資格部

資格・検定の試験情報、対策方法、問題解説などをご紹介

SM 令和5年度春期 午後Ⅰ 問3

   

デジタルトランスフォーメーション(DX)の取組における,サービスの計画及び提供に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。

 E社は,本社と全国に五つの営業所をもつ中堅の建設事業者であり,主に系列の鉄道会社から土木一式工事を請け負っている。工事内容には,一般の建設工事のほか,一部鉄道事業に特化した軌道や土木構築物に関する工事を含んでいる。E社では,営業,設計,見積り,施工管理といった事業運営に関する基幹システムが稼働しており,E社の情報システム部が,基幹システムの運用と管理を行っている
 E社では,現場作業員の人手不足が深刻化していて,DXに取り組むことによって,長時間労働の常態化や深夜作業といった過酷な労働環境を改善することが経営課題となっている。ICTを活用した働き方改革や業務改革を推進する役割は,情報システム部が担っている。

〔営業所の課題〕
 営業所では,工事全体の工程,品質及び安全を管理し,各現場での作業をスムーズに進めるための施工管理を行っている。現在,営業所には図1に示す課題がある。


図1 営業所の課題

〔改善策の検討〕
 営業所の課題を受け,情報システム部はITサービスマネージャのF氏を中心に,次の改善策を検討した。

・全ての携帯SDに専用のアプリケーションソフトウェア(以下,専用アプリという)を配付する。

・現場責任者にも携帯SDを貸与した上で,携帯SDから工事計画表の閲覧・更新を可能にする。

・作業員が現場で撮影した写真のアップロード及び報告作業を,携帯SDを使って営業所以外の場所からでも実施可能とする。

・施主向け報告書に必要な情報加工作業をシステム化する。

 

 F氏は,改善策に適した建設事業者向けの業務管理パッケージ(以下,Gシステムという)を導入し,新サービスとして提供する検討に入った。
 Gシステムは,建設業界で多くの導入実績をもつG社が販売する業務管理パッケージであり,利用者が運用する基幹システムと連携可能なインタフェースをもつ。Gシステムの機能を用いてE社が実現したい内容は次のとおりである。

(1)現場向け機能:インターネットを使って,携帯SDからGシステムを経由して,基幹システムの各種情報操作を可能にする。

(2)施主向け機能:基幹システムの施工情報を編集し,施主向けに情報提供する。

 

 Gシステムの利用者は,利用者IDとパスワードを入力してログインすると利用者権限に応じた機能が利用可能となる。Gシステムは,保守時間帯以外は常に利用可能であり,全ての操作履歴を利用者IDとともにGシステムのログファイルに記録する。システム構成図を図2に示す。


図2 システム構成図

新サービスの提案
 F氏の検討を受け,情報システム部は,DXの取組となる新サービスの提案資料を取りまとめ,Gシステムの導入及び運用に掛かる費用とともに経営会議に提案し,承認を得ることにした。新サービスによって期待される効果を表1に示す。

表1 新サービスによって期待される効果

 経営会議で提案は承認されたが,情報システム部に三つの指示事項があった。

 ①新サービスの導入は,経営課題の解決に貢献する。新サービスの導入による(ア)現場作業員への効果を定量的に測定し,報告すること

 ②新サービスの展開で,現場に混乱がないようにすること

 ③全ての現場作業員に新サービスの利用が定着するようにすること

 

新サービスの準備
 経営会議での承認を受け,F氏は新サービスの導入準備に着手した。新サービス開始以降は,情報システム部がサービス運用を担当し,社内からの各種問合せ対応及びインシデント対応を行う。また,現場に混乱がないように,F氏は,Gシステムの専門知識をもつG社要員による初期サポートが必要と判断した。そこで情報システム部とG社との間で,次の取決めを行い,(イ)初期サポートの契約を行った。

・初期サポートとして,表2に示すサポート内容を行う。

・新サービスの展開1週間前から展開3週間後までの4週間の初期サポートを実施する。

・表2の完了基準を設け,サポート終了の1週間前時点でサポート内容の状況を測定し,全ての完了基準を満たしていれば予定どおりに初期サポートを完了する。ただし,項番3が完了基準に満たない場合,項番3のサポート終了日を1週間延長し,サポート終了の1週間前時点で再度状況の測定を行う。

 

表2 初期サポートのサポート内容と完了基準

 初期サポート期間中は,専門知識をもつG社要員が情報システム部に常駐して初期サポートを行う。新サービス展開から初期サポート完了までの間,G社の初期サポート要員は,インシデント対応を行い,解決したインシデントについては,その都度,情報システム部の要員に報告を行う。

新サービスの展開
 新サービスの展開は,社内業務への影響と運用側の負荷を考慮し,2段階方式で行うこととした。第1段階は本社と東京営業所に,第2段階はその他四つの営業所を含む全社に展開することとなった。
 第1段階の展開開始の1週間前から,利用者に対する利用者マニュアルの提供が開始され,利用方法説明会が開催された。また,現場作業員の携帯SDには専用アプリが配付された。説明会では,利用者マニュアルに記載された用語の意味が分からず,内容が理解できないという声が多く上がった。システムを使い慣れていない作業員が理解できない専門用語が,利用者マニュアルにそのまま用いられていたことと,鉄道事業に特化した工事で使われている用語で記述されていないことが原因と考えられた。
 利用方法に関する同様の問合せは,説明会の後もしばらくの間続いたが,G社の初期サポートの対応によって,問合せの9割以上は即時に解決していた。しかし,F氏は,第2段階の展開開始までには,次の対応を速やかに実施する必要があると考えた。

・利用者マニュアルの内容を  b  すること

・Gシステムの利用方法についてのよくある問合せを利用者が自ら解決できるようFAQとして整備し,社内PC及び携帯SDから検索できるようにすること

 

 F氏は,“FAQの材料として過去に他社でGシステムを導入した際に発生した,利用方法についてのよくある問合せの提供”をG社に依頼し,G社は,よくある問合せの一覧表をF氏に提供した。F氏は,E社現場の特性を踏まえて,受領した一覧表の内容に対して(ウ)必要な追加をしてFAQを社内に展開した。

全社への展開と定着の確認
 情報システム部は,新サービスの第1段階展開の2週間後,問合せに対する対応が完了したのを確認して1か月後に第2段階として新サービスの利用を全社に展開した。第1段階展開のときと同様,システムを使い慣れていない一部の利用者からは,問合せがあったが,FAQの効果もあり,全社展開はスムーズに行われた。
 新サービスの全社展開から1か月が過ぎた頃,F氏は,新サービスの利用状況を確認するため,(エ)必要な情報を収集した。その結果をGシステムの利用者情報に照らし合わせたところ,本来利用すべき現場作業員のうち,8割程度の要員は新サービスを利用しているが,2割程度の要員は新サービスを利用せず,依然として営業所で報告作業を行っていることが分かった。
 F氏は,新サービスの定着には,現場作業員の声を拾う必要があると考え,新サービスを利用している要員と利用していない要員のそれぞれに対して,ヒアリングを実施した。その結果,“システムのユーザビリティが悪く操作しづらい”,“操作方法が分からない”,“営業所での報告作業が習慣化している”といった意見が上がった。F氏は,ヒアリングで上がった意見について,新サービスを定着させる上で深刻度が高い阻害要因があると考え,(オ)経営層から支援をもらい,現場に対する説明会を開催することとした。

設問1 〔新サービスの提案〕について答えよ。

 

(1)表1中の  a  には,新サービスを利用することによる施主側のメリットが入る。適切な内容を20字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 ・最新の施主向け報告書を確認すること
 ・いつでも施主向け報告書を確認すること

解説

 ー

 

(2)本文中の下線(ア)について,定量的に測定できる効果の内容を10字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 ・残業時間の削減量
 ・残業時間の削減率

解説

 ー

 

設問2 〔新サービスの準備〕の本文中の下線(イ)の初期サポートの契約の終了時において,インシデント対応でG社要員から情報システム部にサポート業務の引継ぎが発生する場合がある。引継ぎが必要なインシデントは,どのようなものか。40字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 初期サポート完了判定後に発生し,初期サポート終了時点で未解決のインシデント

解説

 ー

 

設問3 〔新サービスの展開〕について答えよ。

 

(1)本文中の  b  には,利用者マニュアルの変更内容が入る。適切な内容を20字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 E 社で使われている用語や表現に変更

解説

 ー

 

(2)本文中の下線(ウ)について,FAQに追加した内容を25字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 第 1 段階の展開で実際に発生した問合せの内容

解説

 ー

 

設問4 〔全社への展開と定着の確認〕について答えよ。

 

(1)本文中の下線(エ)について,新サービスの利用状況を確認するために必要な情報は何か。図2中の字句を使って10字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 ・ログ情報
 ・G システムのログ情報

解説

 ー

 

(2)本文中の下線(オ)について,経営層から支援をもらい,現場に対する説明会を開催する理由を30字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 ・経営課題の解決には,新サービスの定着が必要だから
 ・新サービスの定着は,経営課題の解決に貢献する取組だから

解説

 ー

 

IPA公開情報

出題趣旨

 近年,企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組むに当たって,ITサービスマネージャが DX を推進し支援する役割を担うケースが増えている。
 本問では,DX の取組における新サービスを題材として,IT を活用した新サービスの計画と運用の実行及び評価を行う能力,並びに解決すべき課題に対する効果の測定,導入初期のサポートなどの対応について,実務能力を問う。

採点講評

 問 3 では,デジタルトランスフォーメーション(DX)の取組における新サービスを題材に,新サービスの計画及び提供について出題した。全体として正答率は平均的であった。
 設問 2 は,正答率が低かった。初期サポートの完了時におけるインシデント対応に関する業務引継ぎについて,一般的な内容を解答する受験者が多かった。初期サポートの内容と完了基準の内容をよく理解し,設問に対応した解答をしてほしい。
 設問 3(2)は,正答率がやや低かった。FAQ の整備が第 1 段階展開と第 2 段階展開の間で行われたこと及び E 社現場の特性を踏まえて,FAQ に追加する内容を導き出してほしい。
 設問 4(2)は,正答率が平均的であった。設問では,現場に新システムの定着を図るだけでなく,DX によって経営課題の解決に取り組むことへの理解が求められている。近年,DX の取組として提供される IT サービスの事例も多く,IT サービスマネージャの役割が重要である。

前問 ナビ 次問