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PM 令和5年度秋期 午後Ⅰ 問1

 

価値の共創を目指すプロジェクトチームのマネジメントに関する次の記述を読んで,設問に答えよ。

 E社はITベンダーで,不動産業や製造業を中心にシステムの構築,保守及び運用を手掛けており,クラウドサービスの提供,大規模なシステム開発プロジェクト及びアジャイル型開発プロジェクトのマネジメントの実績が豊富である。E社では近年,主要顧客からデジタル技術を活用した体験価値の提供についてよく相談を受けることから,E社経営層はこれをビジネスチャンスと捉え,事業化の検討を始めた。E社内で検討を進めたが,ショールームの来館体験や,住宅の完成イメージの体験など他社でも容易に実現できそうなアイディアしか出てこず,経営層の期待するE社独自の体験価値を提供する目途が立たなかった。E社経営層は新たな価値を創出する事業を実現するために,社内外を問わずノウハウを結集する必要があると考えた。そこで,E社は共同事業化の計画を作成し,G社及びH社に提案した。G社は,デジタル技術によってものづくりだけでなくサービス提供を含めた事業変革を目指すことを宣言している大手住宅建材・設備会社である。H社は,VRやARなどのxR技術とそれを生かしたUI/UXのデザインに強みをもつベンチャー企業である。両社とも自社の強みを生かせるメリットを感じ,共同事業化に合意して,E社が40%,G社とH社が30%の出資比率で新会社X社を設立した。

〔X社の状況〕
 X社の役員及び社員は出資元各社から出向し,社長はE社出身である。共同事業化の計画では,xR技術などを活用して,X社独自の体験価値を提供するシステムを,まずはG社での実証実験向けに開発する。その実績をベースに不動産デベロッパーなどへの展開を目指して,新しいニーズやアイディアを取り込みながら価値を高めていく構想である。X社は,体験価値を提供するシステム開発プロジェクト(以下,Xプロジェクトという)を立ち上げた。Xプロジェクトは,新たな体験価値を迅速に創出することが目的であり,出資元各社がこれまで経験したことのない事業なので,X社の社長は,共同事業化の計画は開発の成果を確認しながら修正する意向である。一方で,出資元の各社内の一部には,投資の回収だけを重視して,X社ができるだけ早期に収益を上げることを期待する意見もある。

Xプロジェクトの立ち上げの状況
 プロジェクトチームは,各社から出向してきている社員から,システム開発やマネジメントの経験が豊富な10名のメンバーを選任して編成された。F氏は,旧知のX社社長から推薦されてE社から出向してきており,アジャイル型開発のリーダーの経験が豊富である。F氏は,システム開発アプローチについて,①スキルや知見を出し合いながらスピード感をもって進めるアジャイル型開発アプローチを採用することを提案した。メンバー全員で話し合った結果,F氏の提案が採用され,早急にプロジェクトを立ち上げるためにプロジェクトマネージャ(PM)の役割が必要であることから,F氏がPMに選任された。
 F氏は,Xプロジェクトは,出資元各社では過去に経験がない新たな価値の創出への取組であると捉えている。このことをPMが理解するだけでなく,メンバー全員が理解して自発的にチャレンジをすることが重要であると考えた。そして,チャレンジの過程で新たなスキルを獲得して専門性を高め,そこで得られたものも含めて,それぞれの知見や体験をメンバー全員で共有して,チームによる価値の共創力を高めることを目指そうと考えた。この考えの下で,F氏はメンバー全員にヒアリングした結果,次のことを認識した。

・メンバーはいずれも出資元各社では課長,主任クラスであり,担当するそれぞれの分野での経験やノウハウが豊富である。E社からは,F氏を含めて4名が,G社,H社からは,それぞれ3名が参加している。

・メンバーはXプロジェクトの目的の実現に前向きな姿勢であり,提供する具体的な体験価値に対して,それぞれに異なる思いをもっているが,共有されてはいない。

・メンバーは出資元各社の期待も意識して活動する必要があると感じている。これがメンバーのチャレンジへの制約となりそうなので,プロジェクトの環境に配慮が必要である。

・メンバーは,チームの運営方法や作業の分担などのプロジェクトの進め方について,基本的にはPMのF氏の考えを尊重する意向ではあるが,各自の経験に基づいた自分なりの意見ももっている。その一方で,現在は自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態にはないと感じており,意見をはっきりと主張することはまだ控えているようである。

 F氏は,ヒアリングで認識したメンバーの状況から,当面はF氏がPMとしてマネジメントすることを継続するものの,チームによる価値の共創力を高めるためには,早期にチームによる自律的なマネジメントに移行する必要があると考えた。ただし,F氏は,②自律的なマネジメントに移行するのは,チームの状態が改善されたことを慎重に確認してからにしようと考えた。
 一方でF氏は,リーダーがメンバーを動機付けしてチームのパフォーマンスを向上させるリーダーシップに関しては,メンバーの状況をモニタリングしながら修整(テーラリング)していくことにした。具体的には,リーダーが,各メンバーの活動を阻害する要因を排除し,活動しやすいプロジェクトの環境を整備する支援型リーダーシップと,リーダーが主導的にメンバーの作業分担などを決める指示型リーダーシップとのバランスに配慮することにした。そこで,メンバーの状況から,③指示型リーダーシップの発揮をできるだけ控え,支援型リーダーシップを基本とすることにした。そして,Xプロジェクトでメンバー全員に理解してほしい重要なことを踏まえて④各メンバーがセルフリーダーシップを発揮できるようにしようと考えた

目標の設定と達成に向けた課題と対策
 F氏は,ヒアリングで認識したメンバーの状況から,メンバーが価値を共創する上でチームの軸となる,提供する体験価値に関するXプロジェクトの目標が必要と感じた。そこで,⑤メンバーで議論を重ね,メンバーが理解し納得した上で,Xプロジェクトの目標を設定しようと考えた。そして,“サイバー空間において近未来の暮らしを疑似体験できる”という体験価値の提供を目標として設定した。
 F氏は,設定したXプロジェクトの目標,及び目標の達成に向けてメンバーの積極的なチャレンジが必要であるという認識をX社社長と共有した。また,チャレンジには失敗のリスクが避けられないが,失敗から学びながら成長して目標を達成するというプロジェクトの進め方となることについてもX社社長と認識を合わせて,X社社長からX社の役員に説明してもらい理解を得た。さらに,F氏は,ヒアリングから認識したメンバーの状況を踏まえ,X社社長から出資元各社にXプロジェクトの進め方を説明してもらい,各社に納得してもらった。その上で,それをX社社長から各メンバーにも伝えてもらうことによって,⑥メンバーがチャレンジする上でのプロジェクトの環境を整備することにした

Xプロジェクトの行動の基本原則
 F氏は,Xプロジェクトの行動の基本原則をメンバーと協議した上で次のとおり定めた。

・担当する作業を決める際は,自分の得意な作業やできそうな作業だけではなく,各自にとってチャレンジングな作業を含めること

⑦他のメンバーに対して積極的にチャレンジの過程で得られたものを提供すること,また自身の専門性に固執せず柔軟に他のメンバーの意見を取り入れること

 F氏は,これらの行動の基本原則に基づいて作業を進めることで,チームによる価値の共創力を高めることにし,目標の達成に必要な作業を全てメンバーで洗い出して定義した。

設問1 〔Xプロジェクトの立ち上げの状況〕について答えよ。

 

(1)本文中の下線①について,F氏がアジャイル型開発アプローチを採用することを提案した理由は何か。30字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 成果を随時確認しながらプロジェクトを進められるから

解説

 ー

 

(2)本文中の下線②について,F氏が自律的なマネジメントに移行する際に確認しようとした,改善されたチームの状態とはどのような状態のことか。35字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態

解説

 ー

 

(3)本文中の下線③について,F氏が指示型リーダーシップの発揮をできるだけ控えることにしたのは,メンバーがどのような状況であるからか。30字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 メンバーは目的の実現に前向きな姿勢である状況

解説

 ー

 

(4)本文中の下線④について,各メンバーがセルフリーダーシップを発揮できるようにしようとF氏が考えた理由は何か。25字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 メンバーの自発的なチャレンジが重要だから

解説

 ー

 

設問2 〔目標の設定と達成に向けた課題と対策〕について答えよ。

 

(1)本文中の下線⑤について,F氏が,Xプロジェクトの目標の設定に当たって,メンバーで議論を重ね,メンバーが理解し納得した上で設定しようと考えた狙いは何か。35字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 提供する体験価値に対するメンバーの思いを統一し共有するため

解説

 ー

 

(2)本文中の下線⑥について,F氏が,Xプロジェクトの進め方を出資元各社に納得してもらい,それをX社社長から各メンバーにも伝えてもらうことによって整備することにしたプロジェクトの環境とはどのような環境か。35字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 メンバーが出資元各社の期待に制約されずにチャレンジできる環境

解説

 ー

 

設問3 〔Xプロジェクトの行動の基本原則〕について,F氏が本文中の下線⑦をXプロジェクトの行動の基本原則とした狙いは何か。30字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 知見や体験を共有して価値の共創力を高めるため

解説

 ー

 

IPA公開情報

出題趣旨

 プロジェクトマネージャ(PM)は,チームが自律的にパフォーマンスを最大限に発揮するように促し,支援する必要がある。そのためには,適切なマネジメントのスタイルを選択し,リーダーシップのスタイルを修整(テーラリング)することが求められる。
 本問では,過去に経験のない新たな価値の創出を目指すシステム開発プロジェクトを題材として,プロジェクトチームの形成,チームの自律型マネジメントの実現及び発揮するリーダーシップの修整について,PM としての実践的な能力を問う。

採点講評

 問 1 では,過去に経験のない新たな価値の創出を目指すシステム開発プロジェクトを題材に,価値の共創を目指すプロジェクトチームの形成,チームによる自律型マネジメントの実現及び発揮するリーダーシップの修整について出題した。全体として正答率は平均的であった。 
 設問 1(3)は,正答率がやや低かった。F 氏が指示型リーダーシップの発揮を控えようと考えたのは,“メンバーそれぞれが前向きな姿勢であり自分なりの意見をもっている”という状況をヒアリング結果から得たからであり,この点を読み取って解答してほしい。 
 設問 2(1)は,正答率がやや低かった。“X プロジェクトにおける目標の設定をする”のような,下線部や設問文に記載されている内容を抜き出した解答が散見された。“X プロジェクトにおける目標の設定”に当たっては,メンバーそれぞれの,提供する体験価値への思いを統一し,共有することが重要であることを読み取って解答してほしい。

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