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AP 午後 プロジェクトマネジメント[R3春]

     

プロジェクトのコスト見積りに関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。

 L社は大手機械メーカQ社のシステム子会社であり,Q社の様々なシステムの開発,運用及び保守を行っている。このたび,Q社は,新工場の設立に伴い,新工場用の生産管理システムを新規開発することを決定した。この生産管理システム開発プロジェクト(以下,本プロジェクトという)では,業務要件定義と受入れをQ社が担当し,システム設計から導入までと受入れの支援をL社が担当することになった。L社とQ社は,システム設計と受入れの支援を準委任契約,システム設計完了から導入まで(以下,実装工程という)を請負契約とした。
 本プロジェクトのプロジェクトマネージャには,L社システム開発部のM課長が任命された。本プロジェクトは現在Q社での業務要件定義が完了し,これからL社でシステム設計に着手するところである。L社側実装工程のコスト見積りは,同部のN君が担当することになった。

 なお,L社はQ社の情報システム部が,最近になって子会社として独立した会社であり,本プロジェクトの直前に実施した別の新工場用の生産管理システム開発プロジェクト(以下,前回プロジェクトという)が,L社独立後にQ社から最初に受注したプロジェクトであった。本プロジェクトのL社とQ社の担当範囲や契約形態は前回プロジェクトと同じである。

前回プロジェクトの問題とその対応
 前回プロジェクトの実装工程では,見積り時のスコープは工程完了まで変更がなかったのに,L社のコスト実績がコスト見積りを大きく超過した。しかし,①L社は超過コストをQ社に要求することはできなかった。本プロジェクトでも請負契約となるので,M課長はまず,前回プロジェクトで超過コストが発生した問題点を次のとおり洗い出した。

・コスト見積りの機能の範囲について,Q社が範囲に含まれると認識していた機能が,L社は範囲に含まれないと誤解していた。

・予算確保のためにできるだけ早く実装工程に対するコスト見積りを提出してほしいというQ社の要求に応えるため,L社はシステム設計の途中でWBSを一旦作成し,これに基づいてボトムアップ見積りの手法(以下,積上げ法という)によって実施したコスト見積りを,ほかの手法で見積りを実施する時間がなかったので,そのまま提出した。その後,完成したシステム設計書を請負契約の要求事項として使用したが,コスト見積りの見直しをせず,提出済みのコスト見積りが契約に採用された。

・コスト見積りに含まれていた機能の一部に,L社がコスト見積り提出時点では作業を詳細に分解し切れず,コスト見積りが過少となった作業があった。

・詳細に分解されていたにもかかわらず,想定外の不具合発生のリスクが顕在化し,見積りの基準としていた標準的な不具合発生のリスクへの対応を超えるコストが掛かった作業があった。

 

 次に,今後これらの問題点による超過コストが発生しないようにするため,M課長は本プロジェクトのコスト見積りに際して,N君に次の点を指示した。

  a  を作成し,L社とQ社で見積りの機能や作業の範囲に認識の相違がないようにすること。その後も変更があればメンテナンスして,Q社と合意すること

・実装工程に対するコスト見積りは,Q社の予算確保のためのコスト見積りと,契約に採用するためのコスト見積りの2回提出すること

(i)1回目のコスト見積りは,システム設計の初期の段階で,本プロジェクトに類似したシステム開発の複数のプロジェクトを基に類推法によって実施して,概算値ではあるが,できるだけ早く提出すること

(ⅱ)2回目のコスト見積りは,システム設計の完了後に②積上げ法に加えてファンクションポイント(以下,FPという)法でも実施すること

・積上げ法については,次の点について考慮すること

(ⅰ)作業を十分詳細に分解してWBSを完成すること

(ⅱ)標準的なリスクへの対応に基づく通常のケースだけでなく,特定したリスクがいずれも顕在化しない最良のケースと,特定したリスクが全て顕在化する最悪のケースも想定してコスト見積りを作成すること

 

1回目のコスト見積り
 これらの指示を基にN君はまず,Q社の業務要件定義の結果を基に  a  を作成し,Q社とその内容を確認した。
 次に,1回目のコスト見積りを類推法で実施し,その結果をM課長に報告した。その際,L社が独立する前も含めて実施した複数のプロジェクトのコスト見積りとコスト実績を比較対象にして,概算値を見積もったと説明した。
 しかし,M課長は,“③自分がコスト見積りに対して指示した事項を,適切に実施したという説明がない”とN君に指摘した。
 N君は,M課長の指摘に対して漏れていた説明を追加して,1回目のコスト見積りについてL社内の承認を得た。M課長は,この1回目のコスト見積りをQ社に提出した。

2回目のコスト見積り
 N君は,システム設計の完了後に,積上げ法とFP法で2回目のコスト見積りを実施した。

(1)積上げ法によるコスト見積り
 N君は,まず作業を,工数が漏れなく見積もれるWBSの最下位のレベルである  b  まで分解してWBSを完成させた後,工数を見積もり,これに単価を乗じてコストを算出した。
 次に,この見積もったコストを最頻値とし,これに加えて,最良のケースを想定して見積もった楽観値と,最悪のケースを想定して見積もった悲観値を算出した。楽観値と悲観値の重み付けをそれぞれ1とし,最頻値の重み付けを4としてコストに乗じ,これらを合計した値を6で割って期待値を算出することとした。例えば,最頻値が100千円で,楽観値は最頻値−10%,悲観値は最頻値+100%となった作業のコストの期待値は  c  千円となる。
   b  のコストの期待値を合計して,本プロジェクトの積上げ法によるコスト見積りを作成した。

(2)FP法によるコスト見積り
 N君は,FP法によってFPを算出して開発  d  を見積もり,これを工数に換算し単価を乗じて,コスト見積りを作成した。表1〜3は,本プロジェクトにおけるある1機能でのFPの算出例である。表1,表2を基に,表3でFPを算出した。

表1 データファンクションの一覧表
データ
ファンクション
ファンクションタイプ レコード
種類数
データ
項目数
複雑さの
評価
D1 EIF:外部インターフェースファイル 1 4
D2 ILF:内部論理ファイル 1 3
D3 EIF:外部インターフェースファイル 1 5
D4 ILF:内部論理ファイル 1 4
D5 ILF:内部論理ファイル 1 6
表2 トランザクションファンクションの一覧表トランザクション
トランザクション
ファンクション
ファンクションタイプ 関連
ファイル数
データ
項目数
複雑さの
評価
T1 EQ:外部照会 1 5
T2 EI:外部入力 2 7
T3 EO:外部出力 1 6
T4 EI:外部入力 2 8
T5 EQ:外部照会 1 5
T6 EQ:外部照会 3 10
表3 FPの算出表
ファンクション
タイプ
複雑さの評価 合計
個数 重み 個数 重み 個数 重み
EIF  1  ×3  1  ×4  0  ×6   7 
ILF     ×4     ×5     ×7     
EI     ×3     ×4     ×6     
EO     ×7     ×10     ×15     
EQ  2  ×5  0  ×7  1  ×10  20 
総合計(FP)   e  
注記 表中の_部分は,一部を除いて省略されている。

 N君は,M課長に積上げ法とFP法によるコスト見積りの差異は許容範囲であることを説明し,積上げ法のコスト見積りを2回目のコスト見積りとして採用することについて,L社内の承認を得た。M課長は,承認された2回目のコスト見積りをQ社に説明し,Q社の合意を得た。その際Q社に,業務要件の仕様変更のリスクを加味し,L社のコスト見積りの総額に  f  を追加して予算を確定するよう提案した。

出典:令和3年度春期 問9

設問1 本文中の  a    b    f  に入れる適切な字句を解答群の中から選び,記号で答えよ。

 

  1. EVM
  2. 活動
  3. コンティンジェンシ予備
  4. スコープ規定書
  5. スコープクリープ
  6. プロジェクト憲章
  7. マネジメント予備
  8. ワークパッケージ

 

解答・解説
解答例

 a:エ b:ク f:キ

解説
  1. 「見積りの機能や作業の範囲に認識の相違がないようにする」には、スコープとその担当を明確にする必要があり、一般に“スコープ定義書(規定書)”としてまとめられます。

  2. 「WBSの最下位のレベル」であるそれ以上分解できない作業単位を、“ワークパッケージ”といいます。

  3. 「業務要件の仕様変更のリスクを加味し」という表現から、事前にリスクとして認識できない不測の事態に備えた予算と推測されます。そのような予算を“マネジメント予備”と言います。
    なお、事前にリスクを認識して予め備えておくための予算のことを“コンティンジェンシ予備”といいます。

 

 

設問2 〔前回プロジェクトの問題とその対応〕について,(1),(2)に答えよ。

(1)本文中の下線①の理由を,契約形態の特徴を含めて30字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 請負契約は仕事の完成に対して報酬が支払われるから

解説

 「本プロジェクトで請負契約となるので」という記述から、“請負契約”であることが理由であることがわかります。なぜ請負契約だと超過コストが請求できないかというと、予めスコープと金額を決める契約だからです。

 

 

(2)本文中の下線②について,積上げ法に加えてもう一つ別の手法で見積りを行う目的を,30字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 複数の手法を併用して見積りの精度を高めるため

解説

 一つの手法で見積もるよりも、複数の手法で多面的に見積ることで、見積り結果の実態との乖離を抑えることができます。つまり精緻な見積りが期待できます。

 

 

設問3 〔1回目のコスト見積り〕について,本文中の下線③で漏れていた説明の内容を40字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 本プロジェクト類似の複数のシステム開発プロジェクトと比較していること

解説

 M課長が指示した内容は次のとおりです。

・スコープ規定書を作成し,L社とQ社で見積りの機能や作業の範囲に認識の相違がないようにすること。その後も変更があればメンテナンスして,Q社と合意すること

・実装工程に対するコスト見積りは,Q社の予算確保のためのコスト見積りと,契約に採用するためのコスト見積りの2回提出すること

(i)1回目のコスト見積りは,システム設計の初期の段階で,本プロジェクトに類似したシステム開発の複数のプロジェクトを基に類推法によって実施して,概算値ではあるが,できるだけ早く提出すること

(ⅱ)2回目のコスト見積りは,システム設計の完了後に積上げ法に加えてファンクションポイント(以下,FPという)法でも実施すること

・積上げ法については,次の点について考慮すること

(ⅰ)作業を十分詳細に分解してWBSを完成すること

(ⅱ)標準的なリスクへの対応に基づく通常のケースだけでなく,特定したリスクがいずれも顕在化しない最良のケースと,特定したリスクが全て顕在化する最悪のケースも想定してコスト見積りを作成すること

 下線③は、1回目のコスト見積りの段階ですが、赤字部分についての記述が無いため、ここが説明が漏れていた部分だと推測できます。

 

 

設問4 〔2回目のコスト見積り〕について,(1)〜(3)に答えよ。

(1)本文中の  c  に入れる適切な数値を答えよ。計算の結果,小数第1位以降に端数が出る場合は,小数第1位を四捨五入せよ。

 

解答・解説
解答例

 115

解説

 「楽観値と悲観値の重み付けをそれぞれ1とし,最頻値の重み付けを4」、「最頻値が100千円で,楽観値は最頻値−10%,悲観値は最頻値+100%」との条件から、作業のコストの期待値は、
 {(楽観値)+(最頻値 × 4)+(悲観値)} ÷ 6
= { 100 × 0.9 + 100 × 4 + 100 ×2 } ÷ 6
= 115[千円]
となります。

 

 

(2)本文中の  d  に入れる適切な字句を,2字で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 規模

解説

 FP法(ファンクションポイント法)は、ファンクションポイントという開発規模を表す指数を見積もる手法です。したがって規模が適切です。

 

 

(3)表3中の  e  に入れる適切な数値を答えよ。

 

解答・解説
解答例

 55

解説

 表1、表2の情報から、表3の空欄部分を全て埋めると下表の通りになります。

表3 FPの算出表
ファンクション
タイプ
複雑さの評価 合計
個数 重み 個数 重み 個数 重み
EIF  1  ×3  1  ×4  0  ×6   7 
ILF  2  ×4  1  ×5  0  ×7  13 
EI  0  ×3  2  ×4  0  ×6   8 
EO  1  ×7  0  ×10  0  ×15   7 
EQ  2  ×5  0  ×7  1  ×10  20 
総合計(FP)   55  

 したがって、総合計(FP)は55です。

 

 

IPA公開情報

出題趣旨

 昨今,情報システムの開発において,工程ごとに契約を締結する多段階契約が増えてきている。応用情報処理技術者にとって,各工程での契約形態の違いを理解して,プロジェクトの規模やコストの見積りを適切なタイミングで適切に実施できる能力を身に付けることは,益々重要となってきている。
 本問では,多段階契約を採用した大手機械メーカのシステム子会社のコスト見積りを題材として,契約形態についての基本的な理解,並びに類推法,ボトムアップ法,及びファンクションポイント法の見積り手法の考え方や手順の基本的な理解について問う。

採点講評

 問9では,多段階契約を採用した大手機械メーカのシステム子会社のコスト見積りを題材に,見積手法の考え方や手順及び契約形態について出題した。全体として正答率は平均的であった。
 設問1のfは,正答率がやや低かった。2回目のコスト見積額は,L社内の承認を得た後,Q社の合意を得たことによって,コストベースラインとなっており,M課長がQ社に提案した追加予算は,コストベースラインの外側であることから,マネジメント予備であることを理解してほしい。
 設問3は,正答率が低かった。類推法では,類似かつ複数のプロジェクトを比較する必要があり,本問では,そのうち類似プロジェクトとの比較を問うている。類似と複数の二つの視点があることを理解して正答を導いてほしい。
 設問4(2)は,正答率が低かった。ファンクションポイント法は,利用者の視点から,ソフトウェアの機能を基本にして,その処理内容の複雑さなどからファンクションポイントという点数を付けていき,開発規模を測定する手法である。ファンクションポイント法などの代表的な見積手法については,その特徴や見積方法の理解を深めてほしい。