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PM 令和3年度秋期 午後Ⅰ 問1

   

新たな事業を実現するためのシステム開発プロジェクトにおけるプロジェクト計画に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

 中堅の生命保険会社のD社は,保険代理店や多数の保険外交員による顧客に対するきめ細かな対応を強みに,これまで主に自営業者や企業内の従業員などをターゲットにした堅実な経営で企業ブランドを築いてきた。D社には,この強みを継続していけば今後も安定した経営ができるとの思いが強かったが,近年は新しい保険商品の開発や新たな顧客の開拓で他社に後れを取っていた。D社経営層は今後の経営を危惧し,経営企画部に対応策の検討を指示した。その結果,“昨今の規制緩和に対応し,また最新のデジタル技術を積極的に活用して,他社に先駆けて新たな顧客層へ新しい保険商品を販売する事業(以下,新事業という)”の実現を事業戦略として決定した。新事業では,個人向けにインターネットなどを活用したマーケティングやダイレクト販売を行って,新たな顧客層を開拓する。また,顧客のニーズ及びその変化に対応した新しい保険商品を迅速に提供する計画である。
 D社は,規制緩和に柔軟に対応して事業戦略を実現するために,新たに100%出資の子会社(以下,G社という)を設立し,D社から社員を出向させることにした。G社は,D社で事前に検討した幾つかの新しい保険商品を基に,できるだけ早くシステムを開発し,新たな顧客層へ新しい保険商品の販売を開始することにしている。一方,新しい保険商品に対して顧客がどのように反応するかが予測困難であるなど,その事業運営には大きな不確実性があり,事業の進展状況を見ながら運営していく必要がある。

〔D社のシステム開発の現状とG社の概要〕
 D社では,事業部門である商品開発部及び営業部が提示する要求事項に基づいて,システム部のメンバで編成したプロジェクトチームでシステムを開発している。きめ細かなサービスを実現するために,大部分の業務ソフトウェアをシステム部のメンバが自社開発していて,ソフトウェアパッケージの利用は最小限にとどまっている。運用も自社データセンタで,保険代理店の要望に応じてシステム部が運用時間を調整するなどきめ細かく対応している。システム部のメンバはベテランが多く,また実績のある技術を使うという方針もあり,開発や運用でのトラブルは少ない。一方,業務要件の変更や新規の保険代理店の追加などへの対応に柔軟さを欠くことが,新しい保険商品の開発や新たな顧客の開拓において他社に後れを取る原因の一つであった。
 G社設立に当たり,D社経営企画部は,G社におけるシステム開発プロジェクトの課題を次のように整理した。

・新事業の運営には大きな不確実性があるので,システム開発に伴う初期投資を抑える必要があること。

・顧客のニーズや他社動向の急激な変化が予想され,この変化にシステムの機能やシステムのリソースも迅速に適応できるようにする必要があること。

・最新のデジタル技術の利用は,実績のある技術の利用とは異なり,多様な技術の中から仮説と検証を繰り返して実現性や適合性などを評価し,採用する技術を決定する必要があること。ただし,多くの時間を掛けずに,迅速に決定する必要があること。

 

 これらの課題に対してD社経営層は,D社には最新のデジタル技術の知識や経験が不足していることから,G社の設立時においては,出向者に加えて必要なメンバを社外から採用することにした。
 G社の組織は,本社機構,事業部及びシステム部から成る。約30名の体制で事業を開始する計画で,その準備をしているところである。G社経営層は4名で構成され,D社経営企画担当の役員がG社の社長を兼務し,残りの3名は,D社からの異動者1名,外部の保険関係の企業から1名,外部のIT企業から1名という構成である。各部門も,半数は最新の保険業務やITに詳しいメンバを社外から採用する。

プロジェクトの立上げ
 D社で事前に検討した幾つかの新しい保険商品を提供するためのG社のシステム開発プロジェクト(以下,Gプロジェクトという)は,従来のD社のシステム開発プロジェクトとは特徴が大きく異なるので,G社社長は,D社システム部にはプロジェクトマネージャ(PM)の適任者がいないと考えていた。G社社長は,かつてD社システム部管掌時に接した多くのベンダのPMから,特にデジタル技術を活用した事業改革を実現するデジタルトランスフォーメーション(DX)に知見があるH氏が適任と考えた。H氏は,G社社長からの誘いに応じてG社に転職し,G社システム部長兼PMに任命された。現在H氏は,Gプロジェクトの立上げを進めている。
 H氏は,D社経営企画部が整理したG社におけるシステム開発プロジェクトの課題を解決する方策を,G社の本社機構,事業部及びシステム部のキーパーソンとともに検討した。その結果,次のような特徴をもつクラウドサービスの利用が課題の解決に有効であると考えて,G社経営層に提案し,G社役員会で承認を得た。

①使用するサービスの種類やリソースの量に応じて課金される

・サービスやリソースを柔軟に選択できるので,②Gプロジェクトを取り巻く環境に適合する

③最新の多様なデジタル技術を活用する際にその技術を検証するための環境が備わっており,実現性や適合性を効率良く評価できる

 

プロジェクト計画
 H氏は,プロジェクト計画の作成を開始した。Gプロジェクトのスコープは販売する保険商品やその販売状況に左右される。先行して販売する保険商品は決まったが,これに対する顧客の反応などを含む事業の進展状況に従って,プロジェクトのスコープが明確になっていく。Gプロジェクトを計画する上で必要な情報が事業の進展状況によって順次明らかになることから,H氏は,④ある方法でプロジェクト計画を作成することにした。
 H氏は,システム部を10名程度のメンバで発足することにした。既にD社システム部から5名が出向していたので,残りの5名前後を社外から採用する。H氏は,G社社長とも協議の上,採用面接に当たってはクラウドサービスなどの技術に詳しいことに加えて,⑤多様な価値観を受け入れ,それぞれの知見を生かして議論できることを採用基準として重視した。この採用基準に沿って,採用は順調に進んでいる。

ステークホルダへのヒアリング
 H氏は,Gプロジェクトのステークホルダは多様なメンバから構成されることから,G社社長以下の役員に対し,プロジェクト運営に関してヒアリングした。その結果は次のとおりである。

・D社からの異動者は,顧客や築いてきたブランドへの悪影響がないことを重視して,脅威のリスクは取りたくないという考え方であった。一方,社外から採用したメンバは,斬新なチャレンジを重視して,脅威のリスクに対応するだけでなく,積極的に機会のリスクを捉えて成果を最大化することに取り組むべき,との考え方であった。

・G社社長は,脅威のリスクへの対応について,軽減又は受容の戦略を選択する場合には,組織のリスク許容度に基づいてリスクを適切に評価する,という考え方であった。また,機会のリスクについても適切にマネジメントしていくべき,という考え方であった。

 

 H氏は,ヒアリングの結果から,Gプロジェクトのリスクへの対応に留意する必要があると感じた。そこで,Gプロジェクトのリスク対応計画における戦略選択の方針を表1のように定め,全役員に了解を得ることにした。

表1 リスク対応計画における戦略選択の方針
脅威のリスクへの対応 機会のリスクへの対応
戦略 戦略選択の方針 戦略 戦略選択の方針
  a   法令違反など,新事業の存続を揺るがすような脅威に適用する。 活用 確実に捉えるべき機会に適用する。
軽減 組織の  b  を上回る脅威に適用する。   c   影響度や発生確率を高めることで,事業の実現に効果が高い機会に適用する。
  d   セキュリティの脅威など,外部の専門組織に対応を委託できる脅威に適用する。 共有 第三者とともに活動することで,捉えやすく,成果が大きくなる機会に適用する。
受容 組織の  b  と同等か下回る脅威に適用する。 受容 特別な戦略を策定しなくてもよいと判断した機会に適用する。

 H氏は,G社のメンバの多様な経験や知見を最大限生かす観点から,Gプロジェクトのプロジェクトチームを⑥“ある方針”で編成するのが適切であると考えていた。そこで,H氏は,事業部とシステム部の社員に,状況をヒアリングした。両部とも,部内ではD社からの出向者,社外出身者を問わず,業務プロセスやシステムについて,多様な経験や知見を生かして活発に議論していることが確認できた。しかし,事業部の中には,事業部内で議論して整理した結果をシステム部のプロジェクトに要求事項として提示することが役割だと考えているメンバが複数いた。また,システム部の中には事業部から提示された要求事項を実現することが役割だという考えのメンバが複数いた。H氏は,こうした状況を改善し,新事業を一体感をもって実現するためにも,当初考えていた“ある方針”のままプロジェクトチームを編成するのがよいと考えた。

設問1 〔プロジェクトの立上げ〕について(1)〜(3)に答えよ。

 

(1)本文中の下線①について,H氏が,Gプロジェクトでは使用するサービスの種類やリソースの量に応じて課金されるクラウドサービスを利用することにした狙いは何か。30字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 システム開発に伴う初期投資を抑えるため

解説

 ー

 

(2)本文中の下線②について,H氏は,サービスやリソースを柔軟に選択できることは,Gプロジェクトを取り巻くどのような環境に適合すると考えたのか。30字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 顧客のニーズや他社動向の急激な変化が予想される環境

解説

 ー

 

(3)本文中の下線③について,H氏がGプロジェクトでのデジタル技術の活用において,実現性や適合性を効率良く評価できることが課題の解決に有効であると考えた理由は何か。30字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 仮説と検証を多くの時間を掛けず繰り返し実施できるから

解説

 ー

 

設問2 〔プロジェクト計画〕について(1),(2)に答えよ。

 

(1)本文中の下線④について,H氏がGプロジェクトの計画を作成する際に用いたのは,どのような方法か。35字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 計画の内容を事業の進展状況に合わせて段階的に詳細化する。

解説

 ー

 

(2)本文中の下線⑤について,H氏がこのようなことを採用基準として重視した狙いは何か。25字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 多様な知見を活用し,新事業を実現するため

解説

 ー

 

設問3 〔ステークホルダへのヒアリング〕について(1),(2)に答えよ。

 

(1)表1中の  a    d  に入れる適切な字句を答えよ。

 

解答・解説
解答例

 a:回避
 b:リスク許容度
 c:強化
 d:転嫁 又は 移転

解説

 ー

 

(2)本文中の下線⑥について,H氏がGプロジェクトのプロジェクトチームの編成に当たり適切と考えた方針は何か。30字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 組織横断的に事業部とシステム部のメンバを参加させる。

解説

 ー

 

IPA公開情報

出題趣旨

 プロジェクトマネージャ(PM)は,現状を抜本的に変革するような事業戦略に対応したプロジェクトにおいては,現状を正確に分析した上で,前例にとらわれずにプロジェクトの計画を作成する必要がある。本問では,生命保険会社の子会社設立を通じて,新たな事業を実現するためのシステム開発プロジェクトを題材としている。デジタルトランスフォーメーション(DX)などの新しい考え方を取り入れたり,必要な人材を社外から集めたりして事業戦略を実現すること,プロジェクト計画を段階的に詳細化するようなプロジェクトの特徴にあった修整をすることなど,不確実性の高いプロジェクトにおける計画の作成やリスクへの対応について,PM としての知識と実践的な能力を問う。

採点講評

 問 1 では,新たな事業を実現するためのシステム開発プロジェクトを題材に,不確実性の高いプロジェクトにおけるプロジェクト計画の作成やリスクへの対応について出題した。全体として正答率は平均的であった。 設問 2(2)は,正答率が低かった。単に G 社に足りない技術や知見の獲得を狙った解答が散見された。新事業の実現のためには,個々のメンバが変化を柔軟に受け入れ,多様な知見を組織として活用する必要があること を読み取って解答してほしい。
 設問 3(2)は,正答率がやや低かった。事業部のメンバとシステム部のメンバが,それぞれの役割を組織の枠内に限定して考えている状況をよく理解し,組織として一体感をもってプロジェクトを進めるためには,事業部とシステム部のメンバを混在させたチーム編成にする必要がある点を読み取って解答してほしい。

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