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ST 令和4年度春期 午後Ⅰ 問1

   

国際物流会社におけるデジタルトランスフォーメーションに関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。

 A社は,中堅の国際物流会社で,中国・アジアを中心に複数拠点があり,国内での荷物の引取り,輸出手続,輸出こん包,国際輸送から,海外での輸入手続前の貨物を保管する保税倉庫の管理,輸入手続,現地配送までをワンストップでサービス提供する国際配送体制を整えて,物流サービスの提供料による売上げを伸ばしてきた。近年,国際的な物流ネットワークの発展とスマートフォンの普及によるインターネットユーザが増加している。インターネットの通信販売サイトを通じて,海外の消費者に日本国内の商品を販売する国際的な電子商取引(以下,越境ECという)の市場が拡大しており,A社も,物流サービスだけでなく,越境EC分野のサービスを提供している。そこで,A社は,デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進によってビジネスモデルを変革することで,A社の事業全体を成長させるためのIT戦略を立案した。

〔これまでのA社の取組〕
 A社の顧客には,地元特産品や名産品を生産する中小のメーカや販売会社が多い。越境ECは海外向けBtoCビジネスなので,現地に拠点や代理店をもたない企業でも,初期投資額を抑えながら世界進出を狙える。ただし,越境ECを行うには,通信販売とはいえ貿易の専門知識が必要であり,多言語,多通貨に対応したECサイトの開設や海外のECモールに出店するノウハウも必要になる。A社は,このような世界進出を狙う顧客に向けて,SaaS型の越境ECシステムを活用するサービス(以下,越境ECサービスという)を提供している。越境ECサービスとして,越境ECサイトのコンテンツ管理,出品管理,商品管理,注文管理,決済管理,会員管理の機能をもった越境ECシステムとその運用を提供しており,近年,越境ECサービスの売上げが徐々に伸びている。顧客のカスタマイズ要望に応じた開発も行っているが,越境ECサービスを開始した当初は,カスタマイズ要望は少ないと想定していたので処理効率を考慮して,統合されたデータベースに各機能が密結合で連携するシステム構成となっている。

A社のサービスの課題
 A社は,IT戦略の立案に当たって,越境ECサービスを利用する顧客のニーズをヒアリングした。その結果,A社は,次の三つの課題を解決することによるビジネスモデルの変革を検討した。

(1)市場の変化への対応について
 市場においてECモールなどのチャネルや決済方法が次々と新しくなっており,こうした変化に対応するために,顧客から頻繁に個別のカスタマイズ要望がある。越境ECサービスでは,小さなカスタマイズ要望でも,システム全体に影響することが多く,開発規模が大きくなる傾向にある。A社は,できるだけ多くのカスタマイズ要望に迅速に応えたいが,開発期間やコストを要するので限界がある。

(2)幅広い消費者層の取り込みについて
 A社の顧客は,海外のSNSを活用したマーケティング活動によって幅広い消費者層を取り込んで,注文を獲得したいと考えている。A社は,消費者の注文の受付から現地への発送までは提供できているが,マーケティング活動の支援はできていない。

(3)商品の配送について
 A社の顧客の多くは,現地で在庫をもつ仕組みがないので,商品を配送する場合,日本から海外へ直送するしかない。直送のリードタイムは,国によっては2週間以上掛かることが多く,消費者は送料も負担する必要があるので,A社の顧客は,消費者の満足を得られていないと考えている。A社は,現地の輸入手続前に関税を留保したまま保管が可能な保税倉庫を利用して,顧客の在庫を預かるサービスを提供している。A社の顧客にこのサービスを利用してもらうことができれば,保税倉庫へ商品をロットで輸送して保管しておき,そこから消費者への配送を手配できるので,リードタイムを短縮でき,送料負担も軽減できる。しかし,A社の顧客は,売れ残りによる保管料の負担や返送又は廃棄の費用の負担を懸念しているので,保税倉庫の利用に前向きではない。

 

A社のDX推進
 A社は,ビジネスモデルを変革することで,三つの課題を解決し,越境ECサービスの利用料による売上げだけでなく,物流サービスの提供料による売上げも伸ばすことができると考えた。そこで,A社は次のようなIT戦略を策定し,DXを推進した。

① 越境ECシステムの再構築
 A社は,小さなカスタマイズ要望が大きな開発につながらないようにするために,越境ECシステムを再構築する。再構築する越境ECシステムでは,アプリケーションソフトウェアを機能ごとに分割して,独立したそれぞれの機能を一つのマイクロサービスとして管理する。そして,各マイクロサービスを組み合わせて,相互に疎結合で連携して機能するシステム構成にする。A社は,越境ECシステムをマイクロサービス化することによって,顧客に必要な機能を選んで利用してもらい,カスタマイズ要望による追加機能や機能の改変が頻繁に発生しても,マイクロサービス単位で改修を行うことで,システム全体への影響を抑えながら,迅速に対応できると考えた。さらに,各機能を疎結合で連携させることによって,APIエコノミーを活用するなど,A社からも顧客の売上増に結び付くビジネスモデルを提案しやすくなると考えた。

② マーケティング活動の支援
 A社は,顧客のマーケティング活動を支援するために,APIエコノミーの活用を具体的に進めた。消費者が使い慣れたSNSなどのアカウントを使った認証サービスによって,顧客の越境ECサイトへの会員登録を省力化できるソーシャルサインインを導入する。A社は,消費者がSNSのショッピングタグから越境ECサイトに入りやすくなれば,A社の顧客が消費者からの注文を獲得しやすくなると考えた。A社は,顧客のマーケティング活動の効果を適切に把握するために,ソーシャルサインインに加え,SNS上のライブコマースとデジタル広告を活用したテストマーケティングを行った。テストマーケティングでは,SNSを経由して会員登録した会員からの注文を,予想以上に獲得することができた。これによって,ソーシャルサインインは,マーケティング活動を支援するサービスとして成立することが検証できた。

③ 保税倉庫の活用を可能にするサービスの提供
 A社は,消費者の満足度の向上のために,保税倉庫を活用した配送は不可欠だと考えた。保税倉庫に在庫を確保した場合,販売見込みが大きく外れたとしても,長期滞留や別の倉庫への在庫移動は国内の倉庫のように手続上容易ではない。そのため,保税倉庫を活用するには,需要予測に基づいた適切な在庫管理が必要になるが,A社の顧客は,需要予測を行うシステムやノウハウをもたない企業がほとんどである。そこで,越境ECサービスで,A社の顧客の販売商品の特性に応じて,適切な在庫管理が行える需要予測サービスを新たに提供することを考えた。A社は,ECサイトやECモールでの売上実績や消費者の商品の検索履歴に加えて,イベントの実施やSNSへの発信,広告配信といったマーケティング活動のデータなどを収集して,需要を予測するためのデータとして蓄積する。A社は,AIを活用して大量のデータから相関関係を分析する需要予測サービスによって,A社の顧客が,売れ筋商品の在庫を補充するロットとタイミングを判断したり,イベントを実施する際に必要な在庫量を事前に確保したりすることができると考えた。

 

 A社は,こうしたDXの推進によって,ビジネスモデルの変革を実現した。

設問1 〔A社のサービスの課題〕について,A社は課題を解決することによって,どのように事業を成長させようと考えたか,35字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 越境 EC サービスと物流サービスの両方の事業の売上げを成長させる。

解説

 ー

 

設問2 〔A社のDX推進〕の①越境ECシステムの再構築について,(1),(2)に答えよ。

 

(1)小さなカスタマイズ要望が大きな開発につながる現状の越境ECシステムの仕組み上の原因について,35字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 統合されたデータベースに各機能が密結合で連携するシステム構成

解説

 ー

 

(2)越境ECシステムの再構築によって,A社サービスのどのような課題を解決できるか,30字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 顧客からの頻繁なカスタマイズ要望に迅速に応えること

解説

 ー

 

設問3 〔A社のDX推進〕の②マーケティング活動の支援について,A社がAPIエコノミーの活用を具体的に進めることによって,A社の顧客が得られるメリットは何か,25字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 SNS 経由の消費者からの注文を獲得しやすくなる。

解説

 ー

 

設問4 〔A社のDX推進〕の③保税倉庫の活用を可能にするサービスの提供について,(1),(2)に答えよ。

 

(1)消費者の満足度の向上のために,保税倉庫を活用した配送が不可欠だとA社が考えた理由について,30字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 リードタイムを短縮でき,消費者の送料負担も軽減できるから

解説

 ー

 

(2)需要予測の情報を用いて,A社の顧客はどのように在庫管理を行うことができると考えたか,具体的に二つ挙げ,それぞれ30字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 ・売れ筋商品の在庫を補充するロットとタイミングを判断する。
 ・イベントを実施する際に必要な在庫量を事前に確保する。

解説

 ー

 

IPA公開情報

出題趣旨

 IT ストラテジストには,情報技術を活用して事業を改革,高度化,最適化するための基本戦略を策定する能力が求められる。
 本問では,国際物流会社の越境 EC 事業によるデジタルトランスフォーメーション(DX)を題材として,事業環境の変化に対応するビジネスモデル変革を推進するために,IT を活用した新サービスの構想・計画の実行と評価・改善を行う能力を評価する。具体的には,越境 EC システムの再構築によって事業全体を成長させるために解決すべき課題の分析,IT を活用したサービスの見直しへの対応などについて,実務能力を問う。

採点講評

 問 1 では,国際物流会社におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)について出題した。全体として正答率は平均的で,状況設定はおおむね理解されているようであった。
 設問2(2)は,正答率が低く,“小さなカスタマイズ要望でも大きな開発につながる”という解答が見受けられた。ここでは,顧客からのカスタマイズ要望が頻繁にある点と,それに迅速に応える必要がある点に着目して,越境 EC システムを再構築する A 社の考えを理解してほしい。
 設問 3 では,“消費者が越境 EC サービスを利用しやすくなる”という解答が散見された。A 社は SNS のアカウントをもつ消費者が注文しやすいようにソーシャルサインインを導入し,テストマーケティングを行っている。具体的にターゲットを定めて,API エコノミーを活用している点を理解してほしい。
 IT ストラテジストは,対象となる事業・業務環境を分析,評価した上で,デジタル技術の的確な活用を判断し,事業戦略を推進する能力を高めてほしい。

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