ドラッグストアチェーンの商品物流の概念データモデリングに関する次の記述を読んで,設問に答えよ。
ドラッグストアチェーンのF社は,商品物流の業務改革を検討しており,システム化のために概念データモデル及び関係スキーマを設計している。
〔業務改革を踏まえた商品物流業務〕
1.社外及び社内の組織と組織に関連する資源
(1)ビジネスパートナー(以下,BPという)
①BPは仕入先である。仕入先には,商品の製造メーカー,流通業である商社又は問屋がある。
②BPは,BPコードで識別し,BP名をもつ。
(2)配送地域
①全国を,気候と交通網を基準にして幾つかの地域に分けている。
②配送地域は,複数の郵便番号の指す地域を括ったものである。都道府県をまたぐ配送地域もある。
③配送地域は配送地域コードで識別し,配送地域名,地域人口をもつ。
(3)店舗
①店舗は,全国に約1,500あり店舗コードで識別し,店舗名,住所,連絡先,店舗が属する配送地域などをもつ。
②店舗の規模や立地によって販売の仕方が変わるので,床面積区分(大型か中型か小型かのいずれか)と立地区分(商業立地かオフィス立地か住宅立地かのいずれか)をもつ。
(4)物流拠点
①物流拠点は,拠点コードで識別し,拠点名,住所,連絡先をもつ。
②物流拠点の機能には,在庫をもつ在庫型物流拠点(以下,DCという)の機能と,積替えを行って店舗への配送を行う通過型物流拠点(以下,TCという)の機能がある。
③物流拠点によって,TCの機能だけをもつところと,DCとTCの両方の機能をもつところがある。
④物流拠点に,DCの機能があることはDC機能フラグで,TCの機能があることはTC機能フラグで分類する。
⑤TCは,各店舗に複数のDCから多数の納入便の車両が到着する混乱を防止するために,DCから届いた荷を在庫にすることなく店舗への納入便に積み替える役割を果たす。
⑥DCは配送地域におおむね1か所配置し,TCは配送地域に複数配置する。
⑦DCには,倉庫床面積を記録している。
⑧TCは,運営を外部に委託しているので,委託先物流業者名を記録している。
(5)幹線ルートと支線ルート
①DCからTCへの配送を行うルートを幹線ルート,TCから配送先の店舗を回って配送を行うルートを支線ルートという。
②支線ルートは,TCごとの支線ルートコードで識別している。また,支線ルートには,車両番号,配送先店舗とその配送順を定めている。支線ルートの配送先店舗は8店舗前後にしている。支線ルート間で店舗の重複はない。
2.商品に関連する資源
(1)商品カテゴリー
①商品カテゴリーには,部門,ライン,クラスの3階層木構造のカテゴリーレベルがある。商品カテゴリーはその総称である。
②部門には,医薬品,化粧品,家庭用雑貨,食品がある。
③例えば医薬品の部門のラインには,感冒薬,胃腸薬,絆創膏などがある。
④例えば感冒薬のラインのクラスには,総合感冒薬,漢方風邪薬,鼻炎治療薬などがある。
⑤商品カテゴリーは,カテゴリーコードで識別し,カテゴリーレベル,カテゴリー名,上位のどの部門又はラインに属するかを表す上位のカテゴリーコードを設定している。
(2)アイテム
①アイテムは,色やサイズ,梱包の入り数が違っても同じものだと認識できる商品を括る単位である。例えば缶ビールや栄養ドリンクでは,バラと6缶パックや10本パックは異なる商品であるが,アイテムは同じである。
②アイテムによって属する商品は複数の場合だけでなく一つの場合もある。
③アイテムは,アイテムコードで識別し,アイテム名をもつ。
④アイテムには,調達先のBP,温度帯(常温,冷蔵,冷凍のいずれか),属するクラスを設定している。また,同じアイテムを別のBPから調達することはない。
⑤BPから,全てのDCに納入してもらうアイテムもあるが,多くのアイテムは一部のDCだけに納入してもらう。
⑥F社が自社で保管輸送できるのは常温のアイテムだけであり,冷凍又は冷蔵の保管・輸送が必要なアイテムはBPから店舗に直納してもらう。これを直納品と呼び,直納品フラグで分類する。直納品に該当するアイテムには直納注意事項をもつ。
(3)商品
①商品は,BPが付与したJANコードで識別する。
②商品は,商品名,標準売価,色記述,サイズ記述,材質記述,荷姿記述,入り数,取扱注意事項をもつ。
3.業務の方法・方式
(1)物流網(物流拠点及び店舗の経路)
①物流網は,効率を高めることを優先するので,DCからTCTCから店舗は,木構造を基本に設計している。ただし,全てのDCが全てのアイテムをもつわけではないので,DCからTCの構造には例外としてたすき掛け(TCから見て木構造の上位に位置するDC以外のDCからの経路)が存在している。
②DCでは,保有するアイテムが何かを定めている。
③直納品を除いて,店舗に配送を行うTCは1か所に決めている。
④DCからTC,TCから店舗についての配送リードタイム(以下,リードタイムをLTという)を,整数の日数で定めている。DCからTCの配送LTを幹線LTと呼び,TCから店舗への配送LTを支線LTと呼ぶ。
⑤幹線LTは,1日を数え始めとするLTで,ほとんどの場合は1日であるが,2日を要することもある。例えば九州にあるDCにしかない商品を,全国販売のために全国のTCへ配送する場合,東北以北のTCへは1日では届かないケースが存在する。
⑥TCに対してどのDCから配送するかは,TCが必要とする商品の在庫が同じ配送地域のDCにあればそのDCからとし,なければ在庫をもつ他のDCからたすき掛けとする。ただし,全体のたすき掛けは最少になるようにする。
⑦支線LTは,0日を数え始めとするLTで,ほとんどの店舗への配送が積替えの当日中に行うことができるように配置しているので,当日中に配送できる店舗への支線LTは0日である。ただし,離島にある店舗の中には0日では配送できない場合もある。
⑧店舗は,次を定めている。
・どの商品を品揃えするか。
・直納品を除くDC補充品(DCから配送を受ける商品)について,どのDCの在庫から補充するか。
(2)補充のやり方
①店舗又はDCは,商品の在庫数が発注点を下回ったら,定めておいたロットサイズ(以下,ロットサイズをLSという)で要求をかける。ここで,DCが行う要求は発注であり,店舗が行う要求は補充要求である。
②店舗へのDCからの補充のために,商品ごとに全店舗一律の補充LSを定めている
③DCでは,DCごと商品ごとに,在庫数を把握し,発注点在庫数,DC納入LT,DC発注LSを定めている。
④店舗では,品揃えの商品ごとの在庫数を把握し,発注点在庫数を定めている。また,直納品の場合,加えて直納LTと直納品発注LSを定めている。
⑤店舗から補充要求を受けたDCは,宛先を店舗にして,その店舗に配送を行うTCに向けて配送する。
(3)DCから店舗への具体的な配送方法
①ものの運び方
・配送は,1日1回バッチで実施する。
・DCは,店舗からの補充要求ごとに商品を出庫し,依頼元の店舗ごとに用意した折りたたみコンテナ(以下,コンテナという)に入れる。
・その日に出庫したコンテナを,依頼元の店舗へ配送するTCに向かうその日の幹線ルートのトラックに積み,出荷する。
・TCは,幹線ルートのトラックが到着するごとに,配送する店舗ごとに用意したかご台車にコンテナを積み替える。かご台車には店舗コードと店舗名を記したラベルを付けている。
・TCは,全ての幹線ルートのトラックからかご台車への積替えを終えると,かご台車を支線ルートのトラックに積み込む。
・TCは,支線ルートのトラックを出発させる。支線ルートのトラックは,順に店舗を回り,コンテナごと店舗に納入する。
②指示書の作り方
・店舗の補充要求は,商品の在庫数が発注点在庫数を割り込む都度,店舗コード,補充要求年月日時刻,JANコードを記して発行する。
・DCの出庫指示書は,店舗から当該DCに届いた補充要求を基に,配送指示番号をキーとして店舗ごと出庫指示年月日ごとに出力する。出庫指示書の明細には,配送指示明細番号を付与して店舗からの該当する補充要求を対応付けて,出庫する商品と出庫指示数を印字する。
・出庫したら,出庫指示書の写しをコンテナに貼付する。
・DCからの幹線ルートの出荷指示書は,その日(出荷指示年月日)に積むべきコンテナの配送指示番号を明細にして行き先のTCごとにまとめて出力する。
・TCの積替指示書は,積替指示番号をキーとしてその日の支線ルートごとに伝票を作る。積替指示書の明細は,配送先店舗ごとに作り,その内訳に店舗へ運ぶコンテナの配送指示番号を印字する。
・店舗への配送指示書は,積替指示書の写しが,配送先店舗ごとに切り取れるようになっており,それを用いる。
(4)BPへの発注,入荷の方法
①DCは,その日の出庫業務の完了後に,在庫数が発注点在庫数を割り込んだ商品について,発注番号をキーとして発注先のBPごとに,当日を発注年月日に指定してDC発注を行う。DC発注の明細には,明細番号を付与して対象のJANコードを記録する。
②店舗は,直納品の在庫数が発注点在庫数を割り込むごとに直納品の発注を行い,直納品の発注では,店舗,補充要求の年月日時刻,対象の商品を記録する。
③DC及び店舗へのBPからの入荷は,BPが同じタイミングで納入できるものがまとめて行われる。入荷では,入荷ごとに入荷番号を付与し,どの発注明細又は直納品発注が対応付くかを記録し,併せて入荷年月日を記録する。
④DC及び店舗は,入荷した商品ごとに入庫番号を付与して入庫を行い,どの発注明細又は直納品発注が対応付くかを記録する。
1.概念データモデル及び関係スキーマの設計方針
(1)関係スキーマは第3正規形にし,多対多のリレーションシップは用いない。
(2)リレーションシップが1対1の場合,意味的に後からインスタンスが発生する側に外部キー属性を配置する。
(3)概念データモデルでは,リレーションシップについて,対応関係にゼロを含むか否かを表す“◯”又は"●"は記述しない。
(4)概念データモデルは,マスター及び在庫の領域と,トランザクションの領域とを分けて作成し,マスターとトランザクションとの間のリレーションシップは記述しない。
(5)実体の部分集合が認識できる場合,その部分集合の関係に固有の属性があるときは部分集合をサブタイプとして切り出す。
(6)サブタイプが存在する場合,他のエンティティタイプとのリレーションシップは,スーパータイプ又はいずれかのサブタイプの適切な方との間に設定する。
2.設計した概念データモデル及び関係スキーマ
マスター及び在庫の領域の概念データモデルを図1に,トランザクションの領域の概念データモデルを図2に,関係スキーマを図3に示す。
図1 マスター及在庫の領域の概念データモデル(未完成)
図2 トランザクションの領域の概念モデル(未完成)
図3 関係スキーマ(未完成)
解答に当たっては,巻頭の表記ルールに従うこと。また,エンティティタイプ名及び属性名は,それぞれ意味を識別できる適切な名称とすること。
設問 設問次の設問に答えよ。
(1)図1中の a , b に入れる適切なエンティティタイプ名を答えよ。
解答・解説
解答例
a:幹線ルート
b:支線ルート
解説
ー
(2)図1は,幾つかのリレーションシップが欠落している。欠落しているリレーションシップを補って図を完成させよ。
解答・解説
解答例
解説
ー
(3)図2は,幾つかのリレーションシップが欠落している。欠落しているリレーションシップを補って図を完成させよ。
解答・解説
解答例
解説
ー
(4)図3中の ア 〜 ノ に入れる一つ又は複数の適切な属性名を補って関係スキーマを完成させよ。また,主キーを表す実線の下線,外部キーを表す破線の下線についても答えること。
解答・解説
解答例
ア:配送地域コード
イ:DC機能フラグ,TC機能フラグ,配送地域コード
ウ:DC拠点コード,倉庫床面積
エ:TC拠点コード,委託先物流業者名
オ:DC拠点コード,TC拠点コード,幹線LT
カ:TC拠点コード,支線ルートコード,車両番号
キ:支線LT,TC拠点コード,支線ルートコード,配送順
ク:カテゴリーレベル
ケ:部門カテゴリーコード
コ:ラインカテゴリーコード
サ:調達先BPコード,クラスカテゴリーコード,温度帯
シ:アイテムコード,補充LS
ス:JANコード,在庫数,発注点在庫数,DC納入LT,DC発注LS
セ:在庫数,発注点在庫数
ソ:要求先DC拠点コード
タ:直納LT,直納品発注LS
チ:出庫指示年月日,配送先店舗コード,出荷指示番号,積替指示番号
ツ:店舗コード,補充要求年月日時刻,DC補充品JANコード
テ:出荷指示年月日,出荷元DC拠点コード,出荷先TC拠点コード
ト:積替指示年月日,TC拠点コード,支線ルートコード
ナ:発注DC拠点コード,発注年月日
ニ:DC補充品JANコード,入荷番号
ヌ:店舗コード,補充要求年月日時刻,直納品JANコード,入荷番号
ネ:入荷年月日
ノ:発注番号,発注明細番号,店舗コード,補充要求年月日時刻,直納品JANコード
解説
ー
IPA公開情報
出題趣旨
概念データモデリングでは,データベースの物理的な設計とは異なり,実装上の制約に左右されずに実務の視点に基づいて,対象領域から管理対象を正しく見極め,モデル化する必要がある。概念データモデリングでは,業務内容などの実世界の情報を総合的に理解・整理し,その結果を概念データモデルに反映する能力が求められる。
本問では,ドラッグストアチェーンの商品物流業務を題材として,与えられた状況から概念データモデリングを行う能力を問う。具体的には,①トップダウンにエンティティタイプ及びリレーションシップを分析する能力,②ボトムアップにエンティティタイプ及び関係スキーマを導き出す能力を問う。
採点講評
問 2 では,ドラッグストアチェーンの商品物流を題材に,概念データモデル及び関係スキーマについて出題した。全体として正答率は平均的であった。
(1),(2)及び(4)のア~タは,マスター及び在庫の領域についての概念データモデル及び関係スキーマの完成問題であり,正答率は高かった。
一方,(3)及び(4)のチ~ノは,トランザクションの領域についての概念データモデル及び関係スキーマの完成問題であり,正答率は低かった。
マスター及び在庫の領域は,状況記述の資源に関する説明からリレーションシップ及び必要な属性を読み取るだけで正答を導くことができる。しかしトランザクションの領域は,状況記述の業務の方法・方式から業務手順と業務の中で連鎖する情報を想定した上で,リレーションシップ及び必要な属性を見極めないと正答を導くことができない。この差によって後者の正答率が低くなったと考えられる。
日常業務での実践において,業務要件を満たす業務手順はどのようなものか,その業務を成立させるためにどのような情報の連鎖が必要になるか,限られた中で仮説を立て,それを検証してデータモデリングを行う習慣を身に付けてほしい。