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SA 令和4年度春期 午後Ⅰ 問3

   

保険申込システムの再構築に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

 K社は,代理店や金融機関などを通じて保険商品を販売する大手生命保険会社である。K社は,金融機関で顧客に保険商品を販売する際の業務効率化,利便性向上を目的として,保険申込システムを見直し,新たな保険申込システム(以下,新システムという)を構築することにした。

現在の業務とK社の保険申込システムの概要
 金融機関の窓口で保険商品を販売する職員(以下,募集人という)はK社の保険申込システム(以下,現行システムという)を利用し,業務を実施している。現在の業務と現行システムの概要は,次のとおりである。

(1)ニーズ喚起業務
 募集人は,保険募集のコンプライアンス指針にのっとり,取扱いのある保険商品から顧客に最適なプランを考え,顧客に合った保険商品を提案する。

(2)保険提案書作成業務
 募集人は,現行システムを利用して保障内容や保険料などが記載されている保険提案書(以下,提案書という)を作成する。
 現行システムに保険商品,生年月日,性別,保険期間と保険料の払込期間といった保険条件を入力し,これらの保険条件に合った保険料を試算し提案書を作成する。提案書を作成する際,一意となる提案書の番号(以下,提案書番号という)を現行システムが付与する。
 作成した提案書を印刷して顧客に保障内容や留意事項を説明する。K社では,顧客に提案書を説明する際,必ず印刷して説明することにしている。

(3)保険提案書再作成業務
 募集人は,同じ顧客で同じ保険商品の提案書を過去に作成したことがある場合,作成済みの提案書の保険条件を利用して,新しい提案書を作成する。
 現行システムを利用して新しい提案書の基となる提案書を検索し,その提案書を選択して再作成することで,元の提案書の保険条件を引き継いだ新規の提案書が作成される。
 その提案書の保険条件を変更し,新しい提案書を印刷して顧客に説明する。K社では,提案書を再作成する際に①同じ提案書番号で保険条件が異なる印刷物がないようにしている

(4)保険申込書作成業務
 募集人は,顧客から申込みがあった場合,現行システムを利用して保険申込書(以下,申込書という)を作成する。申込書には提案書番号が記載されており,申込書の基になった提案書の内容と不整合にならないようにしている。募集人は,印刷済みの提案書の提案書番号を現行システムに入力し,提案書の内容から申込書を作成する。作成した申込書を印刷し,必要書類として,保険商品ごとの重要事項説明書,引受判断に必要な健康状態を記載する告知書,保険条件が顧客の意向と一致していることを確認してもらうための意向確認書を準備する。

(5)申込手続業務
 募集人は,保険申込書作成業務で印刷した申込書,重要事項説明書,告知書,及び意向確認書を顧客に提示し,必要な項目の記入と署名を依頼して記入内容を確認する。申込書には,保険契約を結ぶ顧客(以下,契約者という)と,保険の対象になる顧客(以下,被保険者という)が署名する。契約者と被保険者が別人の契約では,被保険者が同意した上で,契約者と被保険者それぞれが署名する必要がある。必要な項目の記入完了後,顧客控え書類を顧客に手渡しする。また,保険料の口座振替依頼書の記入を依頼して記入内容を確認する。
 申込書を作成開始してから申込手続業務を完了するまでの時間を手続所要時間と呼ぶ。

(6)申込手続事後業務
 募集人は,申込手続業務完了後,契約時の確認内容や特記事項を取扱報告書に記入する。募集人は,責任者に申込書,告知書,意向確認書,及び取扱報告書を確認してもらう。責任者は,書類一式の内容をチェックし,問題がない場合はK社に郵送する。

(7)契約手続業務
 K社は,郵送された書類の内容を契約管理システムに入力する。入力した内容を査定し,問題がない場合は,保険証券を契約者に郵送する。現在の業務では,申込書を作成開始してからK社へ書類一式が到着し,契約管理システムに入力するまでの時間を申込書到着所要時間と呼ぶ。

 

新システムへの要望
 新システムに対して,次のような要望が出された。

・タブレット端末で提案書を作成したり,保障内容などを顧客に説明したりできるようにしたい。

・申込書や告知書の作成で,顧客が入力する必要がある内容をタブレット端末で入力して手続(以下,ペーパレス手続という)できるようにしてほしい。ただし,顧客の希望によって書面での手続(以下,書面手続という)もできるようにしてほしい。また,ペーパレス手続の場合,手続の途中でも書面手続に切り替えられるようにしたいが,告知書に署名した後は,切り替えられないようにしてほしい。

・ペーパレス手続の場合,画面上で自署した筆跡を電子書類として保存したい。電子書類のうち顧客控え書類は,申込手続完了後に募集人が印刷して,顧客に手渡しする。そのため,顧客控え書類は,顧客が自署した画面と同様のレイアウトにしてほしい。また,保存する電子書類の真正性を確保するために,顧客控え書類に改ざん検知の仕組みを導入してほしい。

・申込手続事後業務の責任者の承認をシステムで支援してほしい。

・責任者が書類の記載内容をチェックして不備があった場合,対応に時間が掛かっているので,②その不備対応の時間を短縮したい

・取扱報告書をシステムで入力できるようにしてほしい。書類では,募集人と責任者の押印をしている。システムでは,募集人名と責任者名を画面に表示してほしい。

・契約手続業務を効率化するために,ペーパレス手続の場合,顧客の申込手続と募集人の取扱報告入力,責任者承認の全ての手続が完了した後,申込書の内容をデータとイメージファイルの両方で契約管理システムに連携してほしい。

・ペーパレス手続の場合,手続の状態(以下,申込ステータスという)が画面で分かるようにしてほしい。

・保険料の払込方法として,口座振替かクレジットカード決済を選択できるようにしたい。また,申込時に払込方法の登録手続を電子的に完了できるようにしたい。

③手続を円滑に進めるために募集人が手続の順番を把握できるようにしてほしい

・保険申込の実績を集計したい。提案書作成件数,申込書作成件数,ペーパレス手続選択件数を知りたい。また,新システムでペーパレス化したことに伴う効率化の効果も知りたいので,当月にペーパレス手続で申込手続業務が完了した申込の手続所要時間の平均と,当月に契約管理システムに連携が完了した申込の申込書到着所要時間の平均を算出してほしい。

 

新システムで実装する機能
 新システムは,新システムへの要望を全て満たした上で,タブレット端末からも利用可能にする。新システムの機能概要を表1に示す。

表1 新システムの機能概要
機能名 機能概要
提案書作成 ・保険商品を選択し,顧客の氏名,生年月日,性別,保険期間と保険料の払込期間を入力することで,提案書番号を採番し,提案書データを登録する。入力する際に入力内容をチェックし,誤りがある場合は,画面にその内容を表示する。また,提案書データの作成日時を登録した際の日時にする。
・提案書データから提案書の電子書類を作成し,表示する。
提案書検索 ・過去に作成した提案書データを検索する。
・検索した結果の提案書データから提案書作成機能に連携し,提案書データの再作成を可能とする。
申込書作成 ・提案書データから申込書データを登録する。また,登録した際,申込書データの申込日時を登録した際の日時にする。
・“ペーパレス手続”か“書面手続”を選択し,申込書データの手続種別として更新する。
・書面手続が選択された場合,申込書や口座振替依頼書などの必要書類を印刷する。
・ペーパレス手続が選択された場合,申込ステータスを“ペーパレス手続選択済”とする。
申込書検索 ・申込書データを検索する。
・提案書番号,申込書番号,契約者氏名,申込ステータス及び提案書作成日を用いて検索を可能とする。
ペーパレス手続メニュー ・ペーパレス手続が選択された申込書データに対して,実施する作業のメニューを画面に表示する。次に実施すべき作業メニューだけ活性化する。
申込確認 ・ペーパレス手続が選択された後,ペーパレス手続メニューからペーパレス手続の説明,意向確認の説明及び重要事項の説明が記載された画面を表示する。
・顧客が確認した旨を入力できるようにする。入力する際に入力内容をチェックし,確認漏れがある場合は画面に表示する。
・申込確認の完了後,申込書データの申込確認日時を完了した際の日時にし,申込ステータスを“申込確認済”とする。
申込書入力 ・申込確認の完了後,ペーパレス手続メニューから申込書に必要な内容を入力できる画面を表示する。入力する際に入力内容をチェックし,誤りがある場合は,画面にその内容を表示する。
・申込書の内容について画面上で確認し署名できるようにする。また,契約者と被保険者が別人の場合,それぞれが署名できる画面を表示する。
・署名完了後,顧客控え用の申込書を作成し,保存する。
・申込書入力の完了後,申込書データの申込書入力日時を完了した際の日時にし,申込ステータスを“申込書入力済”とする。
告知手続 ・申込書入力の完了後,ペーパレス手続メニューから告知書に必要な内容を入力できる画面を表示する。入力する際に入力内容をチェックし,誤りがある場合は,画面にその内容を表示する。
・告知内容について画面上で確認し署名できるようにする。
・署名完了後,顧客控え用の告知書を作成し,保存する。
・告知手続の完了後,申込書データの告知手続日時を完了した際の日時にし,申込ステータスを“告知手続済”とする。
払込方法選択 ・告知手続の完了後,ペーパレス手続メニューから保険料の払込方法として,口座振替かクレジットカード決済を選択できる画面を表示する。
・選択された払込方法で,払込手続を電子的に完了できるようにする。
・払込方法選択の完了後,申込書データの払込方法選択日時を完了した際の日時にし,申込ステータスを“払込方法選択済”とする。
書類印刷 ・保存している電子書類を印刷する。
取扱報告書作成 ・払込方法選択の完了後,取扱報告書データを登録する画面を表示する。表示項目には,募集人名と責任者名を含める。入力する際に入力内容をチェック し,誤りがある場合は,画面にその内容を表示する。
・取扱報告書データの登録後,申込書データの報告書作成日時を登録した際の日時にし,申込ステータスを“承認待ち”とする。
申込書承認 ・申込ステータスが“承認待ち”の申込書データを抽出し,画面に表示する。責任者が,申込の内容と取扱報告書の内容を確認し,承認をする。
・承認後,申込書データの承認日時を承認した際の日時にし,申込ステータスを“承認済”とする。
申込書データ連携 ・日次で夜間に,対象の申込書データを抽出し,契約管理システムに連携する。
・連携後,申込書データの連携日時を連携した際の日時にする。
実績集計 ・月末の夜間に,提案書作成件数,申込書作成件数,ペーパレス手続選択件数を収集し,実績集計データとして登録する。
・実績集計データを帳票出力する。また,効率化の効果を計るために,ペーパレス手続の申込書データから④当月に申込手続業務が完了した申込の手続所要時間と,⑤当月に契約管理システムに連携が完了した申込の申込書到着所要時間を収集し,それぞれの平均を計算して報告する。

設問1 〔現在の業務とK社の保険申込システムの概要〕について,本文中の下線①のようにしている理由を業務上の観点から40字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 申込書と基になった提案書の内容が不整合にならないようにしているから

解説

 ー

 

設問2 新システムの設計について,(1)〜(4)に答えよ。

 

(1)ペーパレス手続から書面手続に切替え可能な状況にある申込書データの申込ステータスを表1中の字句を用いて全て答えよ。

 

解答・解説
解答例

 “ペーパレス手続選択済”,“申込確認済”,“申込書入力済”

解説

 ー

 

(2)改ざん検知を考慮した設計が必要な新システムの機能を表1中の機能名を用いて全て答えよ。

 

解答・解説
解答例

 申込書入力,告知手続

解説

 ー

 

(3)本文中の下線②の不備対応時間の短縮を考慮して設計した新システムの機能を表1中の機能名を用いて全て答えよ。また,考慮した内容を20字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 機能名:申込確認,申込書入力,告知手続,取扱報告書作成
 内容:入力内容をチェックすること

解説

 ー

 

(4)本文中の下線③の要望を考慮して設計した新システムの機能を表1中の機能名を用いて答えよ。また,考慮した内容を25字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 機能名:ペーパレス手続メニュー
 内容:次に実施すべき作業メニューだけ活性化すること

解説

 ー

 

設問3 実績集計機能について(1),(2)に答えよ。

 

(1)表1中の下線④は,どのような値を算出すればよいか。表1中の機能概要中の字句を用いて40字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 払込方法選択日時が当月である申込書データの,払込方法選択日時と申込日時の差

解説

 ー

 

(2)表1中の下線⑤は,どのような値を算出すればよいか。表1中の機能概要中の字句を用いて35字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 連携日時が当月である申込書データの,連携日時と申込日時の差

解説

 ー

 

IPA公開情報

出題趣旨

 情報システムを再構築する際,システムアーキテクトは,業務の効率化や利便性を考慮し,新システムの要望をシステム要件として設計する必要がある。
 本問では,保険申込システムの再構築を題材として,現行業務の正しい理解・把握の下,新システムへの要望から情報システムに求められている機能を正しく理解し,求められている情報システムを設計する能力を問う。

採点講評

 問 3 では,保険申込システムの再構築を題材に,新システムへの要望から情報システムに求められている機能の設計について出題した。全体として正答率は平均的であった。
 設問 2(3)は,正答率が低かった。責任者が書類の記載内容をチェックして,不備があった場合の不備対応時間の短縮を考慮して設計した新システムの機能を問う問題であったが,責任者がチェックしている書類を十分に理解していないと思われる解答が散見された。情報システムへの要望の背景・目的を正しく理解して機能を設計することが重要であることを理解してほしい。
 設問 3 は,(1),(2)ともに正答率が低かった。当月に申込手続業務が完了した申込の手続所要時間と,当月に契約管理システムに連携が完了した申込の申込書到着所要時間の算出方法を問う問題であったが,これらの業務に関連しない値を用いた解答が散見された。現行業務を正しく理解した上で,情報システムの機能を設計することが重要であることを理解してほしい。

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