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ST 令和4年度春期 午後Ⅰ 問3

   

スーパーマーケットにおけるITを活用した事業拡大に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

 B社は全国展開のスーパーマーケットである。地域密着型の直営店舗を展開することで業績を伸ばしてきた。企業戦略としては拡大路線をとっており,店舗数も急増している。近年ECサイトでの販売も開始している。

〔B社の現状〕

(1)店舗運営と課題
 B社はこれまで店舗の出店の際に,本社が店長に対して店舗運営,ヒト,モノカネの管理などの教育を実施し,その教育を受けた店長が,地域の実情を考慮した店舗運営を行ってきた。個々の店舗では店長の裁量は大きく,店舗ごとに生産者の直売コーナー(以下,産直コーナーという)を設け,地域の特産を前面に押し出した販売を行っている。産直コーナーでは,店舗内の陳列方法や顧客とのコミュニケーションの取り方など,出品する生産者を全面的に支援している。農産物や水産物について,生産者が自ら商品への思いや生産方法を説明することで顧客の共感を得ている。
 しかし,最近では,地域の実情を産直コーナーの販売に考慮しきれない店長が見受けられ,店舗ごとで産直コーナーの売上げのばらつきが大きくなっている。そこで売上げが低い店舗の店長が他店舗の成功事例を短時間で学べるなど効果のある施策が必要となっている。
 B社は店舗で会員カードを発行している。発行した会員カードの会員情報や店舗POSシステムから吸い上げた購買履歴は店舗購買管理システムで管理している。店舗購買管理システムのデータをそれぞれの店舗の店長が確認し,店舗での販売促進に活用している。

(2)ECサイトと課題
 ECサイトは会員制であり本社が全面的に運営している。ECサイトの顧客は全国を対象にしており,店舗で発行した会員カードとは別の会員管理を行っている。店舗と同様にECサイトにも産直コーナーが存在し(以下,EC産直コーナーという),商品に注文が入り次第,本社から生産者へ伝票が送られ,生産者から直接顧客に商品を届けている。EC産直コーナーを含むECサイトの売上げは,本社に計上される。商品は,本社の担当者が全国の店舗の商品情報を基に,地域の特産品から選定してEC産直コーナーで販売している。各店舗から得た情報をECサイトで紹介しているものの,店舗のように生産者からの情報を発信するなど,顧客に商品を訴求することができていない。
 生産者は店舗での販売を優先しているので,EC産直コーナーへ出品をする際に商品の数量を少なめに設定している。注文が入ったときの生産者への連絡は,ファックスによって伝票が送られる仕組みなので,半日から1日程度のタイムラグが発生しており,生産者は欠品になっていないのかなどの情報をリアルタイムでは把握できずにいた。また,生産者から本社への出品に関する情報伝達も同様にタイムラグが発生していた。そのため,生産者からの出品情報がタイムリーにECサイトに反映されず,ECサイト上の欠品状態が長く続き,B社としても生産者としても機会損失が大きくなっていた。
 生産者が出品している店舗の店長はECサイトの売上げが伸びることによって,店舗の売上げが下がるのではないかという懸念もあり,ECサイトへの支援には消極的である。
 本社は,顧客のECサイトでの購買履歴を管理するEC購買管理システムを運営しており,顧客に商品をお勧め表示するなどのダイレクトマーケティングに活用している。しかし,ECサイトと店舗は別の会員管理なので,前日に店舗で購入したものをECサイトでお勧め表示してしまうことがあった。

 

〔B社のIT戦略〕
 B社は店舗運営やECサイトの課題を解決し,事業の継続的拡大を達成するためにIT戦略を立案し,次の施策を設定した。

① 店舗運営ノウハウの活用によるEC産直コーナーの強化

② 会員データの一元管理によるダイレクトマーケティングの強化

③ 動画配信によるラーニングシステムの構築

 

 まずは,店舗の産直コーナーの売上げが高くITリテラシの高い店長と生産者がいる店舗を全国から選定し,パイロット店舗として,これらの施策を実施し,その効果測定や要因分析を行った上で全国展開を行う。

店舗運営ノウハウの活用によるEC産直コーナーの強化
 B社はEC産直コーナーを強化するために,本社で全て運営するのではなく,商品や生産者のアピール方法やEC産直コーナーの商品情報の表示については,店長が積極的に施策に加わるように,ある仕組みを取り入れた。
 また,生産者の情報や商品ごとの特徴,販売履歴などを保有するシステム(以下,生産者管理システムという)を構築する。生産者管理システムでは生産者と店長の意見や要望を反映できる生産者のページを用意し,EC産直コーナーで表示する。さらに,生産者管理システムを生産者に貸与するモバイル端末と連携させて,モバイル端末で出品から伝票回送まで全ての処理が完結できるようにする。生産者はモバイル端末を用いて出品した商品の販売状況をリアルタイムで確認でき,在庫が少なくなってきた場合は商品の数量を適切に設定することができる。また,EC産直コーナーの生産者のページに顧客とメッセージのやり取りができる機能を設け,メッセージを通じて商品への思いや生産方法を,生産者自ら説明できるようにする。

会員データの一元管理によるダイレクトマーケティングの強化
 会員データを一元管理の上,店舗購買管理システムとEC購買管理システムを統合し新たに統合購買管理システムとし,店舗運営,ECサイトともに統合購買管理システムのデータを基にダイレクトマーケティングを実施できるようにする。店舗での購買履歴とECサイトでの購買履歴の融合ができるようになり,購買履歴から顧客が欲しい情報や,買いたい商品をタイムリーにお勧め商品としてECサイトにログインしたときに提示できるようにする。また,購買履歴を基に,EC産直コーナーの商品の中で顧客が好みそうな商品をマッチングさせる機能を設けるなど,顧客へ効果的なマーケティングを行えるようにする。

動画配信によるラーニングシステムの構築
 動画を投稿して視聴できるシステム(以下,動画ラーニングシステムという)を新たに構築する。パイロット店舗の店長に依頼し,産直コーナーの運営のポイントや解説を動画にして動画ラーニングシステムに投稿してもらう。投稿された動画は産直コーナーの売上げが低い店舗の店長が視聴して,活用することを狙いとする。動画を充実させるために,積極的に投稿したくなるような仕組みを用意する。マニュアルではなく動画にして,店舗運営をイメージできるようにすることでベストプラクティスを取り入れやすくする。動画を視聴した店長が役に立ったかどうかを“いいね”ボタンで評価することができる。
 店長の基本属性情報や評価情報を管理する人事システムに対して動画ラーニングシステムで取得する評価データを連携し,人事システムで新規に管理する。
 動画は最長でも3分までとする。また,動画にはタグを付けてタグで検索できたり,いいね数で検索できたりするなど検索機能を充実させる。動画の再生回数,いいね数をカウントする機能を有し,再生回数やいいね数によって動画を投稿した店長の評価にもつなげられるようにする。

設問1 〔店舗運営ノウハウの活用によるEC産直コーナーの強化〕について,(1)〜(3)に答えよ。

 

(1)EC産直コーナーにおいて顧客に商品を訴求するために店舗運営におけるどのようなノウハウを活用しようとしたか,30字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 生産者が自ら商品への思いや生産方法を説明すること

解説

 ー

 

(2)店長が積極的に施策に加わるように取り入れた仕組みは具体的にどのようなものか,35字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 EC 産直コーナーの売上げは各店舗の売上げに反映されるようにした。

解説

 ー

 

(3)生産者がモバイル端末で情報を受け渡すことによる生産者の利点を,機会損失の観点から25字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 在庫が少ない商品をすぐに出品できる。

解説

 ー

 

設問2 〔会員データの一元管理によるダイレクトマーケティングの強化〕について,(1),(2)に答えよ。

 

(1)店舗購買管理システムとEC購買管理システムを統合することで解決しようとした問題点は何か,40字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 前日に店舗で購入したものを EC サイトでお勧め表示してしまうこと

解説

 ー

 

(2)生産者の商品の中で顧客が好みそうな商品をマッチングさせるために購買履歴と組み合わせて活用する生産者管理システムのデータを二つ答えよ。

 

解答・解説
解答例

 ・生産者の情報
 ・商品ごとの特徴

解説

 ー

 

設問3 〔動画配信によるラーニングシステムの構築〕について(1)〜(3)に答えよ。

 

(1)動画ラーニングシステムで取得し,人事システムで新規に管理する店長の評価データを二つ答えよ。

 

解答・解説
解答例

 ・投稿した動画の再生回数
 ・投稿した動画のいいね数

解説

 ー

 

(2)動画に時間制限を設けた上で検索機能を充実させる狙いは何か,20字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 短時間で学べるようにするため

解説

 ー

 

(3)動画を投稿した店長を評価する仕組みを新たに取り入れたことは,どのような懸念への対応であるか,25字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 店長が動画を投稿しようと思わない懸念

解説

 ー

 

IPA公開情報

出題趣旨

 IT ストラテジストには,業種ごとの事業特性を踏まえて,経営戦略の実現に向けた IT を活用した事業戦略を策定する能力が求められる。
 本問では,スーパーマーケットにおける IT を活用した事業拡大を題材として,事業環境の下で発生している課題に対して,IT を活用した幾つかの施策と情報システム対策を策定する能力を問う。具体的には,企業の拡大施策を支えるために,各課題に対する施策や理由,その実現のために必要となる情報システムの機能の構築能力を問う。

採点講評

 問 3 では,スーパーマーケットにおける IT を活用した事業拡大について出題した。全体として正答率は平均的で,状況設定はおおむね理解されているようであった。
 設問 1(2)は正答率が低かった。生産者管理システムや動画ラーニングシステムに関する解答が散見された。実店舗の店長が EC サイトへの支援に積極的になれない理由に気付いてほしい。
 設問 3(3)は正答率がやや低かった。動画ラーニングシステムは EC サイトの施策ではなく,実店舗の施策であるということを理解していない解答が見受けられた。施策ごとに何を目的にしているのかを理解して解答してほしい。
 IT ストラテジストは,業種ごとの事業特性を踏まえて,経営戦略の実現に向けた IT を活用した事業戦略を策定する能力を高めてほしい。

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