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PM 令和4年度秋期 午後Ⅰ 問2

   

ECサイト刷新プロジェクトにおけるプロジェクト計画に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。

 A社は老舗のアパレル業である。店舗スタッフ部門の現場の経験豊富なメンバーが的確に顧客のニーズを把握し,接客時にお勧めのコーディネートを提案できることが評価され,ハイクラスの顧客層から強く支持されるブランドになっている。かつては,そのブランド力を生かして実店舗だけで商品の販売を行っていたが,近年では,販売チャネルの多様化に伴い,ショッピングモール運営会社のサイトに出店する形でECサイトを開設した。しかしながら,このECサイトは他のECサイトとの差別化ができておらず,オンラインで商品を購入できる機能の提供だけにとどまり,売上げは低迷している。これに加え,大規模な感染症の流行に伴い,実店舗での試着や接客に顧客が大きな不安を感じる傾向にあり,来店客数も減少している。このままでは,強い支持を得ている既存の顧客層も離れていくと考え,A社は既存の顧客層を取り戻すだけでなく,新たな顧客の獲得を狙いとして仮想店舗構想を積極的に推進することを決定し,新事業推進部が事業を担当することとなった。この構想では,顧客は自宅にいながらアバターとして仮想店舗に来店し,顧客が過去に購入した衣服との組合せなどを疑似的に試着できる。その際には,店舗スタッフ部門のメンバーのアバターと会話しながらお勧めコーディネートの提案を受けることができる。この構想を実現するプロジェクト(以下,Aプロジェクトという)が立ち上げられた。
 Aプロジェクトのプロジェクトマネージャ(PM)として,開発,運用それぞれの経験が豊富であるシステム部企画課のB課長が任命された。仮想店舗を実現するシステムは,A社内の利用部門が使う顧客管理や経理などの現行システムと同様に,システム部開発課(以下,開発課という)が内製で開発し,システム部運用課(以下,運用課という)が運用する。

〔現行システムの状況とAプロジェクトの目標〕
 現行システムの開発では,利用部門の要求確定の都度,開発課のメンバーをアサインして,システム開発に着手する。開発課は総合テスト完了後,運用課が管理する検証環境にソフトウェアをアップロードして,運用課が稼働環境へデプロイする。A社のガバナンス規程では,リグレッションテストなどの作業や開発プロセスの証跡を確認し,承認する手続の後にデプロイすることになっているので,運用課が検証環境で作業や手続を実施している。しかし,開発課は利用部門から求められたソフトウェアの仕様変更への対応をデプロイ直前まで実施することがあり,その結果,デプロイの3営業日前となっているアップロード期限が守られないことがある。
 ショッピングモール運営会社から提供された情報によると,現在のECサイトでは“欲しい商品がどこにあるかが分からない。気になる商品があっても,それを試着したときのイメージが湧かず,実店舗で得られるようなコーディネートの提案も聞けない。”という顧客からの声がある。しかし,現状はこうした声への対応ができていない,又は対応が遅い状況にある。仮想店舗で,このような顧客の声に迅速に対応して価値を提供できるようにすることが,Aプロジェクトの最優先の目標である。

〔現状のヒアリング〕
 B課長は,開発課の現状を担当者にヒアリングした。その概要は次のとおりである。

・開発課のミッションは,利用部門からの要求を迅速に実現することである。

・利用部門が要求を決めれば,開発課はすぐにソフトウェアを改修してアップロードする。しかし,運用課の作業があり,迅速にデプロイできない。

・最近は,テストからデプロイまでを自動実行するツール(以下,自動化ツールという)が提供されている。これによって運用課がデプロイ前に実施する作業や手続が自動化ツールで代用でき,作業効率を改善できるので導入を提案しているが,運用課は,自動的にデプロイされてしまうことに否定的である。

 

 B課長は,次に運用課の担当者にヒアリングした。その概要は次のとおりである。

・運用課のミッションは,安定した運用の提供であり,利用部門と合意したSLAを遵守することである。

・開発課は,アップロード期限を守れない場合,“運用課の作業期間短縮によってデプロイ日時を変えないように”と要求してくることがある。しかし,A社のガバナンス規程で定められている必要な作業や手続があり,一定の期間が必要なので,開発課にはこの点を考慮してアップロード期限を守るように再三伝えているが改善されない。その結果,開発課が希望する日時にデプロイできないことがある。

・自動化ツールの導入効果は認識しているが,運用課の作業や手続なしにデプロイするのは安定した運用を提供する立場から許可できない。

 

目標の達成に向けた課題
 B課長は,開発課も運用課も顧客に直接価値を提供するSoE(System of Engagement)型のシステムを開発,運用した経験がないことを踏まえ,Aプロジェクトの最優先の目標の達成に向けた課題を次のように分析した。

①開発課と運用課とでは,重視していることが異なり,それらを相互に理解できていないので,A社として組織を横断して迅速に顧客の声に対応することが難しい。

・開発課も運用課も社内のニーズを満たしたり,ルールを遵守したりすることが価値だと認識しており,顧客への価値提供が重要であることを十分に理解できていない。

・自動化ツールなどの最新の技術に対して,現状の作業,手続及び役割分担を前提に導入の是非を判断してしまっている。

・SoE型のシステム開発のプロセスにおいて,顧客視点での体験価値の設計や評価に必要なスキルをもった人材が社内にいないので,外部の知見を導入しながら社内の人材を育成していく必要がある。

・実店舗と同様に,顧客の声を直接集めて顧客のニーズを的確に把握できるようにするためには,必要なスキルを保有するメンバーをAプロジェクトにアサインすることが重要である。

・A社の強みを生かして提供される②仮想店舗での顧客体験価値(UX)についてメンバーの意識を高めるためには,メンバーに多様な視点からの意見を理解してもらう必要がある。

 

 これらの課題を解決するために,B課長はUX提供の仕組み作り及び開発・運用プロセスの整備に関する対策を検討することにした。

UX提供の仕組み作り
 B課長は,Aプロジェクトの最優先の目標である,顧客の声に迅速に対応してUXを提供できるようにするには,組織を横断したプロジェクトチームを編成し,顧客に価値を提供するプロセスを軽量化し,また必要な権限やスキルをAプロジェクトに集約することが必要だと考え,次の対策について新事業推進部及び関係する部署の合意を得た。
 まず,Aプロジェクトには,開発課のメンバーに加えて運用課のメンバーも参加させ,開発と運用が一体となった活動(DevOps)を実現する。次に,③店舗スタッフ部門の現場の経験豊富なメンバーにAプロジェクトに参加してもらう。このメンバーには,新設した新事業推進部の仮想店舗スタッフ課で,アバターとして顧客への提案などを担当してもらうとともに,顧客への情報発信と顧客の声をリアルタイムに収集するために新設するA社公式SNSアカウントの運営も担当してもらう。また,④外部のデザイン会社に,共同作業を前提にUXの設計やレビューを依頼する
 その上で,毎朝,⑤UXに関する意識を高めるためにミーティングを開催し,開発課,運用課,仮想店舗スタッフ課及び外部のデザイン会社から参加するメンバー全員で議論することにした。

開発・運用プロセスの整備
 開発・運用プロセスの整備に向けては,まず,⑥自動化ツールを導入することによって得られる,Aプロジェクトの最優先の目標の達成に寄与する効果について,開発課のメンバーと運用課のメンバーとが共有することが必要と考え,両メンバー間で協議してもらった。その結果,現状の作業,手続及び役割分担に合わせて自動化ツールを利用するのではなく,自動化ツールを利用できるように開発・運用プロセスを見直すことになった。具体的には,自動化ツールがもつ機能を最大限に生かしつつ,デプロイについては,⑦自動化ツールに記録された作業ログ及び開発課のメンバーの最終確認の証跡をもって,運用課のメンバーがデプロイを承認する,というプロセスに見直すことにした。
 B課長はこれらの案を反映したプロジェクト計画を作成し,A社経営層の承認を得た。

設問1 〔目標の達成に向けた課題〕について答えよ。

 

(1)本文中の下線①について,このような分析の根拠として,B課長は開発課と運用課がそれぞれ何を重視していると考えたのか。それぞれ20字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 開発課:利用部門の要求を迅速に実現すること
 運用課:システムの安定運用を実現すること

解説

 ー

 

(2)本文中の下線②について,B課長は仮想店舗で具体的にどのようなUXを提供しようと考えたのか。30字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 実店舗同様に試着したり提案を受けたりできること

解説

 ー

 

設問2 〔UX提供の仕組み作り〕について答えよ。

 

(1)本文中の下線③について,B課長が店舗スタッフ部門のメンバーをAプロジェクトにアサインしたのは,Aプロジェクトの最優先の目標の達成に向けてどのようなスキルを期待したからか。25字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 的確に顧客のニーズを把握するスキル

解説

 ー

 

(2)本文中の下線④について,B課長がUXの設計やレビューに関して共同作業を前提にした意図は何か。25字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 A 社社内にスキルをもった人材を育成するため

解説

 ー

 

(3)本文中の下線⑤についてB課長がこのように全員で議論することにした狙いは何か。30字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 メンバーに多様な視点からの意見を理解してもらうため

解説

 ー

 

設問3 〔開発・運用プロセスの整備〕について答えよ。

 

(1)本文中の下線⑥について,B課長が考えた,Aプロジェクトの最優先の目標の達成に寄与する,自動化ツールの導入効果とは何か。20字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 デプロイまでの時間を短縮する効果

解説

 ー

 

(2)本文中の下線⑦について,B課長がこのようなプロセスに見直すことにした狙いは何か。35字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 ガバナンス規程を遵守しつつ,安定した運用を提供すること

解説

 ー

 

IPA公開情報

出題趣旨

 プロジェクトマネージャ(PM)は,新規事業を実現するためのプロジェクトにおいては,現状の体制やプロセスにとらわれずに,プロジェクトの計画を作成する必要がある。
 本問では,アパレル業において EC サイトを刷新し,仮想店舗構想実現を目的とするプロジェクトを題材と して,顧客要望を迅速かつ的確に把握して対応できるプロジェクトチームの編成,顧客体験価値を迅速に提供するための,社内外の知識の集約や開発・運用プロセスの整備などを反映したプロジェクト計画の作成について,PM としての知識と実践的な能力を問う。

採点講評

 問 2 では,EC サイトを刷新し新たな事業を実現するためのプロジェクトを題材に,顧客の要望を迅速かつ的確に把握して対応できるプロジェクトについて出題した。全体として正答率は平均的であった。 設問 3(1)は,正答率が低かった。“A プロジェクトの最優先の目標”そのものを解答した受験者が多かった。 “A プロジェクトの最優先の目標”に自動化ツールがどのように寄与するかを読み取った上で正答を導き出してほしい。
 設問 3(2)は,正答率が低かった。“無駄を省く”,“効率化を図る”といった点を解答した受験者が散見された。運用課へのヒアリングから,“ガバナンス規程の遵守”は必須であり,これに対応するためのプロセスに見直すことでデプロイツールを導入しつつ,安定した運用を実現することが狙いであることを理解してほしい。

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