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SA 令和3年度春期 午後Ⅰ 問1

   

企業及び利用者に関する情報の管理運用の見直しに関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

 A研究所は,地域の中小企業などの産業支援を目的にする,地方公共団体が設立した試験研究機関である。

〔A研究所の事業概要〕
 A研究所は,産業支援事業の一環として,特別な試験機器,設備などが必要になる試験について,企業から委託を受けてA研究所が試験を行う依頼試験事業(以下,依頼試験という)を行っている。それとは別に,試験機器,設備などを時間単位で貸し出し,企業自らが試験を行う機器・設備利用事業(以下,機器・設備利用という)を行っている。A研究所は,これら二つの事業を主要な産業支援事業(以下,主要事業という)にしており,その他に技術相談,技術セミナーの開催,独自の研究などを行っている。
 主要事業は,A研究所が所在する地域の中小企業の利用が中心であるが,その他の地域の企業,大企業,法人登記していない個人事業者などによる利用も可能である。
 主要事業は有料で提供しており,利用料金には,一般料金と,中小企業及び個人事業者向けの優遇料金がある。一般料金と優遇料金のどちらを適用するかについては,株式会社社団法人などの法人種別,業種,資本金及び従業員数でA研究所が判断している。過去の料金体系では,A研究所を所管する地方公共団体の区域内に本店,支店などの事業所が所在する場合,料金を安くする制度があったが,別の助成制度の提供に伴い,現在は廃止されている。

現行業務の概要
 現在の主要事業の基本的な業務の流れは,次のとおりである。

(1)問合せ,相談
 A研究所が提供する事業全般に関する問合せ,試験内容などに関する相談などを受け付ける。A研究所では,総合窓口を用意しており,初めてA研究所を利用する場合などは,まず総合窓口の職員が概要を確認し,適切な専門部署につないでいる。問合せ,相談内容は,主要事業を管理する情報システム(以下,事業管理システムという)に登録している。

(2)企業情報及び事業所情報の登録(新規利用の企業などの場合)
 利用者がA研究所を初めて利用する場合,総合窓口で名刺を提示してもらい,事業管理システムの企業マスタに利用者が所属する企業が既に登録されているかどうかを企業の商号又は名称(以下,企業名という)などで検索し,確認する。未登録の企業だった場合は,利用者に企業登録用紙への記入を依頼し,企業名,所在地,法人種別業種,資本金,従業員数などの情報(以下,企業情報という)を確認の上,企業マスタに登録する。利用者が所属企業の資本金,従業員数などが分からない場合,総合窓口の職員が代わりに公表情報を調べて登録するケースがある。
 企業情報を新規に登録すると,事業管理システムで企業を一意に識別する企業コードが付与される。また,企業情報が登録済でも,利用者が所属する事業所が未登録の場合は,同じ企業コードで枝番だけを変更し,事業所名,所在地,代表電話番号などの情報(以下,事業所情報という)を入力して企業マスタに登録する。その際,企業名などの既に企業マスタに登録済の属性情報は入力不要にしている。個人事業者の場合も,企業情報として登録し,法人種別には“個人”を設定する。
 なお,企業情報を新規に登録する際に,入力された内容を基に,適用料金区分として,中小企業及び個人事業者向けの料金を適用する“優遇”か,それ以外の"一般”かを,事業管理システムが自動判断して登録する。

(3)利用者情報の登録及び利用者カードの発行(新規利用者の場合)
 企業マスタに事業所情報が登録済で,利用者がA研究所を初めて利用する場合は,利用者に利用者登録用紙の記入を依頼し,名刺及び本人確認できる身分証を提示してもらい,総合窓口の職員が利用者の氏名,連絡先などの情報(以下,利用者情報という)を,登録済の事業所情報に関連づけて利用者マスタに登録する。その際,事業管理システムで利用者を一意に識別する利用者コードが付与される。
 利用者情報の登録が完了すると,主要事業の受付時などに使用するバーコード付きのプラスチックの利用者カードを発行する。大企業などでは様々な部署がA研究所を利用するケースがあり,誰が利用したのかを識別して管理したいことから,企業単位ではなく,利用者個人ごとに利用者カードを発行している。そのため,同じ企業に所属する者であっても,他の利用者の利用者カードを借りて利用することは禁止している。一方で,利用者カードが本人のものであるかどうかを,受付時に厳密には確認していない。

(4)試験内容などの決定
 専門部署の職員は,利用者からより詳しい内容を聞き取り,試験内容などの詳細を決定する。専門部署での受付時に利用者カードを提示してもらい,決定した試験内容などを事業管理システムに登録する。
 なお,利用者カードの持参を忘れた場合は,総合窓口に案内し,名刺及び本人確認できる身分証を提示してもらい,利用者カードを再発行している。再発行すると,古い利用者カードを無効にし,使用できないようにする。

(5)見積書及び申込書の作成
 省略。

(6)申込手続
 省略。

(7)試験実施
 省略

(8)報告書の納品(依頼試験の場合)
 依頼試験の場合,依頼内容に応じた試験結果を報告書にまとめ,利用者に対して納品する。報告書の宛名は企業名にしている。納品は,来所してもらい手渡しするか,報告書を郵送で提出する。郵送の場合の送付先は,利用者が所属する事業所の所在地にしている。

 

〔現行の事業管理システムにおける企業及び利用者に関する情報の管理運用〕
 現行の事業管理システムでは,企業及び利用者に関する情報をマスタで管理している。現行の事業管理システムで使用している主なマスタを表1に示す。企業情報を利用者に確認したり,職員が公表情報を調べたりする作業負荷を軽減するため,企業マスタで管理する属性の一部は,信用調査会社から年に1回,企業データベース(以下,企業DBという)を購入し,登録している。購入したデータは,A研究所を過去に利用したことがない企業も含めて企業マスタに登録・更新している。ただし,費用面の都合から,購入する企業DBは,A研究所が所在する区域内に本店が所在する企業だけとしており,本店以外の事業所情報及び個人事業者の情報は購入していない。

表1 現行の事業管理システムで使用している主なマスタ
マスタ名 主な属性(下線は主キーを示す)
企業マスタ 企業コード,企業コード枝番,本支店区分,業種¹⁾法人種別¹⁾,企業名(漢字)¹⁾,企業名(カナ)¹⁾,代表者氏名¹⁾,資本金¹⁾,従業員数¹⁾,適用料金区分,事業所名,郵便番号¹⁾,所在地¹⁾,代表電話番号¹⁾
利用者マスタ 利用者コード,企業コード,企業コード枝番,氏名,電話番号,ファックス番号,電子メールアドレス
利用者カードマスタ 利用者カード番号,利用者コード,状態区分
注¹⁾ 企業DBに存在する項目

〔企業及び利用者に関する情報の管理運用に対する改善要望〕
 現行の企業及び利用者に関する情報の管理運用に対して,利用者及びA研究所職員から次に示す改善要望が挙がっている。

(1)利用者からの改善要望

 ・A研究所を頻繁に利用しないので,利用者カードを忘れてくることが多い。その都度利用者カードの再発行が必要になり,手続が面倒である。

(2)総合窓口の職員からの改善要望

 ・A研究所が所在する区域外に本店がある企業など,企業DBに含まれない企業の利用が多く,企業情報の登録作業が負荷になっている。

 ・現在,事業所単位で企業マスタに登録しているので,本店の情報は登録されているが,支店などの事業所情報を新規に登録しなければならないケースが多い。事業所別で情報を管理しているのは,過去の料金体系時の経緯であり,現在の料金体系では企業マスタとして事業所別の情報を管理する必要性がない。利用者カードの発行,再発行に手数料を取っていないので,利用者カードの媒体や発行手続に係る費用が負担になっている。プラスチックの利用者カードは順次廃止し,電子化したいが,電子化後も利用者カードの発行の考え方,使用ルールは現在の運用を踏襲したい。

(3)専門部署の職員からの改善要望 企業名が変更になったり,屋号などの正式な企業名ではない情報で登録されていたりすることから,同一企業であるにもかかわらず別企業として企業マスタに登録されているデータが散見され,検索,集計などの際に問題がある。

 

企業に関する情報の管理運用の見直し
 現行の事業管理システムの老朽化に伴い,マスタで管理する情報の変更を含めて事業管理システムを刷新することにした。刷新に当たっては,前述の改善要望を踏まえて,企業に関する情報の管理運用を次のとおり見直すことにした。

・国税庁法人番号公表サイトで提供されている企業名,本店又は主たる事務所の所在地,及び法人に一つ指定される法人番号から構成される基本3情報(以下,法人情報という)の提供サービスを利用し,全国の法人情報の全件データ及び日次で取得した法人情報の差分データを用いて,企業マスタに登録・更新する。
 なお,提供される法人情報は,法人登記し,法人番号が指定された法人全てが対象である。また,法人番号が指定されない個人事業者などは対象外である。法人情報以外の電話番号,代表者氏名,支店の情報などは提供されない。企業マスタは法人情報の利用に伴い,事業所単位ではなく企業単位で情報を管理することにし,登録済の企業情報は,システム刷新時にできる限り法人情報に名寄せする。一方で,事業所情報は,利用者マスタで管理する。

・上記によって,企業情報の登録作業はある程度軽減され,誤った企業名での登録や重複登録は減る見込みである。また,①特定の属性情報を利用するに当たり,企業情報を確認したり,調べたりする作業負荷が増えないよう,企業DBを引き続き購入する

②企業に関する情報が企業マスタに登録されていないケースを想定して,企業情報の新規登録機能は引き続き残すことにする。

 

利用者に関する情報の管理運用の見直し
 企業に関する情報の管理運用の見直しと同時に,利用者に関する情報の管理運用も次のとおり見直すことにした。

・総合窓口における利用者情報の新規登録手続を簡便化するため,利用者がA研究所のホームページからオンラインで利用者情報を事前登録できる機能を提供する。その際,法人に所属する利用者の場合は,企業情報の入力をできる限り簡略化し,かつ所属企業との関連づけができるよう,  a  の入力を求める。

・オンラインでの登録の場合,なりすましによる不正登録を防止するため,仮登録の状態にする。利用者は,依頼試験又は機器・設備利用の際には一度は来所が必要になるので,初回の来所時に身元を確認してから本登録にする。

・プラスチックの利用者カードを廃止して,利用者コードから生成するQRコードを利用した利用者カードに変更し,スマートフォンなどでいつでも表示可能にする。本登録の際に,利用者の電子メールアドレスに利用者マスタの情報から生成したURLを送付し,そのURLにアクセスするとQRコードが表示される。このとき,③電子化前の利用者カードの使用ルールを踏襲し,URLにアクセスする都度,利用者の電子メールアドレス又は携帯電話のショートメッセージサービスにワンタイムのPINを送付し,PINを入力しないとQRコードが表示できない仕組みにする。

 

設問1 〔現行業務の概要〕について,利用者カードに印字されているバーコードに必ず含まれる情報を表1中の属性名を用いて答えよ。また,その属性をバーコードに含めている利用者カードに対する業務の管理運用上の理由を35字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 情報:利用者カード番号
 理由:再発行の際,古い利用者カードを使用できないようにしたいから

解説

 ー

 

設問2 〔企業に関する情報の管理運用の見直し〕について,(1)〜(3)に答えよ。

 

(1)企業マスタは事業所単位ではなく企業単位で情報を管理することにした一方で,利用者マスタ上で事業所情報を引き続き管理することにしたのは,主要事業の業務の流れ上どのような用途で利用することを想定したからか。20字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 報告書の送付先として利用すること

解説

 ー

 

(2)法人情報を利用することにしたが,本文中の下線①のように,作業負荷が増えないよう,企業DBを引き続き購入することにした理由を,表1中の属性名を用いて35字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 適用料金区分を判断するための情報は,法人情報には含まれないから

解説

 ー

 

(3)本文中の下線②のケースとして二つのケースが考えられる。一つは,法人登記した直後で法人情報がまだ提供されていない企業が利用するケースである。もう一つのケースを15字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 個人事業者が利用するケース

解説

 ー

 

設問3 〔利用者に関する情報の管理運用の見直し〕について,(1)〜(3)に答えよ。

 

(1)システム刷新後の利用者マスタで新たに必要になる情報が二つある。一つは,これまで企業マスタで管理していた事業所情報である。もう一つの情報を25字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 利用者が,仮登録か本登録かを識別する情報

解説

 ー

 

(2)オンラインでの利用者情報の登録について,  a  に入れる字句を答えよ。

 

解答・解説
解答例

 法人番号

解説

 ー

 

(3)本文中の下線③の使用ルールとは何か。30字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 他の利用者の利用者カードを借りて利用することの禁止

解説

 ー

 

IPA公開情報

出題趣旨

 近年,民間企業,官公庁において,様々なデータのオープン化,Web サービスによる公開が進められている。システムアーキテクトには,これらを活用した新たなサービスの開発,自社での効果的な利活用を企画,具現化する能力が求められる。
 本問では,試験研究機関における企業及び利用者に関する情報の管理運用の見直しを題材として,国税庁法人番号公表サイトで提供されている法人番号などの情報の活用も含めたマスタの設計見直し,セキュリティ対策を考慮したデータの管理方法を定義し,設計していく能力を問う。

採点講評

 問 1 では,試験研究機関での主要な産業支援事業を管理する情報システムを題材に,法人番号の活用を含めたシステム刷新に伴う企業及び利用者に関する情報の管理運用の見直しについて出題した。全体として正答率は平均的であった。
 設問 1 は,正答率が低かった。特に属性名については,“利用者コード”と誤って解答した受験者が多かった。“利用者コード”とすると,再発行時に古い利用者カードを無効にすることができない。〔現行業務の概要〕の記述をよく読んで,利用者カードの管理運用を理解して,正答を導き出してほしい。
 設問 2(2)は,正答率がやや低かった。“代表電話番号”,“代表者氏名”など,適用料金区分を判断する上で関係のない情報を誤って解答した受験者が多かった。なぜ企業情報を確認したり,調べたりする必要があるのかをしっかり理解してほしい。

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