資格部

資格・検定の試験情報、対策方法、問題解説などをご紹介

NW 令和5年度春期 午後Ⅰ 問2

   

IPマルチキャストによる映像配信の導入に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。

 K市は,人口25万人の中核市である。市内には一級河川があり,近年の異常気象による河川氾濫などの水害が問題となっている。このたびK市では,災害対策強化の一つとして,撮影した映像をH.264によって符号化してIPv4ネットワークへ送信可能なカメラ(以下,IPカメラという)を河川・沿岸の主要5地点周辺に合計20台新設し,K市庁舎の執務エリアへ高解像度リアルタイム配信を行うことになった。
 本件の調査及び設計担当として,情報システム部のN主任が任命された。

ネットワーク構成
 N主任は,①IPカメラの導入によって増加する通信量に着目し,通信帯域を効率良く使用するため,IPマルチキャストを用いて配信を行う構成を検討した。IPマルチキャストを用いることによって,映像は次のように配信される。

・映像の送信元(以下,ソースという)であるIPカメラは,映像を符号化したデー夕(以下,映像データという)をマルチキャストパケットとして送信する。

・ネットワーク機器は,マルチキャストパケットを複製して配信する。

・配信先であるレシーバは,マルチキャストパケットの映像データを映像へ復号し,大型モニターへ表示する。

 

 N主任が考えたK市のネットワーク構成を図1に示す。


図1 N主任が考えたK市のネットワーク構成(抜粋)

 図1の概要を次に示す。

(1)既設機器

 ・FW及び各スイッチ間は,1000BASE-T又は1000BASE-SXで接続している。

 ・FWと各L3SW間は,OSPFによる動的ルーティングを行っている。

(2)新設機器

 ・IPカメラは,河川・沿岸に新設するL2SWに接続する。

 ・新設するL2SWは,光ファイバを使用し,1000BASE-LXで接続する。

 ・IPカメラは,1台当たり8Mビット/秒で映像データを含むパケットを送信する。

 ・カメラ管理サーバは,IPカメラの死活監視,遠隔制御を行い,Webサーバ機能をもつ。PCとはHTTPSで,IPカメラとは独自プロトコルでそれぞれ通信を行う。

 ・②レシーバ及び大型モニターは,各6台新設する。レシーバは,最大四つの映像データを同時に受信し,大型モニターへ4分割で表示する

 ・IPカメラ,レシーバ及び大型モニターの設置に当たっては,将来的な追加や更新を考慮する。

(3)IPマルチキャスト

 ・マルチキャストルーティング用のプロトコルとして,PIM-SM(Protocol Independent Multicast-Sparse Mode)及びPIM-SMの派生型であるSSM(Source-Specific Multicast)を用いる。

 ・IPマルチキャストの配信要求プロトコルとして,IGMPv3(Internet Group Management Protocol,Version3)を用いる。

 ・映像データを識別する情報の一つとして,グループアドレスを用いる。グループアドレスは,IPカメラが送信するマルチキャストパケットの宛先IPアドレスなどに使用され,使用可能なアドレス範囲は決められている。

 ・既設機器は,PIM-SM,SSM及びIGMPv3に対応している。

(4)IPカメラのアドレス設計

 ・③全てのIPカメラに個別のIPアドレス及び同一のグループアドレスを使用する

 

IPマルチキャストに関する調査及び設計
 K市のネットワークをIPマルチキャストに対応させるため,N主任が調査した内容を次に示す。

・IGMPv2(Internet Group Management Protocol,Version2)を使用する場合,レシーバはグループアドレスを指定してIPマルチキャストの配信要求を行う。

・IGMPv3を使用する場合,レシーバは④ソースのIPアドレス及びグループアドレスを指定してIPマルチキャストの配信要求を行う

・L2SWでは,マルチキャストフレームを受信した際,同一セグメント上の受信インタフェース以外の全てのインタフェースへ  ア  するので,通信帯域を無駄に使用し,接続先のインタフェースへ不必要な負荷を掛けてしまう。この対策機能として,  イ  スヌーピングがある。L2SWのこの機能は,⑤レシーバから送信されるJoinやLeaveのパケットを監視し,マルチキャストフレームの配信先の決定に必要な情報を収集する

 

 IPカメラ11からレシーバ11への配信イメージを図2に示す。なお,図2中の(S,G)のS及びGは,それぞれソースのIPアドレス及びグループアドレスを示す。


図2 IPカメラ11からレシーバ11への配信イメージ(抜粋)

 図2中の(a)〜(e)の説明を次に示す。

(a)IPカメラ11は,映像データを自身のグループアドレス宛てに常時送信する。

(b)PIM-SMが有効化されたインタフェースでは,定期的にPIM helloが送信される。FW01及びL3SW11は,PIM helloを受信することでPIMネイバーの存在を発見する。

(c)レシーバ11は,IGMPv3メンバーシップレポートの(S,G)Joinを作成し,IGMP用に割り当てられたIP  ウ  アドレス宛てに送信する。

(d)L3SW11は,(S,G)Joinを基に(S,G)エントリを作成し,ユニキャストルーティングテーブルに基づき,ソースの方向であるFW01へPIMの(S,G)Joinを送信する。これによってディストリビューションIが作成される。

(e)FW01は,IPカメラ11から受信したマルチキャストパケットを複製し,(SG)エントリに登録された出力インタフェースへ配信を行う。L3SW11においても同様に,パケットの複製が行われ,レシーバ11へ配信される。

 

 N主任は,調査結果を踏まえ,各機器に次の設定を行うことにした。

・FW01,L3SW11及びL3SW21では,マルチキャストルーティングを有効化し,全てのインタフェースにおいて  オ  を有効化する。

・L3SW11及びL3SW21では,マルチキャストルーティング用のプロトコルとして  カ  を有効化し,レシーバが接続されたL2SWと接続するインタフェースにおいて,IGMPv3を有効化する。

・K市庁舎の全てのL2SWでは,  イ  スヌーピングが有効になっていることを確認する。

・FW01では,IPカメラに設定したグループアドレスをもつマルチキャストパケットの通過を有効化し,表1に示すユニキャスト通信の許可ルールを有効化する。

 

表1 ユニキャスト通信の許可ルール

追加指示への対応
 調査及び設計の結果について情報システム部長へ説明を行ったところ,PCでも映像を表示するよう指示があった。N主任は次の対応を行うことにした。

⑥既設機器には,IPマルチキャストの設定を追加する。

・PCには,IGMPv3に対応し,映像データから映像へ  キ  する機能をもつソフトウェア製品を新たに導入する。

 

 PCに導入するソフトウェア製品は,映像を選択する方式として,デスクトップアプリケーション方式とWebブラウザ方式に対応している。デスクトップアプリケーション方式では,PC上でソフトウェア製品を起動し,ソフトウェア製品にIPカメラを登録すること及び登録済みのIPカメラを選択して映像を表示することができる。Webブラウザ方式では,PCのWebブラウザからカメラ管理サーバのWebページを開き,カメラ管理サーバに登録されたIPカメラを選択することによってソフトウェア製品が起動され,映像を表示することができる。
 N主任は,⑦デスクトップアプリケーション方式とWebブラウザ方式とを比較して,IPカメラの追加や更新における利点からWebブラウザ方式を採用することにした。

 N主任の設計は承認され,IPマルチキャストによる映像配信の導入が決定した。

設問1 本文中の  ア    キ  に入れる適切な字句を答えよ。

 

解答・解説
解答例

 ア:フラッディング
 イ:IGMP
 ウ:マルチキャスト
 エ:ツリー
 オ:PIM-SM
 カ:SSM
 キ:復号

解説

 ー

 

設問2 〔ネットワーク構成〕について答えよ。

 

(1)本文中の下線①について,IPマルチキャストを用いずユニキャストで配信を行う場合の欠点を“ソース”と“レシーバ”という字句を用いて35字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 配信先のレシーバの数に応じてソースの通信量が増加する。

解説

 ー

 

(2)本文中の下線②について,L2SW91からFW01へ流入するマルチキャストパケットの伝送レートの理論的な最大値を,Mビット/秒で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 160

解説

 ー

 

(3)本文中の下線③について,IGMPv3ではなくIGMPv2を使用するとした場合,考えられるIPカメラのアドレス設計を45字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 全ての IP カメラに個別の IP アドレス及び個別のグループアドレスを使用する。

解説

 ー

 

設問3 〔IPマルチキャストに関する調査及び設計〕について答えよ。

 

(1)本文中の下線④について,IGMPv2と比較して,IGMPv3がソースのIPアドレスとグループアドレスの二つを用いることによる利点を,“グループアドレス”という字句を用いて25字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 グループアドレスの設計が容易になる。

解説

 ー

 

(2)本文中の下線⑤について,配信先の決定に必要な情報を二つ挙げ,本文中の字句で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 ・グループアドレス
 ・インタフェース

解説

 ー

 

(3)表1中の  Ⅰ    Ⅱ  に入れる適切な字句を答えよ。ここで,  Ⅰ  は図中の機器名で,,  Ⅱ  はウェルノウンポート番号で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 Ⅰ:カメラ管理サーバ
 Ⅱ:443

解説

 ー

 

設問4 〔追加指示への対応〕について答えよ。

 

(1)本文中の下線⑥について,(a)設定を追加する機器名,(b)設定を追加するインタフェースの接続先機器名,(c)プロトコル名をそれぞれ答えよ。ここ機器名は図1中の字句で,プロトコル名は本文中の字句で答え,複数該当する場合は全て答えよ。

 

解答・解説
解答例

  (a) L3SW11,L3SW21
 (b) L2SW11,L2SW21
 (c) IGMPv3

解説

 ー

 

(2)本文中の下線⑦について,Webブラウザ方式の利点を25字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 Web ページを改修するだけで対応完了できる。

解説

 ー

 

IPA公開情報

出題趣旨

 高解像度映像のリアルタイム配信では,大量のデータを常時伝送する必要がある。IP カメラとレシーバ(デコーダ)の数がそれぞれ少なければ,ユニキャストで配信したとしても必要な通信帯域を確保できることも多い。しかし,それぞれを数多く運用する組織においては,通信帯域がボトルネックとなることがあるので,IP マルチキャストの導入によって通信帯域を効率良く使用し,設計や運用の柔軟性を確保する必要がある。
 このような状況を基に,本問では,自営ネットワークに IP マルチキャストを導入する事例を取り上げた。本問では,IP マルチキャストに関連するプロトコルである PIM-SM,SSM,IGMPv3 を題材として,ネットワー クの設計,構築に携わる受験者の知識,経験を問う。

採点講評

 問 2 では,IP マルチキャストによる映像配信の導入を題材に,マルチキャストルーティング及び関連するプロトコルの特徴や仕組みについて出題した。全体として正答率は平均的であった。
 設問 1 では,エの正答率が低かった。ディストリビューションツリーは,IP マルチキャストの中で重要な用語である。IP マルチキャストは,映像配信に限らず株価情報の配信など,最新データを多数の宛先へ配信する用途において有用なプロトコルなので,ネットワークの基礎知識の一つとして学習しておいてほしい。
 設問 2 では,(3)の正答率が低かった。IP カメラのアドレス設計を本文中のものからどのように変えるべきか,下線部だけを読んで解答するのではなく,IGMPv2 と IGMPv3 との違いを本文全体からしっかり読み取り,正答を導き出してほしい。
 設問 4 では,(1)の正答率が低かった。ネットワーク構成と通信プロトコルとの関係を正しく理解し,必要となる変更作業を導き出してほしい。

前問 ナビ 次問