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ST 令和3年度春期 午後Ⅰ 問2

   

小売業の店舗販売とインターネット通信販売の融合に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

 R社は,センスが良く洗練された輸入雑貨やファッション小物類を扱う小売業であり,全国の主要都市のターミナル駅の駅前ショッピングビルなどに出店している。

〔R社の現状〕
 R社の店舗は競合店にはないような商品の品ぞろえによって,若い世代や外国人旅行客に人気がある。また,出店駅の利用者や近隣住民の年齢及び世帯構成に合わせて店舗ごとに品ぞろえや販売価格に特徴を出していることから,これまではどの店舗でも売上げは好調で利益も確保できていた。しかし,今期は,社会環境が激変した影響から期初より来店客や旅行客が大幅に減少しており,全ての店舗で前年と比べて減収減益が予想され,新たな取組が必要と考えている。
 また,インターネット通信販売(以下,ネット通販という)の取組として,これまで外部のネット通販サイトに,バイヤーのお薦め商品を中心に出品してきた。R社では,ネット通販サイトを通常の店舗と同様に一店舗とみなし,ネット通販サイトが提供するシステムを利用して,販売管理などの業務を,本社のネット通販専用PCで行っていた。

〔R社の情報システム〕
 社内の主な情報システムには次のものがある。

 ・基幹システム:販売管理サブシステム,発注管理サブシステム,在庫管理サブシステムから成る。基幹システムには,店舗に設置されたPOSレジとストアコンピュータを含む。

 ・顧客管理システム:自社発行ポイントカードによって購買履歴などを管理する。

 ・ワークフロー(以下,WFという)システム:本社から店舗への通達,及び店舗から本社へのりん議を取り扱う。

 ・本社事務処理システム:財務会計システム,人事給与システムなどの本社内だけで利用する情報システム群。

 

〔R社の課題〕

(1)ネット通販サイトに関する課題
 ネット通販サイトについては,来店客数の減少と反比例して顧客の閲覧数は多くなっている。しかし,ネット通販サイトのルールに従った画面レイアウト,表示項目などの制約があり,取扱商品の良さをアピールしにくいことから,同じネット通販サイトに出店している他の事業者との間で際立った特徴が出しにくく,店舗の売上減少を補うまでには至っていない。また,実際に商品を試すことで購買意欲が高まるといったネット通販に不向きな商品も存在する。さらに,ネット通販では,返品や交換の手続が煩わしいことに対し,顧客からは不満が出ていた。
 ネット通販サイトの売上げはネット通販専用PCから基幹システムへ手作業で連携させており,基幹システムで最新の売上把握ができていない。

(2)商品在庫の確保と値引きに関する課題
 色やサイズなどの種類が多い商品は,顧客の需要に応じた在庫を確保できず人気のある種類が品切れになる店舗もある。また,商品の一部には,地域によって流行があるので,ある地域でブームになった商品は,その地域にある店舗では品切れになることがある。品切れ時には取り寄せの対応をするが,入荷するまで時間が掛かったり顧客が再来店しなかったりして,顧客,店舗とも不満がある。売行きが急激に向上しブームと判断された場合は,店舗ではその商品の在庫を大量に確保してきた。しかし,ブームが終わって長期間在庫として残ってしまった場合は,値引きしてでも売り切りたいと考えている。
 R社では,店舗ごとに達成すべき幾つかの目標値を本社から月次で指示している。目標値の一つに店舗の粗利率があり,店長はこの達成状況を常にモニタリングしている。店舗では,商品を値引き販売する場合には,店長がWFシステムを使って本社の商品本部に商品の値引き額の承認を取る必要がある。これに時間が掛かることから,すぐに価格設定できず,販売機会を逃している。

 

ネット通販の強化とネット通販システムの構築
 競合他社でも店舗販売からネット通販へのシフトを進めていることや,社会環境の激変などから,R社は店舗で商品を陳列し顧客を待つだけでは売上回復は見込めないと考えた。そこで,店舗売上げの落ち込みを補完すべく,ネット通販を強化することにし,取組に当たっての方針を次のように定めた。

 ・画像だけでは顧客が商品の良さに気付かず,購入に至らない場合があるので,対策をする。

 ・顧客がネット注文後に届いた品物を見て,想像していたものと違っていた場合に,簡単に返品や交換ができる仕組みを提供する。

 

 上記の方針に沿って新規にネット通販システムを構築し,外部のネット通販サイトから切り替えることにした。

店舗の取組

(1)店舗でのネット通販システムの活用
 ネット通販における取扱商品は,全ての店舗の取扱商品を網羅させる。顧客がネット通販で購入決済した商品を,顧客が会社の帰りなどに最寄りの任意の店舗の受取専用ロッカーで受け取れる仕組みを導入する。店舗受取の注文があると,配送センタや他店舗の在庫から搬送したり,店舗の商品在庫からピックアップしたりして,翌日中にはネット通販の購入品を顧客が指定した受取専用ロッカーに準備しておく。受取専用ロッカーは決済時に設定した暗証番号で解錠できる。さらに,顧客は,受取時に商品が想像していたものと違っていた場合には購入品をその場で返品や交換ができるようにする。また,顧客が店舗で気に入った商品を見つけたものの,その店舗にはないサイズや色の商品であり,かつ,他店舗や配送センタに在庫がある場合は,店舗間で調整をすることで,顧客はその店舗で注文,決済してネット通販の流通経路に乗せられるようにする。
 店舗受取分や店舗からのネット通販の流通経路に乗せて配送した分は,当該店舗の売上げとみなして,店舗のインセンティブにする。

(2)体験重視の販売促進
 ネット通販において,顧客の閲覧は多数あるものの売上げが伸びていない商品については,使用感や使用方法などを体験する無料の体験教室を開催し,顧客が実際に商品に触れたり使ったりできるようにする。スペースに余裕のない店舗ではこの様子を撮影した動画を店舗のディジタルサイネージで表示する。

(3)店長の権限拡大
 店長の裁量で店舗ごとに柔軟に販売価格を変更できる仕組みにする。価格設定に当たっては,店舗で損益シミュレーションをできるようにする。変更された販売価格はすぐに売場の電子棚札に表示させる。

 

情報システムの対応
 これらの取組を推進するために,R社は情報システムを次のとおり整備することにした。

 ・新規にネット通販システムを自社内に構築するとともに,基幹システムでは,ネット通販システムの売上げを連携するための機能を開発する。

 ・在庫管理サブシステムでは,ネット通販システムと連携して,配送センタ及び店舗の全商品を管理する機能を開発する。

 ・ネット通販システムは柔軟に画面レイアウトや表示項目を設定できる機能を開発する。

 

設問1 〔ネット通販の強化とネット通販システムの構築〕について,売上回復につなげるために新規にネット通販システムを構築するのはなぜか。25字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 外部のネット通販サイトの制約が解消するから

解説

 ー

 

設問2 〔店舗の取組〕について,(1)〜(5)に答えよ。

 

(1)顧客のどのような場合を想定して,ネット通販の購入品を店舗で受け取れる仕組みにしたのか。30字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 商品が想像していたものと違う場合にその場で対応する。

解説

 ー

 

(2)店舗にない商品でも他店舗や配送センタに在庫がある場合,ネット通販の流通経路に乗せて配送できるようにした狙いは何か。25字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 品切れ時にも顧客がすぐに購入できるから

解説

 ー

 

(3)体験重視の販売促進に取り組む狙いは何か。30字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 顧客が良さに気付いていない商品の紹介機会を増やす。

解説

 ー

 

(4)店長の裁量で販売価格を変更できる仕組みにする理由は何か。20字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 販売機会を逃さないようにしたいから

解説

 ー

 

(5)店舗で損益シミュレーションができる機能を開発する理由は何か。25字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 店長が店舗の目標粗利率への影響を確認するから

解説

 ー

 

設問3 〔情報システムの対応〕について(1),(2)に答えよ。

 

(1)基幹システムでネット通販システムの売上げを連携する機能を開発するのは,どのようなR社の課題を解決するためか。25字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 ネット通販の売上げを手作業で連携していた課題

解説

 ー

 

(2)在庫管理サブシステムでネット通販システムと連携する機能は,どのようなR社の取組に対応するものか。30字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 顧客がネット通販の購入品を店舗で受取可能にする取組

解説

 ー

 

IPA公開情報

出題趣旨

 IT ストラテジストには,社内外の環境変化に応じた IT を活用した経営戦略や情報戦略を策定する能力が求められる。
 本問では,小売業のネット通販の推進を題材として,IT を活用した幾つかの施策と情報システム対策を策定する能力を評価する。具体的には,各施策の狙いや理由,その実現のために必要となる情報システムの機能の構築能力を問う。

採点講評

 問 2 では小売業の店舗販売とインターネット通信販売の融合について出題した。全体として正答率は平均的で,状況設定はおおむね理解されているようであった。
 設問 1 は,正答率がやや低かった。“来店客数の減少”や“閲覧数の増加”という現在の状況を記述した解答が散見された。外部のネット通販サイトの制約の多さが,新規にネット通販システムを構築する背景にあることに気付いてほしい。
 設問 2(2)は,正答率がやや低かった。“店舗のインセンティブになる”という R 社の店舗の利点を解答したものが見受けられた。R 社の取組の狙いは,需要の変動への対応にあることを理解してほしい。設問 3(2)は,正答率が低かった。“在庫をネット通販にも流通させる”などの一般的な解答が見受けられた。R 社の独自の取組に即して解答してほしい。
 ITストラテジストは,社内外の環境変化に応じて,ITを活用した経営戦略や情報戦略を策定する能力を高めてほしい。

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