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PM 令和3年度秋期 午後Ⅰ 問2

   

業務管理システムの改善のためのシステム開発プロジェクトに関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

 L社は,健康食品の通信販売会社であり,これまでは堅調に事業を拡大してきたが,近年は他社との競合が激化してきている。L社の経営層は競争力の強化を図るため,顧客満足度(以下,CSという)の向上を目的とした活動を全社で実行することにした。この活動を推進するためにCS向上ワーキンググループ(以下,CSWGというを設置することを決定し,経営企画担当役員のM氏がリーダとなって,本年4月初めからCSWGの活動を開始した。
 L社はこれまでにも,商品ラインナップの充実,顧客コミュニティの運営,顧客チャネル機能の拡張としてのスマートフォン向けアプリケーションの提供などを進めてきた。L社ではCS調査を半年に一度実施しており,顧客コミュニティを利用してCSを5段階で評価してもらっている。これまでのCS調査の結果では,第4段階以上の高評価の割合が60%前後で推移している。L社経営層は,CSが高評価の顧客による購入体験に基づく顧客コミュニティでの発言が売上向上につながっているとの分析から,高評価の割合を80%以上とすることをCSWGの目標にした。
 CSWGの進め方としては,施策を迅速に展開して,CS調査のタイミングでCSと施策の効果を分析し評価する。その結果を反映して新たな施策を展開し,半年後のCS調査のタイミングで再びCSと施策の効果を分析し評価する,というプロセスを繰り返し,2年以内にCSWGの目標を達成する計画とした。
 施策の一つとして,販売管理機能,顧客管理機能及び通販サイトなどの顧客接点となる顧客チャネル機能から構成されている業務管理システム(以下,L社業務管理システムという)の改善によって,購入体験に基づく顧客価値(以下,顧客の体験価値という)を高めることでCS向上を図る。L社業務管理システムの改善のためのシステム開発プロジェクト(以下,改善プロジェクトという)を,CSWGの活動予算の一部を充当して,本年4月中旬に立ち上げることになった。
 改善プロジェクトのスポンサはM氏が兼任し,プロジェクトマネージャ(PM)にはL社システム部のN課長が任命された。プロジェクトチームのメンバはL社システム部から10名程度選任し,内製で開発を進める。2年以内にCSWGの目標を達成する必要があることから,改善プロジェクトの期間も最長2年間と設定された。
 なお,M氏から,目標達成には状況の変化に適応して施策を見直し,新たな施策を速やかに展開することが必要なので,改善プロジェクトも要件の変更や追加に迅速かつ柔軟に対応してほしい,との要望があった。

L社業務管理システム
 現在のL社業務管理システムは,L社業務管理システム構築プロジェクト(以下,構築プロジェクトという)として2年間掛けて構築し,昨年4月にリリースした。
 N課長は,構築プロジェクトでは開発チームのリーダであり,リリース後もリーダとして機能拡張などの保守に従事していて,L社業務管理システム及び業務の全体を良く理解している。L社システム部のメンバも,構築プロジェクトでは機能ごとのチームに分かれて開発を担当したが,リリース後はローテーションしながら機能拡張などの保守を担当してきたので,L社業務管理システム及び業務の全体を理解したメンバが育ってきている。
 L社業務管理システムは,業務プロセスの抜本的な改革の実現を目的に,処理の正さ(以下,正確性という)と処理性能の向上を重点目標として構築され,業務の効率化に寄与している。業務の効率化はL社内で高く評価されているだけでなく,生産性の向上による戦略的な価格設定や新たなサービスの提供を可能にして,CS向上にもつながっている。また,構築プロジェクトは品質・コスト・納期(以下,QCDという)の観点でも目標を達成したことから,L社経営層からも高く評価されている。

 N課長は,改善プロジェクトのプロジェクト計画を作成するに当たって,社内で高く評価された構築プロジェクトのプロジェクト計画を参照して,スコープ,QCD,リスク,ステークホルダなどのマネジメントプロセスを修整し,適用することにした。N課長は,まずスコープとQCDのマネジメントプロセスの検討に着手した。その際,M氏の意向を確認した上で,①構築プロジェクトと改善プロジェクトの目的及びQCDに対する考え方の違いを表1のとおりに整理した

表1 構築プロジェクトと改善プロジェクトの目的及びQCDに対する考え方の違い
項目 構築プロジェクト 改善プロジェクト
目的 L社業務管理システムの構築によって,業務プロセスの抜本的な改革を実現する。 L社業務管理システムの改善によって,顧客の体験価値を高めCS向上の目標を達成する。
品質 正確性と処理性能の向上を重点目標とする。 現状の正確性と処理性能を維持した上で,顧客の体験価値を高める。
コスト 定められた予算内でのプロジェクトの完了を目指す。要件定義完了後は,予算を超過するような要件の追加や変更は原則として禁止とする。 CSWGの活動予算の一部として予算が制約されている。
納期 業務プロセスの移行タイミングと合わせる必要があったので,リリース時期は必達とする。 CS向上が期待できる施策に対応する要件ごとに迅速に開発してリリースする。

スコープ定義のマネジメントプロセス
 N課長は,表1から,改善プロジェクトにおけるスコープ定義のマネジメントプロセスを次のように定めた。

・CSWGが,施策ごとにCS向上の効果を予測して,改善プロジェクトへの要求事項の一覧を作成する。そして,改善プロジェクトは技術的な実現性及び影響範囲の確認を済ませた上で②全ての要求事項に対してある情報を追加する。改善プロジェクトが追加した情報も踏まえて,CSWGと改善プロジェクトのチームが協議して,CSWGが要求事項の優先度を決定する。

・改善プロジェクトでは優先度の高い要求事項から順に要件定義を進め,③制約を考慮してスコープとする要件を決定する

・CSWGが状況の変化に適応して要求事項の一覧を更新した場合,④改善プロジェクトのチームは,直ちにCSWGと協議して,速やかにスコープの変更を検討しCSWGの目標達成に寄与する

 

 N課長は,これらの方針をM氏に説明し了承を得た上でCSWGに伝えてもらい,CS向上の目標達成に向けてお互いに協力することをCSWGと合意した。

QCDに関するマネジメントプロセス
 N課長は,表1から,改善プロジェクトにおけるQCDに関するマネジメントプロセスを次のように定めた。

・改善プロジェクトは,要件ごとに,要件定義が済んだものから開発に着手してリリースする方針なので,要件ごとにスケジュールを作成する。

・一つの要件を実現するために販売管理機能,顧客管理機能及び顧客チャネル機能の全ての改修を同時に実施する可能性がある。迅速に開発してリリースするには,構築プロジェクトとは異なり,要件ごとのチーム構成とするプロジェクト体制が必要と考え,可能な範囲で⑤この考えに基づいてメンバを選任する

・リリースの可否を判定する総合テストでは,改善プロジェクトの考え方を踏まえて⑥必ずリグレッションテストを実施し,ある観点で確認を行う

・システムのリリース後に実施するCS調査のタイミングで,CSWGがCSとリリースした要件の効果を分析し評価する際,⑦改善プロジェクトのチームは特にある効果について重点的に分析し評価してCSWGと共有する

 

設問1 〔L社業務管理システム〕の本文中の下線①について,N課長が,改善プロジェクトのプロジェクト計画を作成するに当たって,プロジェクトの目的及びQCDに対する考え方の違いを整理した狙いは何か。35字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 違いに基づきマネジメントプロセスの修整内容を検討するから

解説

 ー

 

設問2 〔スコープ定義のマネジメントプロセス〕について,(1)〜(3)に答えよ。

 

(1)本文中の下線②について,改善プロジェクトが追加する情報とは何か。20字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 要求事項の開発に必要な期間とコスト

解説

 ー

 

(2)本文中の下線③について,改善プロジェクトはどのような制約を考慮してスコープとする要件を決定するのか。20字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 予算の範囲内に収まっていること

解説

 ー

 

(3)本文中の下線④について,N課長は,改善プロジェクトが速やかにスコープの変更を検討することによって,CSWGの目標達成にどのようなことで寄与すると考えたのか。30字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 状況の変化に適応し,新たな施策を速やかに展開すること

解説

 ー

 

設問3 〔QCDに関するマネジメントプロセス〕について,(1)〜(3)に答えよ。

 

(1)本文中の下線⑤について,N課長はどのようなメンバを選任することにしたのか。30字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 L 社業務管理システム及び業務の全体を理解したメンバ

解説

 ー

 

(2)本文中の下線⑥について,N課長が,総合テストで必ずリグレッションテストを実施して確認する観点とは何か。25字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 現状の正確性と処理性能が維持されていること

解説

 ー

 

(3)本文中の下線⑦について,改善プロジェクトのチームが重点的に分析し評価する効果とは何か。30字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 リリースした要件による顧客の体験価値向上の度合い

解説

 ー

 

IPA公開情報

出題趣旨

 プロジェクトマネージャ(PM)は,近年の多様化するプロジェクトへの要求に応えてプロジェクトを成功に導くために,プロジェクトの特徴を捉え,その特徴に合わせて適切なプロジェクト計画を作成する必要がある。
 本問では,顧客満足度を向上させる活動の一環としてのシステム開発プロジェクトを題材としている。顧客満足度向上の目標を事業部門と共有し,協力して迅速に目標を達成するというプロジェクトの特徴に合わせて,マネジメントプロセスを修整して,適切なプロジェクト計画を作成することについて,PM としての実践 的な能力を問う。

採点講評

 問 2 では,顧客満足度(以下,CS という)を向上させるというプロジェクトを題材に,プロジェクトの特徴に合わせたマネジメントプロセスの修整とプロジェクト計画の作成について出題した。全体として正答率は平 均的であった。
 設問 1 は,正答率がやや低かった。プロジェクトの違いを踏まえてマネジメントプロセスを修整する必要があることを理解しているかを問うたが,“プロジェクトの目標達成に必要な体制を整備する”,“要件の変更や追加に迅速かつ柔軟に対応できるようにする”,という解答が散見された。過去のプロジェクト計画を参照 し,適用する意味に着目してほしい。
 設問 2(1)は,正答率がやや低かった。改善プロジェクトから提供してもらう必要がある情報は何かを問うた が,“CS 向上の効果”や“優先度付けの情報”という解答が散見された。これは,CS 向上ワーキンググループと改善プロジェクトの役割を区別できていないからと考えられる。プロジェクトにおけるステークホルダの役割と追加する情報の利用目的を正しく理解してほしい。

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