システム統合の方式設計に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。
C社とD社は中堅の家具製造販売業者である。市場シェアの拡大と利益率の向上を図るために,両社は合併することになった。存続会社はC社とするものの,対等な立場での合併である。合併に伴う基幹システムの統合は,段階的に進める方針である。将来的には基幹システムを全面的に刷新して業務の統合を図っていく構想ではあるが,より早期に合併の効果を出すために,両社の既存システムを極力活用して業務への影響を必要最小限に抑えることにした。
〔合併前のC社の基幹システム〕
C社は全国のショッピングセンターを顧客とする販売網を構築しており,安価な価格帯の家具を量産・販売している。生産方式は見込み生産方式である。生産した商品は在庫として倉庫に入庫する。受注は,顧客のシステムと連携したEDIを用いて,日次で処理している。受注した商品は,在庫システムで引き当てた上で,配送システムが配送伝票を作成し,配送業者に配送を委託する。月初めに,顧客のシステムと連携したEDIで,前月納品分の代金を請求している。
合併前のC社の基幹システム(抜粋)を表1に示す。
システム名 | 主な機能 | 主なマスタ データ |
システム関連携 | システム構成 | ||
連携先 システム |
連携する 情報 |
連携 頻度 |
||||
販売 システム |
・受注(EDI) ・販売実績管理(月次) ・請求(EDI) ・売上計上 |
・顧客マスタ | 会計 システム |
売上情報 | 日次 | オンプレミス (ホスト系) |
生産 システム |
受注情報 | 日次 | ||||
生産 システム |
・生産計画作成(日次) ・原材料・仕掛品管理 ・作業管理 ・生産実績作成(日次) |
・品目マスタ ・構成マスタ ・工程マスタ |
会計 システム |
原価情報 | 日次 | オンプレミス (オープン系) |
購買 システム |
購買指示 情報 |
日次 | ||||
在庫 システム |
入出庫 情報 |
日次 | ||||
購買 システム |
・発注 ・買掛管理 ・購買先管理 |
・購買先 マスタ |
会計 システム |
買掛情報 | 日次 | オンプレミス (オープン系) |
在庫 システム |
・入出庫管理 ・在庫数量管理 |
・倉庫マスタ | 生産 システム |
在庫状況 情報 |
日次 | オンプレミス (オープン系) |
配送 システム |
出荷指示 情報 |
日次 | ||||
配送 システム |
・配送伝票作成 ・配送先管理 |
・配送区分 マスタ |
販売 システム |
出荷情報 | 日次 | オンプレミス (オープン系) |
会計 システム |
配送経費 情報 |
月次 | ||||
会計 システム |
・原価計算 ・一般財務会計処理 ・支払(振込,手形) |
・勘定科目 マスタ |
(省略) | クラウド サービス (SaaS) |
〔合併前のD社の基幹システム〕
D社は大手百貨店やハウスメーカーのインテリア展示場にショールームを兼ねた販売店舗を設けており,個々の顧客のニーズに合ったセミオーダーメイドの家具を製造・販売している。生産方式は受注に基づく個別生産方式であり,商品の在庫はもたない。顧客の要望に基づいて家具の価格を見積もった上で,見積内容の合意後に電子メールやファックスで注文を受け付け,従業員が端末で受注情報を入力する。受注した商品を生産後,販売システムを用いて請求書を作成し,商品に同梱する。また,配送システムを用いて配送伝票を作成し,配送業者に配送を委託する。
合併前のD社の基幹システム(抜粋)を表2に示す。
システム名 | 主な機能 | 主なマスタ データ |
システム関連携 | システム構成 | ||
連携先 システム |
連携する 情報 |
連携 頻度 |
||||
販売 システム |
・見積 ・受注(手入力) ・請求(請求書発行) ・売上計上 |
・顧客マスタ | 会計 システム |
売上情報 | 日次 | オンプレミス (オープン系) |
生産 システム |
受注情報 | 週次 | ||||
生産 システム |
・生産計画作成(週次) ・原材料・仕掛品管理 ・作業管理 ・生産実績作成(週次) |
・品目マスタ ・構成マスタ ・工程マスタ |
会計 システム |
原価情報 | 週次 | オンプレミス (オープン系) |
購買 システム |
購買指示 情報 |
週次 | ||||
配送 システム |
出荷指示 情報 |
週次 | ||||
購買 システム |
・発注 ・買掛管理 ・購買先管理 |
・購買先 マスタ |
会計 システム |
買掛情報 | 月次 | オンプレミス (オープン系) |
配送 システム |
・配送伝票作成 ・配送先管理 |
・配送区分 マスタ |
販売 システム |
出荷情報 | 日次 | オンプレミス (オープン系) |
会計 システム |
配送経費 情報 |
月次 | ||||
会計 システム |
・原価計算 ・一般財務会計処理 ・支払(振込) |
・勘定科目 マスタ |
(省略) | オンプレミス (ホスト系) |
〔合併後のシステムの方針〕
直近のシステム統合に向けて,次の方針を策定した。
・重複するシステムのうち,販売システム,購買システム,配送システム及び会計システムは,両社どちらかのシステムを廃止し,もう一方のシステムを継続利用する。
・両社の生産方式は合併後も変更しないので,両社の生産システムを存続させた上で,極力修正を加えずに継続利用する。
・在庫システムは,C社のシステムを存続させた上で,極力修正を加えずに継続利用する。
・今後の保守の容易性やコストを考慮し,汎用機を用いたホスト系システムは廃止する。
・①廃止するシステムの固有の機能については,処理の仕様を変更せず,継続利用するシステムに移植する。
・両社のシステム間で新たな連携が必要となる場合は,インタフェースを新たに開発する。
・マスタデータについては,継続利用するシステムで用いているコード体系に統一する。重複するデータについては,重複を除いた上で,継続利用するシステム側のマスタへ集約する。
〔合併後のシステムアーキテクチャ〕
合併後のシステムの方針に従ってシステムアーキテクチャを整理した。合併後のシステム間連携(一部省略)を図1に,新たなシステム間連携の一覧を表3に示す。
図1 合併後のシステム間連携(一部省略)
記号 | 連携元システム | 連携先システム | 連携する情報 | 連携頻度 |
(ア) | C社の生産システム | D社の購買システム | 購買指示情報 | 日次 |
(イ) | D社の a | C社の生産システム | 受注情報 | 日次 |
(ウ) | C社の配送システム | D社の a | d | 日次 |
(エ) | D社の b | C社の配送システム | 出荷指示情報 | 週次 |
(オ) | D社の b | C社の c | 原価情報 | e |
(カ) | D社の a | C社の c | f | 日次 |
(キ) | D社の購買システム | C社の c | 買掛情報 | g |
〔合併後のシステムアーキテクチャのレビュー〕
合併後のシステムアーキテクチャについて,両社の有識者を集めてレビューを実施したところ,次の指摘事項が挙がった。
・②C社の会計システムがSaaSを用いていることから,インタフェースがD社の各システムからデータを受け取り得る仕様を備えていることをあらかじめ調査すること。
指摘事項に対応して,問題がないことを確認し,方式設計を完了した。
設問1 〔合併後のシステムアーキテクチャ〕について答えよ。
(1)図1及び表3中の a 〜 c に入れる適切な字句を答えよ。
解答・解説
解答例
a:販売システム
b:生産システム
c:会計システム
解説
ー
(2)表3中の d 〜 g に入れる適切な字句を答えよ。
解答・解説
解答例
d:出荷情報
e:週次
f:売上情報
g:月次
解説
ー
設問2 本文中の下線①について答えよ。
(1)移植先は,どちらの会社のどのシステムか。会社名とシステム名を答えよ。
解答・解説
解答例
会社名:D社
システム名:販売システム
解説
ー
(2)移植する機能を,表1及び表2の主な機能の列に記載されている用語を用いて全て答えよ。
解答・解説
解答例
受注(EDI),販売実績管理(月次),請求(EDI)
解説
ー
設問3 本文中の下線②の指摘事項が挙がった適切な理由を,オンプレミスのシステムとの違いの観点から40字以内で答えよ。
解答・解説
解答例
C社の会計システムはSaaSなので,個別の会社向けの仕様変更が困難だから
解説
ー
IPA公開情報
出題趣旨
近年,事業拡大のために複数の企業が合併するケースが増えている。異なる企業が合併する際には,各々の企業で用いられてきた基幹システムをいかに速やかに統合していくかが,合併の効果を得る上で重要である。
本問では,中堅の家具製造販売業者の合併における基幹システム統合を題材として,システム統合に関する基本的な理解,及びその方式を設計する能力を問う。
採点講評
問 4 では,中堅の家具製造販売業者の合併における基幹システム統合を題材として,システム統合の方式設計について出題した。全体として正答率は平均的であった。
設問 2 は,正答率が平均的であった。システム統合に伴って幾つかのシステムを廃止するとき,業務への影響を抑えるためには何の機能をどのシステムに残す必要があるか,業務の視点を忘れずに各機能の最適な配置を導き出してほしい。
設問 3 は,正答率が低かった。SaaS を PaaS や IaaS,自社システムの運用アウトソーシングサービスと混同 していると思われる解答や,C 社の会計システムと C 社のオンプレミスのシステムが元々連携していたことを考慮していないと思われる解答が散見された。SaaS の特徴や制約をあらかじめ把握した上で,統合後だけではなく統合前のシステムの全体像も正しく理解し,注意深く解答してほしい。