ネットワーク運用管理の自動化に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
A社は,中堅の中古自動車販売会社であり,東京に本社のほか10店舗を構えている。
〔現状の在庫管理システム〕
A社では,在庫管理システムを導入している。本社及び店舗では,社内の全ての在庫情報を把握できる。在庫管理システムは,本社の在庫管理サーバ,DHCPサーバ,DNSサーバ,本社及び店舗に2台ずつある在庫管理端末,並びにこれらを接続するレイヤ2スイッチ(以下,L2SWという)から構成される。在庫管理端末はDHCPクライアントである。
本社と店舗との間は,広域イーサネットサービス網(以下,広域イーサ網という)を用いてレイヤ2接続を行っている。L2SWにVLANは設定していない。
本社の在庫管理サーバでは,在庫情報の管理と,在庫管理システム全ての機器のSNMPによる監視を行っている。在庫管理システムで利用するIPアドレスは192.168.1.0/24であり,各機器にはIPアドレスが一つ割り当てられている。
店舗が追加される際には,その都度,情報システム部の社員が現地に出向き,L2SWと在庫管理端末を設置している。店舗のL2SWは,在庫管理サーバからSSHによるリモートログインが可能である。
現状の在庫管理システムの構成を,図1に示す。
図1 現状の在庫管理システムの構成(抜粋)
A社は,販売エリアの拡大に着手することにした。またこの機会に,新たに顧客サービスとして全ての店舗でフリーWi-Fiを提供することにした。情報システム部のBさんは上司から,ネットワーク更改について検討するよう指示された。
Bさんが指示を受けたネットワーク更改の要件を次に示す。
・WAN回線は,広域イーサ網からインターネットに変更する。
・全ての店舗にフリーWi-Fiのアクセスポイント(以下,Wi-FiAPという)を導入する。
・既存の在庫管理システムの機器は継続利用する。
・フリーWi-Fiやインターネットを経由して社外から在庫管理システムに接続させない。
・店舗における機器の新設・故障交換作業は,店舗の店員が行えるようにする。
・SNMPによる監視及びSSHによるリモートログインの機能は,在庫管理サーバから分離し,新たに設置する運用管理サーバに担わせる。
〔新ネットワークの設計〕
Bさんは,本社と店舗との接続に,インターネット接続事業者であるC社が提供する法人向けソリューションサービスを利用することを考えた。このサービスでは,インターネット上にL2overIPトンネルを作成する機能をもつルータ(以下,RTという)を用いる。RTの利用構成を図2に示す。
図2 RTの利用構成
Bさんが調査した内容を次に示す。
・RTは物理インタフェース(以下,インタフェースをIFという)として,BP,EP,RPをもつ。
・EPは,ISP-CにPPPoE接続を行い,グローバルIPアドレスが一つ割り当てられる。RTには,C社から出荷された時にPPPoEの認証情報があらかじめ設定されている。
・RPに接続した機器は,RTのNAT機能を介してインターネットにアクセスできる。インターネットからRPに接続した機器へのアクセスはできない。
・RPに接続した機器とBPに接続した機器との間の通信はできない。
・RTの設定及び管理は,C社データセンタ上のRT管理コントローラから行う。他の機器からは行うことができない。
・RTがRT管理コントローラと接続するときには,RTのクライアント証明書を利用する。
・RT管理コントローラは,EPに付与されたIPアドレスに対し,pingによる死活監視及びSNMPによるMIBの取得を行う。
Bさんが考えた,ネットワーク更改後の在庫管理システムの構成を図3に示す。
図3 ネットワーク更改後の在庫管理システムの構成(抜粋)
本社に設置するRTと店舗に設置するRT間でポイントツーポイントのトンネルを作成し,本社を中心としたスター型接続を行う。店舗のRTのBPは,トンネルで接続された本社のRTのBPと同一ブロードキャストドメインとなる。
Bさんが考えた,新規店舗への機器の導入手順を次に示す。
・情報システム部は,店舗に設置する機器一式,構成図,手順書及びケーブルを店舗に送付する。そのうちL2SW,Wi-FiAPについては,本社であらかじめ初期設定を済ませておく。
・店員は,送付された構成図を参照して各機器を接続し,電源を投入する。
・RTは,自動でISP-CにPPPoE接続し,インターネットへの通信が可能な状態になる。
・RTは,RT管理コントローラに,①REST APIを利用してRTのシリアル番号とEPのIPアドレスを送信する。
・RTは,RT管理コントローラが保持する最新のファームウェアバージョン番号を受け取る。
・RTは,RTで動作しているファームウェアバージョンが古い場合は,RT管理コントローラから最新ファームウェアをダウンロードし,更新後に再起動する。
・RTは,RT管理コントローラから本社のRTのIPアドレスを取得する。
・RTは,本社のRTとの間にレイヤ2トンネル接続を確立する。
・店員は,Wi-FiAP配下のWi-Fi端末及び②在庫管理端末から通信試験を行う。
・店員は,作業完了を情報システム部に連絡する。
〔構成管理の自動化〕
Bさんは,③店舗から作業完了の連絡を受けた後で確認を行うために,LLDP (Link Layer Discovery Protocol)を用いてBP配下の接続構成を自動で把握することにした。RT,L2SW及び在庫管理端末は,必要なIFからOSI基本参照モデルの第 a 層プロトコルであるLLDPによって,隣接機器に自分の機器名やIFの情報を送信する。隣接機器は受信したLLDPの情報を,LLDP-MIBに保持する。
なお,全ての機器でLLDP-MED(LLDP Media Endpoint Discovery)を無効にしている。
運用管理サーバは,L2SWと在庫管理端末から b によってLLDP-MIBを取得して,L2SWと在庫管理端末のポート接続リストを作成する。さらに,運用管理サーバは, c が収集したRTのLLDP-MIBの情報をRESTAPIを使って取得して,ポート接続リストに加える。
ポート接続リストとは, b で情報を取得する対象の機器(以下,自機器という)のIFと,そこに接続される隣接機器のIFを組みにした表である。ある店舗で想定されるポート接続リストの例を,表1に示す。
表1 ある店舗で想定されるポート接続リストの例
Bさんは上司にネットワーク更改案を提案し,更改案が採用された。
設問1 〔現状の在庫管理システム〕について,(1)〜(3)に答えよ。
(1)名前解決に用いるサーバのIPアドレスを,在庫管理端末に通知するサーバは何か。図1中の機器名で答えよ。
解答・解説
解答例
DHCP サーバ
解説
ー
(2)図1の構成において,在庫管理システムのセグメントのIPアドレス数に着目すると,店舗の最大数は計算上幾つになるか。整数で答えよ。
解答・解説
解答例
82
解説
ー
(3)本社のL2SWのMACアドレステーブルに何も学習されていない場合,在庫管理サーバが監視のために送信したユニキャストのICMP Echo requestは,本社のL2SWでどのように転送されるか。30字以内で述べよ。このとき,監視対象機器に対するIPアドレスとMACアドレスの対応は在庫管理サーバのARPテーブルに保持されているものとする。
解答・解説
解答例
L2SW の入力ポート以外の全てのポートに転送される。
解説
ー
設問2 〔新ネットワークの設計〕について(1)〜(4)に答えよ。
(1)C社がRTを出荷するとき,RTにRT管理コントローラをIPアドレスではなくFQDNで記述する利点は何か。50字以内で述べよ。
解答・解説
解答例
RT 管理コントローラの IP アドレスが変更された場合でも RT の設定変更が不 要である。
解説
ー
(2)本文中の下線①について,RTがRT管理コントローラに登録する際に用いる,OSI基本参照モデルでアプリケーション層に属するプロトコルを答えよ。
解答・解説
解答例
HTTP 又は HTTPS
解説
ー
(3)本文中の下線②について,店舗の在庫管理端末から運用管理サーバにtracerouteコマンドを実行すると,どの機器のIPアドレスが表示されるか。図3中の機器名で全て答えよ。
解答・解説
解答例
運用管理サーバ
解説
ー
(4)図3において,全店舗のWi-FiAPから送られてくるログを受信するサーバを追加で設置する場合に,本社には設置することができないのはなぜか。ネットワーク設計の観点から,30字以内で述べよ。
解答・解説
解答例
店舗から本社には BP 経由でしかアクセスができないから
解説
ー
設問3 〔構成管理の自動化〕について,(1)〜(4)に答えよ。
(1)本文中の a に入れる適切な数値を答えよ。
解答・解説
解答例
2
解説
ー
(2)本文中の b に入れる適切なプロトコル名及び c に入れる適切な機器名を,本文中の字句を用いて答えよ。
解答・解説
解答例
b:SNMP
c:RT 管理コントローラ
解説
ー
(3)本文中の下線③について,情報システム部は,何がどのような状態であるという確認を行うか。25字以内で述べよ。ただし,機器などの物品は事前に検品され,初期不良や故障はないものとする。
解答・解説
解答例
各機器の接続構成が構成図どおりであること
解説
ー
(4)図3において,情報システム部の管理外のL2SW機器(以下,L2SW-Xという)がL2SW01のIF2と在庫管理端末011のIF1の間に接続されたとき,表1はどのようになるか。適切なものを解答群の中から三つ選び,記号で答えよ。ここで,L2SW-XはLLDPが有効になっているが,管理用IPアドレスは情報システム部で把握していないものとする。また,接続の前後で行番号の順序に変更はないものとする。
- 行番号3が削除される。
- 行番号3の隣接機器名が変更される。
- 行番号5が削除される。
- 行番号5の隣接機器名が変更される。
- 自機器名L2SW-Xの行が存在する。
- 隣接機器名L2SW-Xの行が存在する。
解答・解説
解答例
イ,エ,カ
解説
ー
IPA公開情報
出題趣旨
省力化のために,ネットワークの設定や運用の自動化を行うことが増えてきている。これは,インターネットの普及によって全国どこでも同質のネットワークが入手しやすくなったことや,システムから直接操作できる API を備えたネットワーク機器が増えてきたことが背景にある。
具体的な例として,コントローラによるネットワーク機器の集中管理や,ネットワーク構成管理の自動化がよく行われる。
本問では,システムの全国展開を題材に,自動化する際によく使われるネットワーク,システム,及びプロトコルに関する知識,理解を問う。
採点講評
問 1 では,システムの全国展開を題材に,ネットワークの設定や運用の自動化について出題した。全体として,正答率は平均的であった。
設問 1(3)の正答率は平均的であった。レイヤ 2 スイッチでフラッディングが生じる条件は基本的な知識なので,よく理解してほしい。
設問 2(3)は,正答率が低かった。traceroute コマンドはトラブルシュートの場面でよく用いられるものなので,動作原理を理解してほしい。
設問 3(3)は,正答率が高かった。LLDP を用いた確認であることを読み落とした解答が散見された。本文中に示された条件をきちんと読み取り,正答を導き出してほしい。