 プロジェクトマネージャ(PM)は,ビジネス環境の変化に迅速に対応することを目的に,SaaS を利用して業務改善やサービス品質向上などの顧客体験価値(UX)改善を図る場合は,効率的な導入を実現するようにプロジェクト計画を作成する必要がある。
 本問では,ギフト販売会社のコールセンターの業務で SaaS を利用して短期間にシステム導入するプロジェ クトを題材として,SaaS の特長を生かした導入手順の決定,システムの利用者と認識を共有するプロセス及び UX 改善ノウハウの蓄積方法について,PM としての実践的な能力を問う。

採点講評

 問 1 では,SaaS を利用したシステム導入プロジェクトを題材に,SaaS の特長を生かした導入手順について出題した。全体として正答率は平均的であった。
 設問 2(3)は,正答率が低かった。M 社の最新の FAQ や問合せデータなどに言及せず,オペレーターの運用だけに着目した解答が多かった。要件定義では用いなかったデータを用いた受入テストから新たな要求が生じること,新たな要求を把握した上で適切に対応することが重要であることを理解してほしい。
 設問 3(2)は,正答率がやや低かった。第 2 次開発の評価基準への適合に関する解答が多かった。機能の採否の判断には評価基準の適合も当然のことながら,UX の改善に向けた適切なアプローチという視点が重要であることを理解してほしい。

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