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SM 令和3年度春期 午後Ⅰ 問1

   

複数の外部供給者に対する供給者管理に関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。

 K社は,医薬品メーカであり,医薬品の研究開発や製造を行っている。K社の研究部には,研究開発を専門に行う従業員(以下,研究職員という)がおり,貸与されたPCを使用して研究開発を行っている。
 K社の情報システム部は,社内システムの開発,保守,運用,及びサービスマネジメントを行っている。社内システムの一つに研究開発管理システムがあり,研究開発管理サービスとして研究職員にサービスを提供している。情報システム部は,研究開発管理サービスのサービスデスクの機能の一部を,L社に外部委託している。L社が行うサービスデスクの機能を図1に示す。


図1 L社が行うサービスデスクの機能

〔新規システムの開発〕
 K社の研究職員が作成した論文や研究資料は,これまでK社内のファイルサーバに保管していたが,研究開発の効率向上のため,研究職員が自ら論文や研究資料を登録し,研究部内の論文や研究資料を検索できるシステム(以下,検索システムという)を新規に開発した。
 検索システムは,検索サーバ2台,データベースサーバ1台,負荷分散装置(以下,LBという)1台で構成され,平日の8時から22時まで稼働する。サーバ機器,LBはM社が納入し,設定した。また,アプリケーションプログラム(以下,APという)は,N社が設計し,製造した。

検索サービスの開始
 情報システム部は,検索システムを研究職員が利用する検索サービスとして提供する。検索サービスのサービスデスク機能は,L社に外部委託する。また,情報システム部は,M社にシステム構成機器の管理サービスを,N社にAP管理サービスを,それぞれ外部委託し,支援を受けることにした。
 情報システム部のITサービスマネージャであるP氏は,検索サービスの開始に向けて,L社,M社及びN社(以下,それぞれをサプライヤ各社という)と必要となる契約を検討した。また,情報システム部とサービスの顧客である研究部との間で合意するサービスレベル項目とサービスレベル目標を検討した。
 P氏は,研究部に対して検索サービスへの要求事項をヒアリングした。研究部の要求事項は,次のとおりである。

・検索サービスは,平日の8時から22時まで利用したい。

・サービスデスクの電話受付は平日の10時から18時までとしてほしい。

・問合せの回答は,翌営業日の18時までにほしい。

・検索を開始してから,5秒以内で検索結果を表示してほしい。

・検索サービスを利用できない障害が発生した場合,2時間以内で検索サービスを利用可能な状態にしてほしい。

 

 P氏は,サプライヤ各社から提示された主な契約事項の案を表1にまとめた。

表1 サプライヤ各社から提示された主な契約事項の案

 P氏は,研究部の要求事項とサプライヤ各社から提示された主な契約事項の案に対して,研究部,サプライヤ各社と調整を行った。特に,M社とは,(ア)システム構成機器の部品交換に関する契約事項の案についての調整を行った。
 P氏は,サービスレベル項目とサービスレベル目標を検討し,情報システム部と研究部で正式に合意することにした。P氏が検討したサービスレベル項目とサービスレベル目標は,表2のとおりであり,目標の達成状況は月次で集計する。

表2 検索サービスのサービスレベル項目とサービスレベル目標(抜粋)

 P氏は,サービスレベル目標について社内で調整を行い,情報システム部はサプライヤ各社と契約を締結した。また,サプライヤ各社は,各社間で直接契約を締結しないので,P氏は,サプライヤ各社とのコミュニケーションの方法として,検索サービスに関する変更情報の共有,情報システム部と研究部とのサービスレベル報告会議の議事録の送付,及び情報交換と討論を行う会議(以下,フォーラムという)を行うことにした。

検索サービスで発生したインシデント
 検索サービスが開始して3か月が経過した10月1日に,サービスデスクは利用者から“検索結果が表示されるまで時間を要する”といった問合せを受け付けた。サービスデスクの担当者は,ノウハウデータベースを参照し,指示書に従って“しばらく待ってから再度検索してください。”と回答した。同様の問合せが,その後20分で10件発生した。そこで,最初に受け付けた問合せから20分経過して,サービスデスクは,応答遅延の事象が多発している状況を情報システム部に電子メールで送信した後,電話でも連絡した。連絡を受けたP氏は,発生している事象をインシデントと判断した。情報システム部ではインシデントの解決方法が分からない事象だったので,P氏は,M社とN社に調査及びインシデントの解決の依頼を行った。
 N社は,検索サーバとデータベースサーバのログを使って調査を行ったが,特に不具合は発見されなかった。M社が機器の調査を行ったところ,LBの動作が不安定になっていることが判明し,M社は情報システム部にインシデントの回避策として,サービスを一旦停止し,LBの再起動を行ってサービスを再開する方法を提示した。LBの再起動には10分程度必要であるとの内容であった。情報システム部は回避策の実施を決定し,(イ)サプライヤ各社に通知した。情報システム部は回避策を実施し,検索サービスを再開した。その結果,応答遅延の事象は発生しなくなった。最初の応答遅延の問合せから検索サービス再開までに,1時間45分掛かった。
 M社がLBの製品メーカに詳細な調査を依頼したところ,LBのファームウェアの不具合で,間欠的な障害が発生すること,及び再発時はLBを再起動することで不安定な状態を解消することができることが判明した。M社は,情報システム部に対しインシデントの原因,インシデント再発時の対処方法,及び製品メーカから問題を解決するファームウェア改修版が提供され,検索サービスのLBのファームウェアの変更が完了するまでに約3か月を要することを報告した。

応答時間の実績の集計
 P氏は,10月分の検索サービスの応答時間の実績を集計した。10月の検索件数の合計は5,000件であり,10月の応答時間の実績は表3のとおりであった。

表3 10月の応答時間の実績

検索サービスの改善
 P氏は,サプライヤ各社とフォーラムを開催することにした。フォーラムで話し合われた結果,ファームウェア改修版が提供されるまでに,LBの動作が不安定になるインシデントが発生する可能性が高いことから,インシデントが発生したときの処置をインシデントモデルとしてあらかじめ決めておき,情報システム部とサプライヤ各社で共有することになった。M社はLBの製品メーカからの情報を基に,“10分間で3件以上応答遅延の問合せが発生する場合は,LBの動作が不安定と判断できる”との見解を示した。そこで,今後このような事象が発生した場合,情報システム部とサプライヤ各社は,インシデントモデルに定義された役割,インシデントプロセスの活動,エスカレーションの手順などに従って,定義した時間内にインシデントの解決を図ることを目標にすることとした。サプライヤ各社との討論の結果は,改善案としてまとめられた。P氏はサプライヤ各社の賛同を得て,今後の活動を決定した。フォーラムで決定した検索サービスの改善案は表4のとおりである。

表4 検索サービスの改善案

 P氏は,表4の改善案について順次,実施していくことにした。また,P氏は,フオーラムで行うサプライヤ各社の検討や活動が,(ウ)サービスレベル目標を達成するために有効と判断し,今後も定期的にフォーラムを開催することにした。

設問1 〔検索サービスの開始〕について,本文中の下線(ア)でM社の契約事項の案を調整する理由は何か。40字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 ・2 時間以内に利用可能な状態にするという要求事項を満たさないおそれがあ るから。
 ・項番⑤のサービスレベル目標を達成できないおそれがあるから。

解説

 ー

 

設問2 〔検索サービスで発生したインシデント〕について,本文中の下線(イ)でサプライヤ各社に通知している。サプライヤ各社以外に,通知すべき相手先と通知すべき内容を40字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 利用者に,インシデントの内容,サービス停止時刻及び回復予定時刻を通知す る。

解説

 ー

 

設問3 〔応答時間の実績の集計]について,表3から90パーセンタイル値に該当する応答時間は何秒か答えよ。また,10月の応答時間に関するサービスレベル目標は,達成,未達成のどちらか。答案用紙の達成・未達成のいずれかを○で囲んで示せ。

 

解答・解説
解答例

 2.4 達成

解説

 ー

 

設問4 〔検索サービスの改善〕について,(1)〜(3)に答えよ。

 

(1)サービス提供者がサービスレベル目標を達成するために,インシデントモデルを整備しておくことで得られるサービス提供者にとっての利点を40字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 事前に定義した時間内にインシデントの解決を図ることができる。

解説

 ー

 

(2)表4の  a  には,〔検索サービスで発生したインシデント〕の事例の教訓から,サービスの早期回復に向けて,サービスデスクで行う内容が入る。適切な内容を35字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 インシデントと判断して情報システム部に電子メールで連絡を行う。

解説

 ー

 

(3)P氏は,本文中の下線(ウ)で,フォーラムの開催が有効と判断した。P氏は,フォーラムをどのような場として有効活用することにしたのか。30字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 サプライヤ各社が協調して活動を決定できる場

解説

 ー

 

IPA公開情報

出題趣旨

 IT サービスマネジメントでは,提供するサービスの一部機能を外部供給者に委託する場合,サービスの要求事項を考慮し,SLA を顧客と合意するに当たって,外部供給者との調整が重要になる。本問では,外部供給者が複数存在するサービスを題材として,社内顧客や外部供給者との調整能力,及びインシデント発生に備えた調整能力を問う。

採点講評

 問 1 では,複数の外部供給者とのサービス開始前の調整,及びサービス開始後のインシデント発生への対応を題材に,供給者管理について出題した。全体として正答率は平均的であった。
 設問 1 は,具体的な要求事項やサービスレベル項目に着目した解答が少なく,正答率が低かった。設問 4(1)は,正答率が高かった。インシデントモデルを整備しておくことで,インシデントを早期回復できることが正しく理解されているようであった。
 設問 4(2)は,サービスデスクが行う内容を求めたが,LB の再起動など解決方法に注目した解答が多く,正 答率が低かった。LB の製品メーカからの情報を基に,サービスデスクの機能として実施する内容を解答してほしかった。
 設問 4(3)は,フォーラムの開催意義を求めたが,単に情報共有やサービスレベルの達成状況を確認するだけにとどまった解答が多く,正答率が低かった。サービス品質の維持及び向上のため,サプライヤ各社が協調して活動を決定することについて解答してほしかった。

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