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PM 令和4年度秋期 午後Ⅰ 問3

   

プロジェクトにおけるチームビルディングに関する次の記述を読んで,設問に答えよ。

 F社は,玩具製造業である。F社の主要事業は,トレーディングカードなどの玩具を製造して,店舗又はインターネットで顧客に販売することである。
 近年,顧客はオンラインゲームを志向する傾向が強まっていて,F社の売上げは減少してきている。そこでF社経営層は,新たな顧客の獲得と売上げの向上を目指すために,“玩具を製造・販売する事業”から“遊び体験を提供する事業”へのデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に取り組むことにした。その具体的な活動として,まずはトレーディングカードの電子化から進めることにした。この活動は,DXを推進する役割を担っている事業開発部を管掌している役員がCDO(Chief Digital Officer)として担当する新事業と位置付けられ,新事業の実現を目的とするシステム開発プロジェクト(以下,本プロジェクトという)が立ち上げられた。

〔システム開発の現状〕
 本プロジェクトのプロジェクトマネージャ(PM)は,システム部の担当部長のG氏である。G氏は,1年前にBtoC企業のIT部門からF社に入社し,1年間の業務を通じてシステム部を取り巻くF社の状況を次のように整理していた。

(1)経営層の多くは,事業を改革するために戦略的にシステム開発プロジェクトを実施するとの意識がこれまでは薄く,プロジェクトチームの使命は,予算や納期などの設定された目標の達成であると考えてきた。しかし,CDOをはじめとする一部の役員は,DXを推進するためには,システム開発プロジェクトの位置付けを変えていく必要があると経営会議で強調してきており,最近は経営層の意識が変わってきている。

(2)事業開発部では,経営状況を改善するにはDXの推進が重要となることが理解されており,新事業を契機として,システムの改革を含むDXの推進方針を定め,その推進方針に沿って活動している。社員は,担当する事業ごとにチームを編成して,事業の開発に取り組んでいる。

(3)事業部門の幹部社員には,現在のチーム作業のやり方でF社の事業を支えてきたとの自負がある。これによって,幹部社員をはじめとした上長には支配型リーダーシップの意識が強く,社員の意思をチーム作業に生かす姿勢が乏しい。一方,社員は,チームにおいて自分に割り当てられた作業は独力で遂行しなければならないとの意識が強い。社員の多くは,システムは業務効率化の実現手段でしかなく,コストが安ければよいとの考えであり,DXの推進には消極的な姿勢である。また,システムに対する要求事項を提示した後は,日常の業務が多忙なこともあって,システム開発への関心が薄い。しかし,一部の社員はDXの推進に関心をもちこの環境の下で業務を行いつつも,部門としての意識や姿勢を改革する必要があると考えている。

(4)システム部は,事業部門の予算で開発を行うコストセンターの位置付けであり,事業部門によって設定された目標の達成を使命として活動している。近年は経営状況の悪化によって予算が削減される一方で,事業部門によって設定される目標は次第に高くなっている状況である。これまでのF社のプロジェクトチームのマネジメントは,PMによる統制型のマネジメントであり,メンバーが自分の意見を伝えづらかった。事業部門の指示に応じた作業が中心となっていて,モチベーションが低下する社員もいるが,中にはDXの推進に関心をもち,自らスキルを磨くなど,システム開発の在り方を変革しようとする意識をもっている社員もいる。

 

プロジェクトチームの編成
 CDOとG氏は,これまでのように事業部門の指示を受けてシステム部の社員だけでシステム開発をするプロジェクトチームの編成や,事業部門によって設定された目標の達成を使命とするプロジェクトチームの運営方法では,本プロジェクトで求められているDXを推進するシステム開発は実現できないと考えた。そこで,全社横断で20名程度のプロジェクトチームを編成し,プロジェクトの目的の実現に向けて能動的に目標を定めることのできるチームを目指してチームビルディングを行うことにした。
 G氏は,プロジェクトチームの編成に当たって,既に選任済みのシステム部及び①事業開発部のメンバーに加えて,業務の知識や経験をもち,またDXの推進に関心のある社員が必要と考えた。そこで,G氏は,本プロジェクトには事業部門の社員を参加させること,その際,必要なスキル要件を明示して②社内公募とすることをCD0に提案し,了承を得た。社内公募の結果,事業部門の社員から応募があった。G氏は,応募者と面談して本プロジェクトのメンバーを選任し,プロジェクトチームのメンバーに加えた。
 G氏は,全メンバーを集めて,目指すチームの姿を説明し,その実現のために③CDOからメンバーにメッセージを伝えてもらうことにした。

プロジェクトチームの形成
 G氏は,チームビルディングにおいて,メンバーを支援することが自らの役割であると考えた。そこで,これまでの各部門でのチーム作業の中で困った点や反省点などについて,全メンバーに④無記名アンケートを実施し,次の状況であることを確認した。

・対立につながる可能性のある意見を他のメンバーに伝えることを恐れている者が多い。その理由は,自分は他のメンバーを信頼しているが,他のメンバーは自分を信頼していないかもしれないと懸念を感じているからである。

・どの部門にも,チーム作業の経験のあるメンバーの中には,チームの一員としてチームのマネジメントへの参画に関心が高い者がいる。しかし,これまでのチーム作業では,自分の考えをチームの意思決定のために提示できていない。後になって自分の考えが採用されていれば,チームにとってより良い意思決定になったかもしれないと後悔している者も多い。

・チーム作業の遂行において,自分の能力不足によって困難な状況になったときに,他のメンバーの支援を受ければ早期に解決できたかもしれないのに,支援を求めることができずに苦戦した者が多い。

 

 G氏は,これまでに見てきたF社の状況と無記名アンケートの結果を照らし合わせて,これまでのPMによる統制型のマネジメントからチームによる自律的なマネジメントへの転換を進めることにした。

プロジェクトチームの運営
 G氏は,チームによる自律的なマネジメントを実施するに当たってメンバーとの対話を重ね,本プロジェクトチームの運営方法を次のとおり定めることをメンバーと合意した。

・メンバーは⑤対立する意見にも耳を傾け,自分の意見も率直に述べる

・プロジェクトの意思決定に関しては,PMからの指示を待つのではなく,⑥メンバ一間での対話を通じてプロジェクトチームとして意思決定する。

・メンバーは,他のメンバーの作業がより良く進むための支援や提案を行う。⑦自分の能力不足によって困難な状況になったときは,それを他のメンバーにためらわずに伝える

 

 また,G氏は,本プロジェクトでは,予算や期限などの目標は定めるものの,プロジェクトの目的を実現するために有益であれば,事業開発部と協議して⑧予算も期限も柔軟に見直すこととし,CDOに報告して了承を得た。
 G氏は,これらのプロジェクトチームの運営方法を実践し続けることによって,メンバーの意識改革が進み,目指すチームが実現できると考えた。

設問1 〔プロジェクトチームの編成〕について答えよ。

 

(1)本文中の下線①について,G氏が事業開発部のメンバーに期待した,本プロジェクトでの役割は何か。30字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 DX の推進方針とプロジェクトの実施内容の整合を取る役割

解説

 ー

 

(2)本文中の下線②について,G氏が本プロジェクトに参加する事業部門の社員を,社内公募とすることにした狙いは何か。25字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 DX の推進に意欲をもった社員を集めること

解説

 ー

 

(3)本文中の下線③について,G氏がCDOに伝えてもらうことにしたメッセージの内容は何か。CDOが直接伝える理由とともに,35字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 チームの運営方法を改革することを,経営の意思として示すため

解説

 ー

 

設問2 〔プロジェクトチームの形成〕の本文中の下線④について,G氏がアンケートを無記名とした狙いは何か。20字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 メンバーの本音の意見を把握すること

解説

 ー

 

設問3 〔プロジェクトチームの運営〕について答えよ。

 

(1)本文中の下線⑤について,対立する意見にも耳を傾け,自分の意見も率直に述べることによって,メンバーにとってプロジェクトチームの状況をどのようにしたいとG氏は考えたのか。25字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 メンバーの心理的安全性が確保された状況

解説

 ー

 

(2)本文中の下線⑥について,メンバー間での対話を通じて意思決定することによって,これまでのチームの運営方法では得られなかったチームマネジメント上のどのような効果が得られるとG氏は考えたのか。30字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 ・多様な考えに基づいた,より良い意思決定ができる。
 ・チームのパフォーマンスが最大限に発揮できる。

解説

 ー

 

(3)本文中の下線⑦について,自分の能力不足によって困難な状況になったときに,それを他のメンバーにためらわずに伝えることによって,どのような効果が得られるとG氏は考えたのか。30字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 他のメンバーの支援によって状況を速やかに解決できる。

解説

 ー

 

(4)本文中の下線⑧について,G氏が,必要に応じて予算も期限も柔軟に見直すことにした理由は何か。30字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 予算や期限よりも新事業の実現が優先されるから

解説

 ー

 

IPA公開情報

出題趣旨

 プロジェクトマネージャ(PM)は,プロジェクトチームのメンバーを選定し,プロジェクトチームのマネジメントルールを定めるとともに,リーダーシップを発揮して,プロジェクトの目標を実現するようにチームビルディングを行う必要がある。
 本問では,玩具製造会社での新事業の実現を目的とするシステム開発のプロジェクトを題材として,意欲のあるメンバーの選定,多様性による価値創造を狙ったチームの形成,チームによる自律的なマネジメントの実現及び支援型リーダーシップの発揮について,PM としての実践的な能力を問う。

採点講評

 問 3 では,DX の実現を目的とするシステム開発プロジェクトを題材に,自律的なマネジメントを行うための チームビルディングについて出題した。全体として正答率は平均的であった。
 設問 1(1)は,正答率が低かった。“DX を推進する役割”や“DX の推進が重要であることをメンバーに伝える 役割”と解答した受験者が多かった。プロジェクトの目的は“新事業の実現”である。DX を推進する事業開発 部のメンバーをプロジェクトのメンバーとして選任することの意味を理解し,正答を導き出してほしい。
 設問 3(4)は,正答率がやや低かった。プロジェクトの目的や目標と,経営の目的を混同した解答が散見された。プロジェクトマネジメント業務を担う者として,“プロジェクトの目的を実現するために有益”という観 点を意識する必要があることを理解してほしい。

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