クラウドストレージの利用に関する次の記述を読んで,設問1,2に答えよ。
L社は,企業のイベントなどで配布するノベルティの制作会社である。L社には,営業部,制作部,製造部,総務部,情報システム部の五つの部があり,500名の社員が勤務している。また,社員の業務時間は平日の9時から18時までである。L社では,各社員が作成した業務ファイルは各社員に1台ずつ配布されているPCに格納してあり,部内の社員間のファイル共有には部ごとに1台のファイル共有サーバ(以下,FSという)を利用している。
L社では,社員の働き方改革として,リモートワークの勤務形態を導入することにした。リモートワークでは,社外から秘密情報にアクセスするので,セキュリティを確保する必要がある。
そこで,L社では業務ファイルをPCに格納しない業務環境を構築することにした。PC内の業務ファイルをM社クラウドサービスのストレージ(以下,クラウドストレージという)に移行し,各PCからクラウドストレージにアクセスして,クラウドストレージ内のファイルを直接読み書きすることにした。また,FS内のファイルについてもクラウドストレージに移行することにした。クラウドストレージを利用した設計,実装,移行は,情報システム部のN君が担当することになった。
N君は,クラウドストレージに必要なストレージ容量を試算するために,PCやFSに格納済の業務ファイルの調査を行った。PCは,500台のPCから50台のPCをランダムに選定し,移行対象のファイルについて,ファイル種別ごとのディスク使用量を調査した。N君が調査した,PC1台当たりのファイル種別ごとのディスク使用量を表1に示す。
項番 | ファイル種別 | ディスク使用量(Gバイト) |
1 | 契約書・納品書などの文書ファイル | 5 |
2 | ノベルティの図面ファイル | 5 |
3 | イベント風景を撮影した写真や動画ファイル | 10 |
FSについては,5台のFSについて,ファイル種別ごとのディスク使用量とファイルの利用頻度ごとのディスク使用量の割合の調査を行った。FS1台当たりのファイル種別ごとのディスク使用量を表2に,ファイルの利用頻度ごとのディスク使用量の割合を表3に示す。ここで,利用頻度とはFSに格納済のファイルの年間読出し回数のことであり,ファイルの読出しはPCからファイルを参照する動作によって発生する。
項番 | ファイル種別 | ディスク使用量(Tバイト) |
1 | 契約書・納品書などの文書ファイル | 20 |
2 | ノベルティの図面ファイル | 30 |
3 | イベント風景を撮影した写真や動画ファイル | 50 |
項番 | 利用頻度(回/年) | 平均利用頻度(回/年) | ディスク使用量の割合(%) |
1 | 1,000回以上 | 1,200 | 2 |
2 | 500回以上1,000回未満 | 750 | 5 |
3 | 100回以上500回未満 | 300 | 5 |
4 | 100回未満 | 55 | 80 |
この調査結果から,L社の全てのPCやFSに格納済のファイルをクラウドストレージに移行すると,現時点では少なくとも a Tバイトのストレージ容量が必要であることが分かった。
クラウドストレージでは,ストレージ種別によって利用料金が異なる。クラウドストレージの料金表を表4に示す。読出し料金とは,クラウドストレージに格納したファイルを読み出すときに発生する料金であり,PCからファイルを参照する動作によって発生する。
項番 | ストレージ種別 | 年間保管料金 (円/Gバイト) |
読出し料金 (円/Gバイト) |
1 | 標準ストレージ | 30 | 0 |
2 | 低頻度利用ストレージ | 10 | 0.02 |
3 | 長期保管ストレージ | 6 | 0.06 |
年間のクラウドストレージの利用費用は,次式で算出できる。
年間保管料金 × 保管Gバイト数 + 読出し料金 × 読出しGバイト数
ファイルの利用頻度に応じてストレージ種別を適切に選択することで,利用費用を抑えることができる。
N君は,PC内のファイルは標準ストレージに格納することにし,FS内のファイルは利用頻度によって利用するストレージ種別を表4の項番1〜3のストレージ種別から選択した。N君が試算したストレージ種別ごとのデータ容量と利用費用を表5に示す。読出しGバイト数は,データ量×表3の平均利用頻度を用いて求めた。
項番 | ストレージ種別 | データ容量 (Tバイト) |
利用費用 | |
年間保管費用 (千円/年) |
読出し費用 (千円/年) |
|||
1 | 標準ストレージ | b | (省略) | 0 |
2 | 低頻度利用ストレージ | (省略) | c | 525 |
3 | 長期保管ストレージ | 400 | 2,400 | d |
次にN君は,クラウドストレージの実現方式を検討した。君が検討した,クラウドストレージの実現方式(案)を図1に示す。
図1 クラウドストレージの実現方式(案)
M社クラウドサービスにあるストレージサーバ,ストレージ装置,ルータAを利用してクラウドストレージを実現する。ここで,ルータAとルータBの間はVPNで接続されており,平均400Mビット/秒の速度でデータを送受信できる。L社事業所内の各機器は平均800Mビット/秒の速度でデータを送受信できる。また,社外からクラウドストレージを利用する場合には,PCとルータA間をVPNで接続し,通信路のセキュリティを確保する。
N君はPC内のファイルのクラウドストレージへの移行方式を検討した。社員全員が一斉にPC内のファイルを移行すると時間が掛かる。例えば,500名の社員が自分のPCに格納済の20Gバイトのデータを,それぞれクラウドストレージにコピーする場合,各社員のデータが均等に伝送されるものとすると,社員がPCでファイルのコピーの開始を指示してから全ファイルのコピーが完了するまでの時間は e 時間となる。
そこでN君は,業務繁忙月を避けて1週間の移行期間を設定し,L社事業所内に移行用NASを設置して移行する方式を検討した。移行期間には,500名の社員を100名ずつ五つのグループに分け,グループごとに次の三つの作業を行うことでデータを移行する。
作業1 業務時間内に各社員がPC内のファイルを移行用NASにコピー
作業2 業務時間外に移行用NAS内のファイルをクラウドストレージに移動
作業3 各社員がクラウドストレージのファイルを確認しPCのファイルを削除
グループごとの移行スケジュールを図2に示す。
図2 グループごとの移行スケジュール
N君は,クラウドストレージの構築とファイルの移行の検討を終え,上司に報告し承認を得た。
出典:令和3年度秋期 問4
設問1 本文中の a 及び表5中の b 〜 d に入れる適切な数値を整数で答えよ。なお,1Tバイトは1,000Gバイトとする。
解答・解説
解答例
準備中
解説
設問2 〔PC内ファイルの移行方式の検討〕について,(1)〜(3)に答えよ。
(1)本文中の e に入れる適切な数値を答えよ。答えは,小数第1位を四捨五入して整数で求めよ。ただし,PCやクラウドストレージの読込み,書込みスピードは送受信速度に比べて十分に速いものとし,ほかの通信は無視できるものとする。また,1Gバイトは1,000Mバイトとする。
解答・解説
解答例
準備中
解説
(2)N君が検討した五つのグループに分けて移行する方式とすることで,ある社員がファイルのコピーの開始を指示してから移行用NASに全ファイルのコピーが完了するまでの時間は,500名の社員がクラウドストレージに直接コピーする場合と比べて,何分の一に短縮されるか分数で答えよ。ただし,PC,クラウドストレージ,移行用NASの読込み,書込みスピードは送受信速度に比べて十分に速いものとし,ほかの通信は無視できるものとする。
解答・解説
解答例
準備中
解説
(3)移行用NASからクラウドストレージへのファイルの移動を業務時間外に行う理由を,35字以内で述べよ。ただし,移行用NASのデータ容量は十分に大きいものとする。
解答・解説
解答例
準備中
解説
IPA公開情報
出題趣旨
昨今,秘密情報をセキュリティが確保されたクラウドサービスに格納し,安全に管理する企業が増えている。本問では,クラウドサービス上でのストレージの利用を題材に,システム方式設計及び移行方式設計に関す る設計能力について問う。
採点講評
問 4 では,クラウドサービス上でのストレージの利用を題材に,システム方式設計とファイル移行方式設計について出題した。全体として正答率は平均的であった。
設問 1 の b は,正答率がやや低かった。PC 及びファイルサーバに格納されているデータを移行する際に必要となるクラウドストレージのデータ容量を問うたが,PC に格納されているデータが考慮されていない解答が 散見された。問題文中に示された内容を正確に読み取り,正答を導き出してほしい。
設問 2(2)は,正答率が低かった。ファイル移行は,限られたネットワーク帯域を使用して,限られた時間内に移行を完了する必要がある場合が多いので,十分な移行方式の設計,移行の計画,及びリハーサルが必要である。使用できるネットワーク帯域や時間などを考慮した上で,最良な移行方式を設計する能力を是非習得してほしい。