SaaSを使った営業支援サービスに関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。
A社はオフィス機器の販売・設計・施工会社であり,自社で企画・設計したオフィス機器の販売や設計・施工をA社の顧客に実施している。A社営業部の営業部員は一日の大半を得意先との面会や移動に費やした後に,事務処理のために帰社する必要があって残業時間が増加していた。そこで,A社では,働き方改革の一環として,営業部員が営業拠点のPCだけではなく,自宅や外出先からスマートフォンやタブレットなどの端末からも仕事ができる環境を整えることになった。
このような背景から,A社システム部は,営業部員に対して自宅や外出先からも利用できる営業支援サービスを新規に提供することになった。これに合わせて,システム部のB部長は,システム部内にサービスデスクを設置することを決定し,サービスデスクのリーダとしてC課長を任命した。
(1)4月1日から営業支援サービスを開始する。
(2)営業支援サービスは①D社が提供しているSaaSであるEサービスを採用し,一部の機能をアドオン開発して,提供する。
(3)営業支援サービスは,顧客管理,営業管理及び販売促進の三つのモジュールで構成され,利用者は端末を使って営業支援サービスを利用する。
・顧客管理モジュール及び営業管理モジュールは,Eサービスで提供される機能及び画面をそのまま使用する。
・販売促進モジュールは,Eサービスで提供される標準の機能及び画面に,A社固有の機能及び画面をアドオン開発する。システム部の開発課はD社が公開しているAPIを利用してアドオン開発し,開発したソフトウェアを保守する。
(4)D社からA社向けに,開発・テスト環境及び稼働環境が提供される。
・開発・テスト環境は,開発課がアドオン開発及びテストで利用する環境である。D社によって,Eサービスの標準の機能及び画面のモジュールが展開される。
・稼働環境は,A社の利用者に営業支援サービスを提供する環境であり,開発課によって三つのモジュールが展開される。
(5)Eサービスは,D社によって,定期的にアップグレードされる。Eサービスのアップグレード及び営業支援サービスへの適用に関する概要は次のとおりである。
・Eサービスのアップグレードは,四半期に一回,事前に決められたスケジュールに従って実施される。
・アップグレード予定日の4週間前に,D社からアップグレードされる機能及び画面や変更点を記載したリリースノートが発行される。
・Eサービスで提供される標準の機能及び画面については,D社によってリグレッションテストが実施される。テスト完了後に,Eサービスの標準の機能及び画面のモジュールが開発・テスト環境に対して展開される。
・開発課は,アップグレードの適用に関して,サービスデスクと協議し,社内調整と必要な作業を行った後,稼働環境に営業支援サービスの三つのモジュールを展開する。
(6)Eサービス及びD社サービスデスクサービスに関するA社システム部とD社とのSLAの概要(抜粋)を表1に示す。
サービス名称 | サービスレベル項目 | 目標値 |
Eサービス | サービス提供時間 | 24時間365日(毎週日曜日0:00〜5:00に実施する定期保守)を除く) |
サービス稼働率 | 99.5%以上(1か月の停止時間の合計が a 分以内を目標値とする。) | |
平均サービス回復時間(MTRS) | 2時間以内 | |
D社サービスデスクサービス2) | サービス提供時間帯 | 9:00〜17:00(休日,祝日を除く) |
注1) 定期保守の中で,四半期に一回のアップグレードが実施される。 注2) D社サービスデスクでは,Eサービスの問合せとインシデント対応,及び公開しているAPIに関する技術的問題を解決する。A社のアドオン開発分の問合せへの対応は含まない。 |
(1)4月1日からA社サービスデスクサービスの運用を開始する。
(2)A社サービスデスクサービスは,営業支援サービスの利用者を支援するサービスデスク機能を提供する。サービスデスクの業務は,従来複数の組織で実施していた営業部員支援の業務を統合し, b としてシステム部に置いた。
(3)A社サービスデスクは利用者からの電話,Web,電子メールでの質問に回答するだけでなく,営業支援サービスのインシデント対応も行う。
C課長は,サービスの設計を開始し,営業部とシステム部とのSLAの概要(抜粋)を表2に,サービスデスクで実施するインシデント管理の手順を表3にまとめた。
サービス名称 | サービスレベル項目 | 目標値 |
営業支援サービス | サービス提供時間 | 24時間365日(毎週日曜日0:00〜12:00に実施する定期保守1)を除く) |
A社サービスデスクサービス | サービス提供時間帯 | 9:00〜17:00(休日,祝日を除く) |
注1) 定期保守の中で,四半期に一回のアップグレード,及び,A社のアドオン開発分の保守が実施される。 |
手順 | 内容 |
記録・分類 |
・利用者からインシデントを受け付ける。 ・インシデントを,緊急度,影響を受ける利用者の範囲などで分類し,インシデント管理ファイル1)に記録する。 |
優先度付け |
・インシデントに優先度として“高”,“中”,“低”のいずれかを付ける。優先度は,規定されている基準に基づいて付ける。 |
エスカレーション |
・サービスデスクが対応手順書2)を使って解決できないインシデントは,②開発課又はD社サービスデスクのどちらかをエスカレーショ ン先として決定し,エスカレーション先に調査を依頼する。 |
解決 |
・対応手順書又はエスカレーション先からの調査の回答を基に,に向けた対処を行う。 ・利用者が対処すべき作業がある場合は,利用者に作業を依頼する。 |
終了 |
・インシデントが解決したことを利用者に確認する。 ・回答内容などの記録を更新し,終了する。 |
注記 インシデントの記録は,対応した処置とともに随時更新する。 注1) インシデント管理ファイルにはインシデントだけでなく質問とその回答内容も記録される。 注2) 対応手順書は,インシデントに対応するために実施すべき解決処理の詳細が記載されている手順書のことで,サービスデスクが作成し整備する。対応手順書には,インシデントが及ぼすサービスへの影響を低減又は除去する方法を特定した場合の対応手順も記載されている。 |
〔サービスの開始〕
システム部は予定どおり,4月1日から営業支援サービスとA社サービスデスクサービスの提供を開始した。
・7月になって,A社サービスデスクでは,インシデント管理ファイルの記録を基に,高い頻度で発生した質問及びインシデントの中で,利用者が自分で解決できる内容をまとめた c を社内Webに公開した。
・ c を公開後しばらくして,利用者から,“必要な回答を探すのに時間が掛かる”,“対話的な質問ができないので活用しにくい”という声が上げられ,この結果, c の利用率が低いという課題が明らかになった。
C課長は,利用者からの声に対処するために,10月1日からチャットボットを利用することにした。チャットボットは,新たにD社が提供を開始するEサービスのモジュールであり,A社は必要なデータを整備することでチャットボットを利用できる。システム部は,チャットボットを営業支援サービスの四つ目のモジュールとして位置づけた。利用者が質問のキーワードを入力すると,想定される質問とその回答を返す。利用者が期待する回答が得られない場合には,キーワードを追加させるなど対話的な対応をする。チャットボットによって,利用者は, d 以外でも質問に回答してもらうことができる。なお,チャットボットを使っても期待する回答が得られない質問に対しては,サービスデスクが電子メールで対応する。
〔Eサービスのアップグレード対応〕
C課長は,Eサービスがアップグレードされる場合に必要となるシステム部の作業を計画した。
・開発課は,アップグレードされる機能及び画面について記載された e の中から,A社の業務に関連した機能及び画面を抽出し,影響するモジュールを特定する。
・開発課は,アップグレードがアドオン開発した機能に影響を及ぼさないかどうかを調査し,評価する。
・サービスデスクは, e に基づいて開発課と協議し, f を判断する。判断の結果に応じて,サービスデスクは,必要な作業を行う。
・サービスデスクは,営業支援サービスについて利用者に案内すべき内容をまとめ,アップグレードの適用に先立って利用者に通知する。
出典:令和3年度春期 問10
設問1 〔営業支援サービスの概要〕について,(1),(2)に答えよ。
(1)本文中の下線①について,SaaSを利用するA社のサービスマネジメントとして,最も適切なものを解答群の中から選び,記号で答えよ。
解答群
- Eサービスが定期的にアップグレードされる場合,開発課は営業支援サービスのリグレッションテストを行う必要はない。
- Eサービスを構成品目として管理するだけでなく,Eサービスを構成するシステムリソースを,構成品目として必ず管理する。
- 発生したインシデントをD社が解決する場合でも,A社システム部はA社営業部に対して,インシデントの解決についての説明責任をもつ。
- 予算業務及び会計業務において,営業支援サービスが使用する物理的リソースの減価償却費を計算する必要がある。
解答・解説
解答例
ウ
解説
(2)表1中の a に入れる適切な数値を答えよ。ここで,1か月は30日,日曜日は月4回で計算し,小数点以下は四捨五入して整数で求めよ。
解答・解説
解答例
210
解説
設問2 〔A社サービスデスクサービスの概要〕について,(1),(2)に答えよ。
(1)本文中の b に入れる適切な字句を解答群の中から選び,記号で答えよ。
解答群
- BCP
- BPO
- PMO
- SPOC
解答・解説
解答例
エ
解説
(2)表3中の下線②において,エスカレーション先を決定するときに必要となる判断内容は何か,30字以内で述べよ。
解答・解説
解答例
・A社のアドオン開発のインシデントなのか否か
・A社が保守するソフトウェアのインシデントかどうか
解説
設問3 〔サービスの開始〕について,(1),(2)に答えよ。
(1)本文中の c に入れる適切な字句を5字以内で答えよ。
解答・解説
解答例
FAQ
解説
(2)本文中の d に入れる適切な字句を,表1,2又は3中で使用されている字句を使って15字以内で答えよ。
解答・解説
解答例
サービス提供時間帯
解説
設問4 〔Eサービスのアップグレード対応〕について,(1),(2)に答えよ。
(1)本文中の e に入れる適切な字句を,〔営業支援サービスの概要〕で使用されている字句を使って,10字以内で答えよ。
解答・解説
解答例
リリースノート
解説
(2)本文中の f には,サービスデスクで実施する作業に関連する内容が入る。その内容について,20字以内で答えよ。
解答・解説
解答例
対応手順書の修正が必要かどうか
解説
IPA公開情報
出題趣旨
昨今,企業における労働時間の削減を実現するために,オフィスだけでなく,自宅や外出先からも仕事ができる環境の整備が進んでいる。
本問では,SaaSを用いた営業支援サービス及びサービスデスクサービスの設計を題材として,SLAの策定や評価に関する基本的な理解,及び合意した目標値の達成に向けた施策の理解について問う。
採点講評
問10では,SaaSを用いた営業支援サービス及びサービスデスクサービスの設計を題材に,SLAの策定や評価に関する基本的な理解,及び合意した目標値の達成に向けた施策の理解について出題した。全体として正答率は平均的であった。
設問1(2)は,正答率が平均的であった。SLAの対象となる1か月のサービス提供時間の計算がポイントとなるが,計算式自体は複雑ではないので,落ち着いて計算して正答を導いてほしい。
設問4(2)は,正答率がやや低かった。サービスデスク以外の部門で実施する内容についての解答が散見された。アップグレード時には稼働環境の機能が変更を受ける可能性があり,サービスデスク側でも手順を変更する必要があることに気付いてほしかった。