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ST 令和5年度春期 午後Ⅰ 問1

   

SNS運営会社のブロックチェーンを活用したIT戦略に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。

 A社は,ブログやコミュニケーションサイト,ソーシャルメディアに関連するアプリケーションソフトウェアの提供などのソーシャルネットワーキングサービス(以下,SNSという)を運営する企業で,A社の会員とともにA社を取り巻くデジタル空間内の経済活動(以下,A社経済圏という)を拡大する経営方針を掲げている。A社は,主にスポンサー企業からの広告収入,会員からの課金収入,提携企業へのマーケティングに関するデータ提供サービス事業の収入がビジネスの柱になっている。近年,積極的なM&Aを行い,プリペイド型の電子マネーを扱う電子決済サービス事業,暗号資産取引サービス事業などを獲得し,SNSを中核にしてサービスの種類を拡張させてきた。
 A社の会員は,A社のSNSを利用して,デジタルコンテンツを参照したり電子マネーを利用したりする。それだけでなく,デジタルコンテンツを活用した投稿や評価コメントの投稿など,積極的に情報を発信(以下,貢献活動という)して,A社のサービスの活性化や発展に貢献してくれている。そこで,A社は会員との互恵関係を強化することで,A社経済圏を拡大する新たなIT戦略を検討することとし,現状の課題を分析した。

A社が抱える課題
 A社は,会員との互恵関係の状況を把握する重要な経営指標として,会員のSNS利用におけるアクティブ会員数の月間伸び率(以下,MAU伸び率という)を測定している。しかし,最近は,サービスの種類を拡張しているにもかかわらず,MAU伸び率は鈍化している。このまま鈍化の傾向が続いていくと,スポンサー企業や提携企業からの収入に影響するだけでなく,IT戦略の前提にも影響があるとA社は考えている。
 A社は,会員が行った貢献活動に対して,A社サービス内で使えるポイントを付与する仕組みによって顧客体験価値(UX)を高めている。しかし,現在の仕組みでは,M&Aで新サービスを獲得した場合,そのサービスの既存のポイント付与システムを,都度A社システムと連携させて動かしているので,A社システム全体への影響を調査し,対応を検討して,慎重に進める必要があり,拡張は容易ではない。今後は,A社サービス共通に使えるポイントを所定の条件を満たせばすぐに付与したいが難しく,会員が期待するUXをタイムリーに提供できていない。このことが,MAU伸び率を鈍化させている原因とA社は認識している。
 A社は,会員が行った貢献活動に関する所定の条件が満たされれば,A社サービス共通に使えるポイントがすぐに付与される仕組みを提供することでUXを高め,顧の囲い込みを図ることができると考えている。
 そこでA社は,ブロックチェーンの技術を応用し,改ざんや取引履歴の削除が困難な自律分散システムであるプライベート型のブロックチェーンネットワークを構築し,A社経済圏の拡大を実現するIT戦略を立案することにした。

新しいポイント付与システム
 A社は,プライベート型のブロックチェーンネットワークを活用して,貢献活動を行った会員に対して,迅速に,公正で,より魅力的なポイント付与の仕組みを構築して,MAU伸び率を改善することを計画した。
 A社は,新たなサービスを獲得した際にも,会員の貢献活動に関する所定の条件に応じてポイントを自動的に付与するための検討を行った。A社は,ブロックチェーンに設定されたルールに従って取引を自動的に実行するスマートコントラクトを組み合わせたポイント付与システムを構築することとした。スマートコントラクトは,ルールを事前にプログラムとして実装する仕組みであり,会員の貢献活動に関する所定の条件が満たされれば,ポイントを付与するプログラムが自動実行され,ポイントが自動的に付与される。サービス間を横断するキャンペーンなどの複雑な条件判定が必要な場合でも,自動的にポイントが付与される仕組みを実現できる。
 A社は,会員が,付与されたポイントをA社の全ての有償サービスに利用したり,会員同士で贈呈したりできるようにする。さらに,プリペイド型の電子マネーを扱う電子決済サービスと連携し,A社経済圏の外部でも使える専用のコインへの交換を可能にすることにした。この交換によって,外部の経済圏と連携できるようになり,A社の各サービスの中でもポイントの流動化が促進され,会員との互恵関係が強化されると考えた。

信頼度スコアによる監視の仕組み
 A社は,SNS上の様々な会員の行動から信頼度スコアを記録し,それを基に会員向けに信頼度ランクを公開している。具体的には,会員の投稿の閲覧数やコメント投稿数などを定量化して記録するものである。信頼度スコアの高い会員には,ポイントの付与率を高く設定する仕組みがある。また,A社は,会員に対してガイドラインを定めており,コミュニティ内における過度な中傷などの重要なトラブルについては,会員からの通報やAI検知による監視によって,加害者への注意喚起やアカウント停止などを行う仕組みで対処してきた。A社は,信頼度スコアの仕組みと監視の仕組みとを連携させて,会員が安心してSNSを楽しめる仕組みを提供することで,更なるコミュニティの活性化を図ることとした。

マーケットプレイスの構築
 A社は,具体的な取組を進めていく際に,自社のSNS上の公式アカウントを使って議論や情報交換を行うコミュニティを立ち上げて,会員同士で様々な意見を取り交わしてもらいながら会員の声を吸い上げた。
 その結果,A社の会員には,デジタルコンテンツをより利活用したり,貢献活動に対してさらに充実した特典を獲得したり,同じ趣味し好をもった会員同士でもっと簡単に交流したいニーズがあることが分かった。
 これらのニーズに対してA社は,プライベート型のブロックチェーンネットワーク上でデジタルコンテンツに唯一性を付与する非代替性トークン(以下,NFTという)を活用することにした。A社は,自社や提携企業がもつ画像や音声などのデジタルコンテンツのメタデータが含まれるNFTをポイントで取引できるマーケットプレイスを構築して,会員が,アート,写真,イラスト,音楽などの様々なジャンルのNFTを取引できるようにする。①NFTには,独自にスマートコントラクトを実装できるので,単純なNFT取引だけではなく,A社からコミュニティへの参加権や限定商品の購買権の付与など,柔軟な特典の提供が可能である。
 また,NFTでは一般的に,一次流通の際に著作者に収益の還元を行うが,A社は,独自に実装したスマートコントラクトを用いて転売などの二次流通においても,その収益の一部を著作者に自動的に還元する仕組みを構築することにした。
 マーケットプレイスにおいては,会員に対して,所有するNFTや取引するためのポイントを管理するウォレット機能,所有するNFTを出品する機能,NFTを購入する機能を提供する。A社は,マーケットプレイスの機能の提供によって,ポイントを獲得するための会員の貢献活動や,NFTを取引するための会員同士の交流が活発になり,スポンサー企業や提携企業からの収入にも波及して,A社経済圏が成長していくと考えた。
 A社は,NFTの取引履歴やスマートコントラクトの実行履歴などを収集し,匿名化した上で趣味し好などの傾向を可視化しようと考えている。A社はこのブロックチェーンの特性を生かして,可視化したデータを用いて提携企業とのビジネスの拡大も企画した。

設問1 〔A社が抱える課題〕について,MAU伸び率の鈍化によって影響を受けるIT戦略の前提とは何か。40字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 会員との互恵関係を強化することで A 社経済圏を拡大できるという前提

解説

 ー

 

設問2 〔新しいポイント付与システム〕について,A社は,新しいポイント付与システムでどのような仕組み上の課題に対処しようとしたか。40字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 新サービスを獲得しても会員が期待する UX をタイムリーに提供できていない。

解説

 ー

 

設問3 〔信頼度スコアによる監視の仕組み]について,A社は,会員が安心してSNSを楽しめるようにするために,信頼度スコアの仕組みと監視の仕組みとを連携させた,どのような仕組みを提供しようと考えたか。35字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 加害者のポイント付与率を減らしたり,付与を停止したりする仕組み

解説

 ー

 

設問4 〔マーケットプレイスの構築〕について答えよ。

 

(1)A社は,本文中の下線①の仕組みを活用することで,会員のどのようなニーズに応えることを狙ったのか。35字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 貢献活動に対してさらに充実した特典を獲得したいというニーズ

解説

 ー

 

(2)A社は,本文中の下線①の仕組みを用いて,会員間の取引や,会員への特典提供以外のどのような仕組みにも活用しようと計画しているか。35字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 NFT の二次流通においてもその収益の一部を著作者に還元させる。

解説

 ー

 

(3)A社は,可視化した趣味し好の傾向のデータを,提携企業へのどのような事業で生かそうと考えたか。30字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 マーケティングに関するデータ提供サービス事業

解説

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IPA公開情報

出題趣旨

 IT ストラテジストには,情報技術を活用して事業を改革,高度化,最適化するための基本戦略を策定する能力が求められる。
 本問では,SNS 運営会社のブロックチェーンを活用した IT 戦略を題材として,IT を活用した新サービスの構想・計画の実行と評価・改善を行う能力を評価する。具体的には,ブロックチェーンによって,事業全体を成長させるために解決すべき課題の分析,IT を活用したサービスの見直しへの対応などについて,実務能力を問う。

採点講評

 問 1 では,SNS 運用会社のブロックチェーンを活用した IT 戦略について出題した。全体として正答率は平均的であった。
 設問 1 は,正答率がやや低く,“会員がデジタルコンテンツを活用することが IT 戦略の前提である”という解答が見受けられた。ここでは,会員との互恵関係を強化することで,A 社経済圏を拡大できるということが IT 戦略の前提であることを理解してほしい。
 設問 3 では,“会員が行った貢献活動にポイントを付与する仕組み”という解答が散見された。A 社は,会員が安心して SNS を楽しめるようにするために,加害者に対する抑止力のある対策が求められている点を理解してほしい。
 IT ストラテジストは,事業全体を成長させるために解決すべき課題を分析し,評価した上で,デジタル技術を活用し,事業戦略を推進する能力を高めてほしい。

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