資格部

資格・検定の試験情報、対策方法、問題解説などをご紹介

SA 令和4年度春期 午後Ⅰ 問1

   

新たなコンタクトセンタシステムの構築に関する次の記述を読んで,設問1,2に答えよ。

 A社は,化粧品,健康食品などの個人向け商品の製造及び販売を行っている。商品は,薬局,コンビニエンスストアなどの実店舗及び主要なECサイトのほか,A社直営のオンラインストアでも販売を行っている。近年は,オンラインストア経由での販売を伸ばすために,オンラインストアの会員へのポイント付与,各種キャンペーンの実施などに力を入れている。

〔カスタマサービスの現状〕
 A社では現在,顧客向けのカスタマサービスとして,電話及びWebフォームからの問合せを受け付けている。
 電話での問合せについては,顧客が問合せ窓口のフリーダイヤルに電話すると,自動音声応答(以下,IVRという)で問合せ内容を識別し,内容に応じて,国内3拠点にあるA社のコンタクトセンタに振り分けられる。各コンタクトセンタでは,数十名のオペレータが対応しており,IVR経由で着信した電話は,コンタクトセンタ内にある構内交換機(以下,PBXという)でオペレータの座席に設置されている電話機に分配され,つながる仕組みになっている。
 また,Webフォームから受け付けた問合せについても,Webフォーム上で問合せ内容の分類を選択してもらうことで,電話での問合せと同様に内容に応じて,各コンタクトセンタに振り分けられる。Webフォームからの問合せについては,各コンタクトセンタに電話対応とは別の対応チームを設置しており,管理者がオペレータの中から担当者を割り当て,その担当者が回答テンプレートを参考に返信メールを作成し,顧客に回答している。
 電話及びWebフォームからの問合せ及び回答内容については,顧客管理システム上に登録して管理している。
 また,A社では,四半期に一度,問合せ内容の統計をとり,分析して,よくある問合せ内容について,A社のWebサイト上に,FAQとして掲載し,情報発信している。電話及びWebフォームからの問合せ内容は,顧客の行動に応じて様々である。よくある問合せ内容及び特徴を表1に示す。

表1 顧客の行動ごとのよくある問合せ内容及び特徴
顧客の行動 よくある問合せ 問合せ内容の特徴
商品購入前の検討 ・含まれる成分
・商品の違い
・顧客状況に応じたお勧め商品
体質など顧客ごとに気になる点が異なり,多岐にわたる傾向がある。
購入方法の情報収集 ・商品を購入できる店舗情報
・店舗での新商品の取扱状況
店舗情報を参照し,明確に回答できるものが多い。
オンラインストアでの購入 ・配送料
・配送方法の変更
・注文のキャンセル
・返品
配送業者との調整など,オンラインストア上で処理できないものが多い。
購入した商品の使用 ・使用順序,タイミング
・使用期限
・保管方法
商品ごとに定められた回答ができるものが多い。
会員情報の確認 ・パスワード忘れ
・ポイント照会
本人確認を行うことで,手続,回答できるものが多い。

〔カスタマサービスの課題〕
 A社では,コンタクトセンタで勤務するオペレータ及び管理者並びに商品事業部の社員に対してカスタマサービスの現状についてヒアリング調査を行い,表2に示す課題を抽出した。

表2 カスタマサービスの課題
対象者 ヒアリングで抽出した課題
コンタクトセンタのオペレータ (a)新商品の発売が毎月数回あり,発売時にテレビなどのメディアで取り上げられると,商品購入前の検討,購入方法及びオンラインストアでの購入手続に関する問合せが急増し,対応が大変になる。
(b)オンラインストアの会員限定のセール・キャンペーンが始まると,会員情報に関する問合せが急増し,1件ごとの対応は簡単であるが,1日中電話が鳴りやまない。
(c)問合せが急増すると,オペレータに電話がつながるまでに長時間待たせることになり,顧客からのクレームにつながっている。
(d)お勧め商品に関する問合せは,顧客の体質,希望などをよく聞き取りをしてから顧客に適した商品を紹介しているので,対応時間が長くなる。
コンタクトセンタの管理者 (e)近年は各地域内でコンタクトセンタの設置が増えており,オペレータの人材確保が困難になっている。一方で,育児,介護などで,フルタイムで出社して働くことが難しいオペレータもおり,在宅かつ柔軟な勤務時間で働きたいというニーズが高まっている。
(f)オペレータの出勤のシフト計画は前月に作成していること,また人員の余裕がないことから,問合せ件数の増減に対してオペレータの出勤人数を柔軟に調整できていない。
(g)新商品の発売時は,当該商品のFAQが掲載されていないので,電話及びWebフォームからの問合せが急増する。FAQを見れば分かるような簡単な問合せも多いので,FAQを早く掲載したい。
(h)大規模災害時,感染症の拡大時などには,特定のコンタクトセンタを一時的に閉鎖せざるを得ないケースが想定され,その際にカスタマサービスの継続が危ぶまれる。
商品事業部の社員 (i)顧客からの問合せの情報は,コンタクトセンタ内で解決できない内容がエスカレーションされることはあるが,それ以外は特に共有されていない。商品の改善のために,他の情報も有効に活用したい。
(j)直営のオンラインストアは24時間利用できるが,電話の問合せは日中にしか対応していない。オンラインストアで商品購入時に不明点があったり,会員情報にアクセスできなかったりして,注文途中の離脱が多く,販売機会の損失につながっている。

新たなコンタクトセンタシステムの構築
 カスタマサービスの課題を踏まえて,A社では,表3に示すサービス機能を有する新たなコンタクトセンタシステムを構築することにした。
 なお,これらの機能はコンタクトセンタのオペレータ及び管理者向けの機能であるが,ナレッジベース及びキーワード分析の機能は,商品事業部の社員も利用できることにした。

表3 新たなコンタクトセンタシステムのサービス機能
サービス機能 機能概要
クラウド型PBX オペレータが利用する電話機をPC上で電話対応できるソフトフォンに変更し,PCからインターネットを経由して電話の発着信,通話などができるようにする。
コンタクトセンタ間の着信自動分配 国内3拠点のコンタクトセンタの運用状況及びオペレータの稼働状況を総合的に管理し,問合せ内容だけでなく,運用状況及び稼働状況を見ながら適切に電話の振分けを行えるようにする。
オムニチャネル 現在の電話,Webフォームからの問合せチャネルに加えて,次に示す複数のチャネルからの問合せを可能とする。有人対応ではないサービスは24時間対応可能とする。
  AIチャットボット A社のWebサイトからチャットを起動し,顧客からの質問に対してAIがFAQを参考に自動回答したり,定型的な手続を実行したりする。AIチャットボットで対応困難な場合,顧客は有人チャットを起動できる。ただし,オペレータが繁忙の場合は“お待ちください”と表示する。また,ある条件のときは,有人チャットを起動できない設定にする。
  有人チャット オペレータが,顧客からのチャットでの問合せに対して回答する。一人のオペレータが複数のチャットを起動し,同時に複数の顧客との対応ができるようにする。
  ボイスボット IVR上で,顧客が電話で話しかけた内容に対して,AIチャットボットと同様に,AIが音声で自動回答したり,手続を実行したりする。
  ビデオ通話 ビデオ機能で顔を見たり,商品を映したりしながらの通話を可能とする。
ナレッジベース FAQを容易に作成,公開でき,FAQに対する評価結果などから作成・更新が必要なFAQを把握できるようにする。
コールバック 電話がつながるまでそのまま待つか,オペレータからの電話の折返しを要求するかをIVR上で顧客が選択できるようにする。
自動録音 IVR上で通話内容を録音することを案内し,通話内容を自動で録音し,顧客管理システム上の対応履歴にひも付けて管理する。
通話内容の自動テキスト化 自動録音した内容を,AIの音声認識技術を使ってテキスト化し,顧客管理システム上の対応履歴にひも付けて管理する。
キーワード分析 テキスト化した通話内容からキーワード分析を行い,商品ごとにどのような問合せ,クレームなどが多いのかを自動で統計をとり,分析できるようにする。

コンタクトセンタシステム構築後の運用
 新たなコンタクトセンタシステムでは,問合せのチャネルが増加するので,次のとおり運用することにした。

・オペレータの勤務時間帯は,従来どおりの日中だけとする。

・ビデオ通話と電話は,通話だけか,映像も交えた対応かという違いだけで,対応処理がほぼ同じであるので,同じ体制で対応する。

・有人チャットは,会話型のコミュニケーションができる良さがあるものの,突然会話が途切れて反応がなくなるなどの特殊なコミュニケーション手段になる。①効率的に顧客対応を行うために,オペレータをビデオ通話及び電話とは分けて,有人チャット専任の体制とする。

・Webフォームからの問合せ対応は,従来どおりの体制で対応する。

・AIチャットボット及びボイスボットは,将来的に広範囲の問合せに対応できることを目指すが,有効性を評価しながら段階的に対象を増やすことにする。稼働当初は,オペレータの業務を補完する目的で,急増しやすい問合せ,かつそれぞれの機能の特徴で対応できる見込みが高い問合せを対象にする。一方で,新商品購入者の声を直接聞きたい狙いもあり,顧客が使用中の商品に関する問合せは,稼働当初は対象にしない。

・問合せ内容に応じて,国内3拠点のコンタクトセンタに振り分けるのはこれまでと同じ対応とするが,②状況によっては,問合せを柔軟に振り分けられるようにする。そのための,オペレータに対するトレーニングを行う。

・コンタクトセンタの管理者及び商品事業部の社員がナレッジベースの機能を使い,随時FAQの作成・更新を行い,公開する。また,FAQの情報が足りなかったり,古かったりする場合は,オペレータがFAQの作成・更新の依頼を行うこともできるようにする。

 

設問1 〔新たなコンタクトセンタシステムの構築〕について,(1)〜(5)に答えよ。

 

(1)クラウド型PBXを導入した,オペレータの勤務形態の改善に関する目的を25字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 オペレータが在宅でも働けるようにするため

解説

 ー

 

(2)AIチャットボット及びボイスボットでは,稼働当初はどのような問合せに対応することを想定しているか。問合せ時の顧客の行動を表1中から全て答えよ。

 

解答・解説
解答例

 購入方法の情報収集,会員情報の確認

解説

 ー

 

(3)ある条件のときは,AIチャットボットから有人チャットを起動できない設定にしているが,それはどのような条件のときか。コンタクトセンタの運用を踏まえて,20字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 オペレータの勤務時間帯以外のとき

解説

 ー

 

(4)電話のコールバックの仕組みを導入して解決を図る直接的な課題を表2中の(a)〜(j)の記号で一つ答えよ。

 

解答・解説
解答例

 (c)

解説

 ー

 

(5)キーワード分析の機能を商品事業部の社員が利用できることにした理由を35字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 商品の問合せ,クレーム内容などを商品の改善につなげたいから

解説

 ー

 

設問2 〔コンタクトセンタシステム構築後の運用〕について,(1)〜(3)に答えよ。

 

(1)本文中の下線①で想定する効率的な顧客対応とは具体的にどのようなものか。25字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 一人のオペレータが同時に複数の顧客と対応する

解説

 ー

 

(2)本文中の下線②の状況として,カスタマサービスの課題から二つ想定している。一つは,特定のコンタクトセンタへの問合せが急増して,対応しきれなくなりそうな状況である。もう一つ想定している状況を30字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 特定のコンタクトセンタを一時的に閉鎖せざるを得ない状況

解説

 ー

 

(3)随時FAQの作成・更新を行い,公開できるようにした目的を,カスタマサービスの課題を踏まえて30字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 新商品発売時に,簡単な問合せが急増しないようにするため

解説

 ー

 

IPA公開情報

出題趣旨

 近年,企業のカスタマサービスでは,CX(カスタマエクスペリエンス)向上のために,様々なチャネルからの問合せを可能としている。一方で,コンタクトセンタには限られた人員で効率的に問合せ対応するための工夫も求められており,システムアーキテクトは,様々なデジタル技術を活用してサービス設計を行う必要がある。
 本問では,個人向け商品の製造及び販売を行っている企業における新たなコンタクトセンタシステムの構築を題材として,関係者の要求や運用上の制約などを考慮し,必要な機能設計,運用設計を行う能力を問う。

採点講評

 問 1 では,新たなコンタクトセンタの構築を題材に,サービス設計,運用設計について出題した。全体として正答率は平均的であった。
 設問 1(2)は,正答率が低かった。AI チャットボット及びボイスボットで対応可能な問合せ内容を,表 1 の内容を読んだだけで選択し,“購入した商品の使用”を解答に含めていた受験者が多かった。本文中に記載されている稼働当初の対象範囲をよく読み,サービス導入の方針をよく理解して,正答を導き出してほしい。
 設問 1(5)は,正答率は平均的であったが,単に表 3 のキーワード分析の機能概要に記載された内容だけを解答するものが散見された。商品事業部の社員が利用できることにした理由を問うているので,機能でできることだけでなく,何の目的に機能を利用させるのかを理解した上で解答してほしい。
 設問 2(3)は,正答率が低かった。“随時 FAQ の作成・更新”をできるようにすることで FAQ を早く掲載できるようにしたことと,その“FAQ を公開”することで簡単な問合せの急増を防ぐ効果を期待したことの両方に気付いてほしかったが,いずれか一方にしか気付いていないと思われる解答が多かった。新しいサービス機能の導入とともに,運用を見直したことによる狙いをしっかり理解してほしい。

前問 ナビ 次問