資格部

資格・検定の試験情報、対策方法、問題解説などをご紹介

PM 令和2年度秋期 午後Ⅰ 問2

   

システム開発プロジェクトにおける,プロジェクトチームの開発に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

 P社は,ソフトウェア企業である。P社は,主要顧客であるE社から消費者向けのサービスを提供するシステムの機能追加・改善を行うプロジェクトを受託している。このプロジェクトは,期間は2年間,12名の要員で4か月間に1回のリリースを合計6回実施するものである。E社は,各リリースで実現したい機能追加・改善の要件を抽出して,当該リリースに向けた作業の着手前にP社に提示している。
 プロジェクト開始から10か月たった頃に,E社から“ビジネス環境が目まぐるしく変化している。この状況に適応するために,もっと迅速にサービスを改善して,時間を含めた投下資源に対して十分な価値を提供できるようにしたい。次回委託する予定の2年間のプロジェクトでは,優先的に実現する要件を現在よりも厳選するので,徐々に各リリースの間隔を短縮して,最終的には1〜2か月程度でリリースできるようにしてほしい。E社のサービスの提供価値を継続的かつ迅速に高めていくめにも,長期的な協力をお願いしたい。”との要望が上げられた。
 アジャイル開発の経験が豊富なP社のQ課長は,E社からの要望を実現することを使命として4か月前に現在の部署に着任し,プロジェクトマネージャ(PM)の補佐としてE社向けシステム開発プロジェクトチーム(以下,E社PTという)に加わった。Q課長は,このプロジェクトのリリース間隔の短縮を実現するための開発技術面での計画を作成し,その適用についてPMと協議してきた。
 プロジェクトのスケジュールを図1に示す。現在は,4回目のリリースが目前となり5回目のリリースに向けた作業の準備に取り掛かったところである。


図1 プロジェクトのスケジュール

 ところが,PMが急きょ,介護のために休職することになった。そこでQ課長が,このプロジェクトのPMに任命され,5回目のリリースに向けた作業から指揮をとることになった。任命に当たってP社経営層からは,“重要な顧客であるE社の顧客満足を,しっかり獲得し続けてほしい。現状のプロジェクトチームは今後も維持していく方針なので,長期的な視点で,プロジェクトチームの開発にも取り組んでほしい。”との言葉があった。

Q課長の観察
 Q課長は,リリース間隔の短縮を実現し,E社のサービスの提供価値を継続的かつ迅速に高めていくという期待に応えるためには,開発技術面での改善に加えて,E社PTの生産性の向上が不可欠だと考えていた。ここでQ課長が認識している生産性とは,“投入工数に対する開発成果物の量”といった開発者の視点から捉えた狭義の生産性ではなく,①顧客の視点から捉えた広義の生産性である。この生産性の向上のためには,E社PTの仕事のやり方とメンバの意識を変えることが必要であり,それらを実現する過程で,成長し続けるプロジェクトチームに変わる可能性も見えてくると考えていた。
 E社PTは,仕様管理・検証チームと開発チームの二つのサブチーム(ST)で構成されており,それぞれのSTにリーダ(以下,STリーダという)が配置されている。Q課長は着任後,仕事のやり方とメンバの意識に着目して,E社PTの状況を観察してきた。その内容を整理すると次のようになる。

・STリーダ同士,ST内のメンバ同士は1年にわたり一緒に仕事をしてきており,スキルや任務の遂行に関しては互いに信頼がある。

・過去の開発では,PMの強力なリーダシップとSTリーダをはじめとするメンバの頑張りで,QCDの目標を何とか達成してきた。

・これまで行動の基本原則について議論したことはなく,PMやSTリーダが都度,状況に応じた判断を下してきたので,ST内のメンバは,自律的に自ら考え判断して行動するよりも,PMやSTリーダの指示を待って行動する傾向が強い。PMやSTリーダの指示は,失敗を回避する意図から,詳細かつ具体的な内容にまで踏み込む傾向がある。

・STリーダやST内のメンバは,PMが決めた役割分担に基づいてその任務を忠実に遂行しているが,役割分担にこだわりすぎる面もあり,ST間の稼働が不均衡になることがある。例えば,上流工程での仕様の確定に手間取ると仕様管理・検証チームの稼働は高いのに開発チームが待ち状態になったり,テスト工程で不具合の改修が滞ると開発チームの稼働は高いのに仕様管理・検証チームは待ち状態になったりする。また,STを横断したメンバ間のコミュニケーションは少ない。

・E社PT全体として,直近のリリースのQCDの目標達成に有効な活動は積極的に行われるが,チームワークの改善やメンバの育成など将来に資する活動に使われる時間が少ない。

 

 Q課長は,これらの状況について,メンバはどのように認識しているのか,個別にヒアリングすることにした。その際に,②それぞれの状況に対してQ課長が抱いている肯定や否定の考えを感じさせないように気をつけることにした。

メンバへのヒアリング
 Q課長は,PM着任の挨拶で,“QCDの目標達成は非常に重要だが,一方で次年度からはリリース間隔を短縮する要望に応える計画や,サービスの提供価値を継続的かつ迅速に高めてほしいという顧客の期待もある。これらについて,まずは一人一人の考えをじっくり聞かせてほしい。”と話し,ヒアリングを開始した。
 全てのメンバとのヒアリングを終えて,Q課長は,自分が観察した状況とメンバの認識が合致していたことを確認した。一方,ヒアリング結果から判明した新たな状況があり,それらを次のように整理した。

・現在の固定化した役割分担は自分の成長につながるのか,このままでリリース間隔の短縮に対応できるのか,という不安をもっているメンバが多かった。

・上流工程での認識合わせが不十分だったことが原因で手戻りが発生するなど,ST間のコミュニケーションに問題があると考えているメンバがいた。

・ST内のメンバ同士が,相手の仕事に口を挟むことを遠慮してタイムリに意見交換をしなかったことによって,手戻りが多くなった,という意見があった。

・メンバがPMやSTリーダの指示を待って行動する傾向は,生産性の向上を妨げる原因になっているようだという認識が,ほぼ全員にあった。

 

 Q課長は,ヒアリング結果を整理した内容をメンバに示し,“顧客の期待に応えるためには,皆で一緒に考え,③ともに学び続けながら,成長し続けるプロジェクトチームになる必要があると思う。そのためには,E社PTの行動の基本原則を全員で議論して合意し,明文化して共有することが大切だと思う。その行動の基本原則に従って,具体的な活動についても検討し,実践していくことにしたいがどうだろうか。”と問いかけた。その問いかけに対する全員の同意を確認した上で,"1週間の期間を設けて何度かミーティングを開催し,今後のE社PTの行動の基本原則と実践する具体的な活動について議論しよう。”と告げた。

ミーティングでの議論
 初回のミーティングはぎこちない雰囲気だったが,Q課長が発言や意見交換を和やかに促していったことで,回を追うごとにメンバは,自分が大切だと思うE社PTの行動の基本原則と実践する具体的な活動についてオープンに議論するようになった。
 その結果,メンバの総意として次に示すE社PTの行動の基本原則を決定した。

(ⅰ)顧客の視点から捉えた広義の生産性の向上に継続的に取り組む。そのためには,指示を待つのではなく自律的に行動すること,役割分担にこだわらずに自由にコミュニケートすること,そして全ての機会を捉えて学び続けることを重視する。

(ⅱ)チームワークの改善やメンバの育成など将来に資する活動の時間を確保する。このことは,プロジェクトチームやメンバのためになるだけでなく,生産性の向上を通じて,顧客満足を獲得し続けることにつながる。そして,サービスの提供価値をE社と共創し向上させることは,最終的にE社PTの外部の④ある重要なステークホルダへの提供価値を高め続けることにつながる。

 

 また,次に示す,実践する具体的な活動についても併せて決定した。

(イ)E社PT内では互いに遠慮せず,必要なときにいつでも声を掛け合って,コミュニケーションの質と量を改善する。

(ロ)連携する他のSTの仕事を理解するためと,⑤ある具体的な課題を解消するために,ST間での役割分担を,プロジェクトの途中でも必要に応じて見直す。

(ハ)相互理解を更に深化させて役割の固定化の解消へつなげ,異なる視点から改善のアイディアを得ることを目的として,ST間で  a  を行う。

(ニ)ST内の他のメンバの仕事の内容,進め方及び考え方の理解に努める。ST内で役割の相互補完ができるように努める。

(ホ)行動の基本原則に従って,自律的に,失敗を恐れずに行動し,さらにその結果に責任をもつことに挑戦する。PMやSTリーダはこの挑戦を支援するに当たり,⑥メンバー人一人の成長のために,これまでとは異なる方法で対応する

 

 Q課長は,これらの具体的な活動を実践していけば,プロジェクトチームの活動がスムーズになり,生産性も向上して,8か月後にはリリース間隔の短縮への見通しも十分に立ってくるだろう,と考えた。

設問1 〔Q課長の観察〕について,(1),(2)に答えよ。

 

(1)Q課長が認識している本文中の下線①の顧客の視点から捉えた広義の生産性とは,どのようなものか。  ア  に対する  イ  の大きさ”と表現するとき,  ア    イ  に入れる適切な字句を答えよ。

 

解答・解説
解答例

 ア:時間を含めた投下資源
 イ:時間を含めた投下資源

解説

 ー

 

(2)Q課長は,本文中の下線②で,肯定や否定の考えを感じさせないように気をつけることで,どのようなヒアリング結果を得ようと考えたのか。30字以 内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 PM の考えに引きずられないメンバの真の考え

解説

 ー

 

設問2 〔メンバへのヒアリング〕について(1),(2)に答えよ。

 

(1)Q課長が,本文中の下線③で“学び続けながら”,“成長し続ける”という方針を示したのは,E社PTをどのような期待に応えるプロジェクトチームにするためか。25字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 提供価値を継続的に高めるという期待

解説

 ー

 

(2)Q課長が,E社PTの行動の基本原則について,全員で議論して合意し,明文化して共有することにしたのは,どのような意図からか。全員で議論して合意することにした意図と,明文化して共有することにした意図を,それぞ30字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 合意することにした 意図:メンバ全員が納得した上で行動に移れるようにするため
 明文化して共有する ことにした意図:メンバ全員が自律的に行動するための基準とするため

解説

 ー

 

設問3 〔ミーティングでの議論]について,(1)〜(4)に答えよ。

 

(1)本文中の下線④の重要なステークホルダとは誰か,答えよ。

 

解答・解説
解答例

 消費者

解説

 ー

 

(2)本文中の下線⑤の課題とは,どのような課題か。15字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 ST 間の稼働の不均衡

解説

 ー

 

(3)本文中の  a  に入れる,ST間で行うことを,15字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 メンバのローテーション

解説

 ー

 

(4)本文中の下線⑥について,どのような方法で対応するのか,30字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 自律的な判断と行動を尊重して,学びの機会を与える

解説

 ー

 

IPA公開情報

出題趣旨

 プロジェクトマネージャ(PM)は,プロジェクトを円滑に運営するために,プロジェクトチームの状況について的確に掌握し,プロジェクトチームの構成員に,必要な能力の獲得や自らの成長を促すための活動を計画する必要がある。
 本問では,顧客のサービスの提供価値を継続的かつ迅速に高めるために,システムのリリース間隔の短縮と持続的な成長を期待されるプロジェクトチームを題材として,プロジェクトチームの開発に関する実践的な能力を問う。

採点講評

 問 2 では,プロジェクトチームの開発について出題した。全体として正答率は高かった。顧客から,自社のサービスの提供価値を,継続的かつ迅速に高めていくために長期的な協力を期待されている状況において,市場に提供する価値を顧客と共創しつつ,プロジェクトチームの学習サイクルを回しながら成長させていこうとするプロジェクトマネージャの意図はよく理解されていた。
 設問 3(1)は,正答率がやや高かった。“重要な”ステークホルダとして,多くの受験者が“消費者”と解答したことは,社会に価値を提供することがプロジェクトの本質的な目的であることをしっかり意識して活動しているプロジェクトマネージャが多いことを示していると思われる。一方で,目の前の一部の“顧客”や“自社の経営層”と解答した受験者は,この機会にプロジェクトの本質的な目的について,見つめ直してほしい。
 設問 3(3)は,正答率が低かった。相互理解の更なる深化,役割の固定化の解消及び異なる視点からの改善のアイディアの獲得という目的で,サブチーム間で行うことを問うたが,自由なコミュニケーション,タイムリな意見交換,などの解答が散見された。役割の固定化の解消までつなげるには,抜本的な施策が必要である, という視点をもってほしかった。

前問 ナビ 次問