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PM 令和2年度秋期 午後Ⅰ 問1

   

デジタルトランスフォーメーション(DX)推進におけるプロジェクトの立ち上げに関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

 G社は,化学製品製造業の企業である。首都圏に本社を置き,全国を5地域に区切り,各地域に生産・物流の拠点としての工場を配置している。G社の製品は液体や気体を化学反応させて生産するものが多く,温度や湿度の変化によって,必要となる燃料や原材料の投入量が大きく変化する特性があり,これが生産コストに大きく影響する。
 G社は,これまで,規模の拡大に応じて工場の設備を増設してきたが,生産プロセスの最適化までは手が回らず,生産コスト増加の原因となっている。そこで,中期経営計画の中で,今期をデジタルトランスフォーメーション(DX)推進元年と位置付け,DX推進による生産コスト削減に取り組むことにした。全社のDX推進の責任者として,H取締役がCDO(Chief Digital Officer)に選任されている。
 役員会での協議を経て,工場の生産プロセスDXを今期の最優先案件とすることを決定し,戦略投資として一定の予算枠がCDOに任されることになった。
 進め方として,まず今期前半は,L工場でコスト削減効果の高い生産プロセスの最適化の案を検討する。この検討は,生産現場の業務(以下,現業という)を熟知している要員で進めるのがよいと判断し,現業部門主導で進める。最適化の案を検討するために利用するシステム(以下,DX検討システムという)をL工場に設置する。
 DX検討システムの構成要素を表1に示す。

表1 DX検討システムの構成要素
構成要素 説明
制御機器 燃料や原材料の投入量を制御する既設の装置
センサデバイス 温度や湿度を測定することを目的に新設する機器
運転支援ソフトウェアパッケージ 制御機器やセンサデバイスのデータを収集し,制御機器に最適な投入量をフィードバックする。AIに学習させることで,自動運転で生産プロセスを最適化することが可能。外部ベンダから新規導入する。

 次に今期後半には,その検討した最適化の案を基にL工場で生産プロセスの変更を行い,生産プロセスの自動運転を行うシステム(以下,自動化システムという)を完成させるシステム開発プロジェクト(以下,自動化プロジェクトという)を立ち上げる。自動化プロジェクトのプロジェクトマネージャ(PM)にはIT統括部のK課長を予定している。
 そして来期からは,L工場で完成した自動化システムを,全国の工場へ順次展開する。その第一弾として,L工場と製品構成が類似しているN工場に導入する計画になっている。

〔G社のIT組織〕
 G社では,システム開発案件は本社のIT統括部が,システム化全体計画の作成,業務プロセスや生産プロセスの分析,システムの設計から開発までを一括して行っている。
 各工場のシステムの運用・保守は,各工場のITサービス部(以下,ITSという)が担当している。最近では,各工場の業務内容を把握し,それらに沿った開発を行うために,小規模なシステム開発案件は各工場のITSがIT統括部と調整の上担当している。

〔L工場の生産プロセスDXの概要〕
 L工場での生産プロセスの最適化の案の検討は,L工場の製造部のM主任をリーダとした3人のDX検討チームで推進する。
 DX検討チームでは,DX検討システムを利用して,装置の稼働状況,温度・湿度及び燃料・原材料の投入状況のデータを継続的に収集し,そのデータを分析し,評価して,コスト削減効果の高い生産プロセスの最適化の案を固めるところまでを実施する。
 自動化プロジェクトでは,DX検討チームが作成した最適化の案を基に生産プロセスの設計と,運転支援ソフトウェアパッケージのパラメタ設定,制御機器とのインタフェースの開発を行い,一定期間,DX検討チームの監視下で自動運転を試行する。その結果を分析し,評価して,生産プロセスの再設計及び運転支援ソフトウェアパッケージのパラメタの設定値の変更を行う。これらをAIに学習させるサイクルを繰り返して,コスト削減効果の高い生産プロセスの自動運転方法を確立する。短期間でこのサイクルを繰り返し実施するために,データの分析・評価担当者,生産プロセスの設計者及びパラメタ設定担当者は常時一体となって活動する必要がある。最終的にはAIが温度や湿度の変化に応じてパラメタの設定値を自動的に変更して,コスト削減効果の高い生産プロセスの自動運転を行う自動化システムの完成を目標としている。

〔L工場の状況のヒアリング〕
 DX検討チームが活動を開始して2か月が経過した時点で,K課長は,自動化プロジェクトのプロジェクト全体計画を作成するために,L工場を訪問し,状況をヒアリングすることにした。
 K課長は,最初にL工場の工場長に訪問の趣旨を伝えた。その際,工場長からは,“工場は生産業務が本来の業務なので,DX検討チームのメンバの現業がおろそかにならないように注意して進めてほしい”と依頼された。
 次にM主任に話を聞いた。その内容は次のようなものであった。

・DX検討チームのメンバは,現業部門を兼務している。工場長からは現業をおろそかにしないようにとの注意があり,限られた時間の中で活動している。

・DX検討システムを利用してデータを収集し,そのデータの分析・評価を行う方法の説明をベンダから受けているが,DX検討チームのメンバはITの活用に慣れていないので,習得するのに時間が掛かっている。その結果,データを分析し,評価して,コスト削減効果の高い生産プロセスの最適化の案を検討する段階に進むことができず,進捗が遅れている。

 

 次に,K課長はL工場のITS部長を訪問し,次の状況を確認した。

・ITSは,従来の運用・保守に加えて,最近では小規模なシステム開発も担当範囲となり,業務負荷は高い。

・工場のシステムは製品の生産に直結しているものが多く,システムに異常が発生した場合には,自分たちで迅速に復旧できる技術を身に付けておく必要がある。

・システム開発は優先順位を付けて実施しており,全社的な重要案件は優先して対応することにしている。

・DX検討チームの活動については,ITSとして依頼を受けておらず,こちらでは状況は分からない。

 

K課長の提案
 K課長は,L工場の状況のヒアリングの結果からCDOにDX検討チームの状況を報告した上で,次の提案を行った。

① プロジェクト憲章の作成

 ・自動化プロジェクトのスコープにDX検討チームの作業を加え,最適化の案の検討の段階からプロジェクトを立ち上げる。

 ・自動化プロジェクトのプロジェクト憲章を早急に作成し,CDOから全社に向けて発表する。

 ・プロジェクト憲章には,プロジェクトの背景と目的,達成する目標,概略のスケジュール,利用可能な資源,PM及びプロジェクトチームの構成と果たすべき役 割を明記する。

 ・特に,プロジェクトの背景には,ある重要な決定事項を明記する。

② プロジェクトチームの編成

 ・CDOの直下にK課長を専任のPMとするプロジェクトチームを設置する。

 ・IT統括部からメンバを選任する。

 ・DX検討チームのメンバは,現業部門との兼務を解き,専任とする。

 ・L工場のITSからもメンバを選任する。

 ・N工場からもメンバを選任する。

 ・L工場及びN工場の工場長をオブザーバに任命する。

③ 自動化プロジェクトの進め方

 ・IT統括部のメンバは,DX検討システムを使用したデータの収集,データの分析・評価及び生産プロセスの最適化の案の検討を支援する。

 ・運転支援ソフトウェアパッケージによる自動運転のためのパラメタの設定値の変更及びAIに学習させる作業は,外部ベンダの協力を得てITSメンバが行い,来期の本番運用ではITSメンバだけで行えるよう技術習得を行う。

 

 CDOはK課長の提案を受け入れ,自動化プロジェクトのプロジェクト憲章の案を作成するようにK課長に指示した。

設問1 〔K課長の提案〕の1プロジェクト憲章の作成について,(1),(2)に答えよ。

 

(1)K課長が,CDOから全社に向けて,自動化プロジェクトのプロジェクト憲章を発表することを提案した狙いは何か。30字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 プロジェクトの承認を全社に伝え協力体制を確立するため

解説

 ー

 

(2)K課長が,プロジェクトの背景に明記することを提案した,ある重要な決定事項とは何か。35字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 役員会で工場の生産プロセス DX を今期の最優先案件としたこと

解説

 ー

 

設問2 〔K課長の提案〕の2プロジェクトチームの編成について,(1)〜(3)に答えよ。

 

(1)K課長が,CDOの直下にプロジェクトチームを設置することを提案した狙いは何か。30字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 全社からプロジェクトへ参加できる体制とするため

解説

 ー

 

(2)K課長が,DX検討チームのメンバを専任とすることを提案した狙いは何か。35字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 メンバが最適化の案を検討する時間を確保できるようにするため

解説

 ー

 

(3)K課長が,N工場からもメンバを選任することを提案した狙いは何か。30字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 来期からの横展開に必要な手順を習得してもらうため

解説

 ー

 

設問3 〔K課長の提案〕の3自動化プロジェクトの進め方について,(1),(2)に答えよ。

 

(1)K課長が,IT統括部のメンバがDX検討システムを使用したデータの収集,データの分析・評価及び生産プロセスの最適化の案の検討を支援することを提案した狙いは何か。35字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 IT とプロセス分析の専門家の支援で進捗の遅れを回復するため

解説

 ー

 

(2)K課長が,運転支援ソフトウェアパッケージによる自動運転のためのパラメタの設定値の変更及びAIに学習させる作業は,外部ベンダの協力を得てITSメンバが行い,来期の本番運用ではITSメンバだけで行えるよう技術習得を行うことを提案した狙いは何か。35字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 システムが異常の際は自分たちで迅速に対応できるようにするため

解説

 ー

 

IPA公開情報

出題趣旨

 プロジェクトマネージャ(PM)は,プロジェクト全体計画の作成に先立って,システム開発プロジェクトの責任者として,確実に便益を現実化するために,プロジェクト憲章の作成に積極的に取り組むことを求められる場合がある。
 本問では,化学製品製造業の企業における DX 推進を題材として,プロジェクト憲章を理解しているかどうか,具体的にプロジェクト憲章を作成し,プロジェクトチームを編成し,プロジェクトを立ち上げる実務能力を習得しているかどうかを問う。

採点講評

 問 1 では,化学製品製造業の企業における DX 推進を題材として,DX プロジェクトの特性を理解しているかどうか,プロジェクトを立ち上げる実務能力を習得しているかどうか,について出題した。全体として正答率は高かった。ただ,DX プロジェクトの特性として全社を横断した推進体制が必要となる点については,より一層の理解が求められる。
 設問 2(1)は,正答率がやや低かった。“予算をもっているから”という解答が散見され,プロジェクトチームの編成と予算執行の権限を混同している受験者がいた。CDO 直下にプロジェクトチームを置くことで,部門の制約にとらわれず,プロジェクトに専念できる体制で推進する狙いがあることを理解してほしかった。
 設問 2(2)は正答率が平均的であったが,現業部門と IT 部門が一体となって進めるという DX の特性を理解していない解答が多かった。現業部門の最適化の案の検討が完了しない限り,IT 部門のプロジェクトの作業は進められないことを理解してほしかった。
 設問 3(1)は,正答率がやや低かった。状況を説明する解答にとどまり,提案が遅延リスクを解消する目的で あることに触れていない解答が多かった。“DX 検討チームは IT に慣れていない”や,“プロジェクトの進捗が遅れている”などの解答は,プロジェクトの状況を説明しているだけであり,スキルのあるメンバを投入することでスケジュールの遅延を回避するというリスク対応が目的であることを明確に答えてほしかった。

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