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AU 令和5年度秋期 午後Ⅰ 問3

   

人材管理システムの監査に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。

 サービス業のD社は,従業員が5千人を超え,グローバルな事業拡大とともに,職務に基づいた人材管理制度の導入を進めている。それに伴い,2年前に人材管理の業務効率と利便性の向上を目的として,人材管理システムを再構築した。監査部では,再構築の目的を実現できるように人材管理システムが活用されていることを確かめるために,システム監査を実施することにした。

〔人材管理システムの概要〕
 人材管理システムは,グローバルで実績があるクラウドサービスを利用して再構築されており,人事情報管理,目標管理,スキル管理及びタレント管理の四つの機能がある。人材管理システムの概要を図1に示す。


図1 人材管理システムの概要

 

〔人事部へのインタビュー〕
 監査チームは,予備調査として,人材管理システムの説明資料を確認するとともに,人事部の企画課長にインタビューを行った。その結果は次のとおりである。

(1)人事情報管理
 再構築前から,各従業員の部署・役職・連絡先は全ての従業員が閲覧できたが,人材管理システム再構築によって,各従業員の上長の役職と氏名についても,“基本情報”として,全ての従業員が閲覧できるようになった。人事異動時には,人事部がスプレッドシートで作成した“異動管理表”のデータを人材管理システムヘアップロードし,“基本情報”を更新する。現在はアップロードの前に“異動管理表”へ上長の役職と氏名を手作業で入力しており,その作業に数日を要している。一方で,処遇制度上の等級などは“処遇情報”として,各従業員の上長及びその上位の管理者だけが閲覧できるように制限している。

(2)目標管理
 再構築前は,人事部がスプレッドシートで作成した目標管理のための帳票に各従業員が入力し,上長が承認して人事部へ提出していた。再構築後は,各従業員が画面に入力し,上長が承認することで目標管理が効率的に行えるようになった。

(3)スキル管理
 D社では,人材管理システム再構築と並行して,社内の職務について職務記述書を作成し,その中で必要スキルを明示し,従業員のスキル向上を促している。そのため,人材管理システムにおいて,各従業員の社内研修の受講歴と取得した公的な資格の情報を管理しており,その情報は上長を含む全ての管理者が閲覧できる。

 ①受講歴の情報
 人事部が主催する研修の受講歴は研修管理システムで管理しており,人材管理システムへのデータ連携によって日次で自動更新される。そのほかに各事業部門が主催する研修があり,その受講歴は,各事業部門の研修担当者がスプレッドシートで作成した“受講実績表”のデータを“更新手順書”に基づいて人材管理システムへアップロードして,更新される。受講歴は,更新の都度,従業員へ通知が届き,本人が内容を確認している。結果として,従来は分散して把握しにくかった受講歴の情報が人材管理システムの中で一元的に参照できるようになった。

 ②資格の情報
 再構築前は人事部で管理していた資格取得の情報は,再構築後には,全ての管理者が閲覧できるようになった。従業員が資格を取得した場合は,設定されている資格マスターから選択して登録する。資格マスターにない資格を取得した場合は,追加資格として従業員が資格名称を入力して登録する。資格名称の入力については決まりがなく,従業員が略称などで入力する場合もある。

(4)タレント管理
 昨年から,各部署の管理者がDX推進スキルをもつ人材(以下,DX人材という)を登録することになった。DX人材については選定基準が定められており,部署ごとの登録人数は,経営幹部の関心事項として管理者に対する評価項目になっている。

(5)人材管理システムの利用状況の報告
 人材管理システムの利用者数の推移や再構築の効果などについては,人事部が年1回,“利用状況報告書”を作成して経営幹部へ報告している。

〔情報システム部へのインタビュー〕
 情報システム部で人材管理システムの運用を行っているグループでは,定期的に従業員の要望などを調査している。監査チームは予備調査として,そのグループの課長に調査結果についてインタビューした。その結果は次のとおりである。

(1)多数の従業員が異動する際には,人材管理システムの“基本情報”へ異動の結果が反映されるまでに数日を要する場合があり,業務に支障が生じることがある。

(2)特定の資格をもつ従業員が必要な場合には,従来は人事部に問い合わせていたが,人材管理システム再構築後は,管理者は自ら検索できるようになった。ただし,経営や技術の動向に対応して新設された資格について取得者を検索した場合には,実際には取得していても検索結果として表示されない場合がある。

(3)従来は人事部を介して行っていた人材管理業務の多くが,人材管理システムの再構築後は,各職場の管理者や従業員が自ら行えるようになった。その結果,便利になったこともあるが,一方で人事に関わる情報の入力やその確認など,新たに各職場で行うことになった作業も多いと感じている。

本調査のための検討
 予備調査の結果を基に,監査チームは本調査のための検討を行った。その内容は次のとおりである。

(1)人事情報管理

 ①多数の従業員が異動する際には情報の閲覧についてリスクがあるので,閲覧権限が異動日に更新されることを関係者に確認する。

 ②“基本情報”が適時に更新されない問題への対処が検討されているかどうかを,人事部と情報システム部に確認する。

(2)スキル管理

 ①受講歴の情報は,更新内容を本人が確認しているので正確性は確保できているが,それだけで網羅性が確保できているとはいえない。そのため,"更新手順書”を閲覧して作業内容を確かめる必要がある。

 ②新設された資格の取得者を検索する際に支障が生じるリスクを低減する取組が検討されているかどうかを,人事部に確認する。

(3)タレント管理
 入力された情報の用途から,DX人材の選定基準に適合しない者を管理者が登録するリスクがあると考えられる。そのため,管理者の上長が,管理者の登録した対象者が選定基準に適合していることを確かめた上で承認していることを,人事部に確認する。

(4)人材管理システム再構築の効果
 業務効率向上の効果が過大に算定されている可能性があるので,“利用状況報告書”を閲覧して効果の算定内容を確認する。

設問1 〔本調査のための検討〕(1)の①について,監査チームが懸念したリスクを35字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 人事情報の更新が遅いため,異動後は権限のない情報を閲覧できる。

解説

 ー

 

設問2 〔本調査のための検討〕(1)の②について,監査チームが確認すべき内容を35字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 上長の役職と氏名を入力する作業の迅速化を検討していること

解説

 ー

 

設問3 〔本調査のための検討〕(2)の①について,監査チームが“更新手順書”を閲覧して確かめるべき具体的な内容を35字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 アップロード件数と“受講実績表”のデータ件数の照合作業があること

解説

 ー

 

設問4 〔本調査のための検討〕(2)の②について,監査チームが確認すべき取組の内容を40字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 追加資格について人事部が入力内容を確認した上で資格マスターに登録すること

解説

 ー

 

設問5 〔本調査のための検討〕(3)について,監査チームが想定したリスクを,40字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 管理者が良い評価を得るために選定基準に適合しない者を登録してしまう。

解説

 ー

 

設問6 〔本調査のための検討〕(4)について,監査チームが確認すべき内容を30字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 各職場で増えた作業も考慮して業務効率を算定していること

解説

 ー

 

IPA公開情報

出題趣旨

 人材管理は企業における重要な業務であり,人材管理システムは大きな役割を担っている。企業活動のグローバル化に伴って,職務に基づいた人材管理への転換や,人的資本管理への対応などが進み,人材管理システムは,より重要になってきている。 
 本問では,人材管理システムを題材として,人材管理業務の有効かつ効率的な運用を目的として再構築されたシステムの有効活用とそれに伴って新たに生じた課題やリスクを理解し,システム監査を実施する能力を問う。

採点講評

 問 3 では,人材管理システムの監査を題材に,人材管理業務遂行のためのシステムの導入と運用に関するリスク,及び監査の観点及び監査手続について出題した。全体として正答率は平均的であった。 設問 1 は,正答率がやや低かった。単に人事情報の閲覧というだけではなく,人事異動に伴う閲覧権限の変更を理解して,リスクを明確に捉えてほしい。 
 設問 3 は,正答率は平均的であった。正確性は確保できているが網羅性が確保できているとはいえないという問題文での説明を踏まえて,どのような統制が期待されているかを理解してほしい。
 設問 5 は,正答率はやや高かった。業務におけるリスクには,単なるそごや過失だけでなく,良い評価を得たいといった動機的な原因が不適切な行動を喚起する場合もあることを理解してほしい。
 設問 6 は,正答率が低かった。業務効率向上の効果算定は,システム導入において不可欠な活動であり,その監査の観点はよく理解しておいてほしい。

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