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AU 令和4年度秋期 午後Ⅰ 問2

   

ワークフローに関わるシステムの監査に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。

 流通業のB社は,数年前にワークフローシステムを導入し,様々な申請書,依頼書,りん議書など(以下,申請書等という)を電子的に処理できるようになった。一方で,紙の申請書等が必要な事務処理が多く残っており,2年前に新型コロナウイルス感染症への対応としてリモートワークを拡大した際に,オフィスへの出社が必要な要因の一つになっていることが判明した。従業員からも,不要と思われる申請書等がある,必要な申請書等でも紙への押印や署名を不要にしたり,記載項目を簡素化したりできるものがあるという声が出ていた。働き方改革の観点からも,仕事の内容と従業員の状況に応じて,オフィスへの出社とリモートワークを柔軟に組み合わせて勤務できるようにする方針となった。
 そのため,1年前にワークフローを見直すタスクフォース(以下,タスクフォースという)が設置され,申請書等の更なるペーパーレス化に取り組んできた。現在は対象の申請書等の洗い出しと対応方針の策定を終えた段階にあり,今後は対応方針に沿った実行とフォローアップを行いながら,次年度の活動計画を検討する。
 このような状況を踏まえ,監査部は,タスクフォースの活動目的に沿ってワークフローが見直されているかどうかを確かめるためにシステム監査を行うこととした。

〔タスクフォースの概要〕
 監査部の監査チームは,予備調査として,タスクフォース発足時の資料を入手して,タスクフォースの活動内容を把握した。その概要は次のとおりである。

(1)タスクフォースの活動目的
 ワークフローを見直して,紙への押印又は署名が必要な申請書等を原則として全て廃止することによって,働き方改革を推進する。

(2)体制
 情報システム部長が責任者,情報システム部企画課が事務局を務め,社内の各部署から代表者が参画する。

(3)見直しの対象
 社内の各部署が様式を定めている申請書等で,紙を使用して処理しているものを見直しの対象とする。

(4)見直し方針

 ①まず,従業員の意見を踏まえた上で,社内規則の改訂も含めて,業務を抜本的に見直すことによって,紙の申請書等が必要な事務処理そのものを廃止することを検討する。

 ②事務処理を廃止できない場合,申請書等の記載項目をできるだけ簡素化し,ワークフローシステムなどを利用して電子的な方法で処理できるようにする。

 ③押印又は署名が必要で電子的な方法によって処理できない場合,今後の再検討のために,押印又は署名が必要な理由を明確にする。

 ④急きょ,リモートワークを実施することになった影響で暫定的な対応を行っている場合,押印や署名を不要とする目標時期を定める。

 

〔ワークフローに関わるシステムなどの状況〕
 監査チームは,予備調査として,情報システム部の関係者にワークフローに関わるシステムなどの状況についてヒアリングした。その概要は次のとおりである。

(1)B社では,電子メール(以下,メールという),スケジューラー,文書作成,表計算などの機能が一体となったグループウェアも導入されている。グループウェアでは,各機能を連携させることで,業務の効率向上に寄与するワークフローを簡易に作成することができる。また,ワークフローシステムとグループウェアは,図1に示すように,同じ認証システムを利用している。

 


XXX

(2)ワークフローシステムには,各従業員の上長を示す情報であるレポートライン情報を人事システムから取得して,あらかじめ承認者を設定する機能がある。方で,グループウェアには,そのような機能はない。したがって,今回の見直しに伴い,グループウェアでワークフローを作成する予定の部署に対しては,ワークフローシステムを利用するように変更を促すことを考えている

(3)経営者からは,既存の業務プロセスにあるボトルネックを解消して,業務の効率を更に向上するように指示されている。これを受けて,情報システムの様々なログデータを分析する技術を利用することを検討している。

(4)市販の製品として,紙への押印や署名を代替できる電子署名システムが実用化されており,会社を横断したワークフローに関わる機能もある。法務部へのヒアリングで,利用部門から具体的に依頼があれば,業務の見直しとして,電子署名の利用を検討するという旨の回答を得ている。

 

〔企画課長へのヒアリング結果〕
 監査チームは,予備調査として,タスクフォースの事務局である情報システム部の企画課長にヒアリングし,関係資料を閲覧した。その結果は次のとおりである。

(1)各部署で対象となる申請書等を洗い出した上で,年間の利用回数,対応方針と補足説明,見直し時期などを事務局に提出している。提出された内容は,事務局で,表1のとおり“申請書等の見直し一覧表”として取りまとめた。

(2)事務局は,対応方針として,“事務処理の廃止","システム改修”,“ペーパーレス化”,“日付氏名入力とメール送付”,“現行どおり”の五つの選択肢を提示した。各部署は,これらの中から選択した上で,補足説明を付記している。

 

表1 申請書等の見直し一覧表(抜粋)
項番 担当部署 申請書等の名称 対応方針 補足説明
1 P部 作業依頼書 事務処理の廃止 業務見直しによって廃止
2 P部 業務確認書 システム改修 関連システムの画面で入力できるように改修
3 P部 作業申請書 ペーパーレス化 現行の申請書等の記載項目を,ワークフローシステムの画面で入力
4 Q部 情報提供依頼書 ペーパーレス化 ワークフローシステムの画面に現行の申請書等を電子的に添付
5 Q部 取引開始申請書 現行どおり 他部署が管掌する規則で押印が必要と定めているので,現行どおり
6 R部 調達契約締結伺 現行どおり 業者との契約書に社印の押印が必要なので,現行どおり
7 R部 結果承認依頼書 日付・氏名入力とメール送付 日付・氏名を入力して承認者にメールを送付する暫定的な対応
8 R部 品質確認書 ペーパーレス化 グループウェアによって,ワークフローを作成

本調査の実施
 監査チームは,予備調査の結果を基に本調査を行った。その内容は次のとおりである。

(1)申請書等をペーパーレス化しても,業務を抜本的に見直していない可能性がある。その状況を確かめるために,表1の項番3と項番4の申請書等について,担当.部署での検討資料を閲覧して,検討のために実施した事項を確認した。

(2)業務の見直しが各部署の観点で行われており,部署を横断した見直しが行われていない可能性がある。その状況を確かめるために,表1の項番5と項番6の申請書等の担当部署が検討のために他部署に依頼した事項を確認した。

(3)表1の項番7の申請書等について,タスクフォースの見直し方針に沿った対応となっているかどうかを担当部署に確認した。

(4)表1の項番8の申請書等について,事務局からはグループウェアではなくワークフローシステムを使ってペーパーレス化を行うように求めようとしている。しかし,グループウェアでのワークフロー作成を一律に見送った場合には業務効率の観点から支障が生じる可能性があるので,担当部署に検討状況を確認した。

(5)ペーパーレス化を行う効果として,単にオフィスへの出社を不要にしたり,事務の手間を削減したりするだけでなく,経営者の指示を踏まえて,業務の効率を更に向上する取組を可能にすることも考えられる。そのような取組を行う予定があるかどうかについて,次年度の活動計画案を閲覧して確認した。

 

設問1 〔本調査の実施〕(1)について,監査チームが両方の申請書等の検討資料について共通して確認した事項を,40字以内で具体的に答えよ。

 

解答・解説
解答例

 紙の申請書等が必要な事務処理の廃止と,記載項目の簡素化を検討したかどうか

解説

 ー

 

設問2 〔本調査の実施〕(2)について,監査チームが表1の項番5と項番6の申請書等の担当部署に確認した事項を,それぞれ25字以内で具体的に答えよ。

 

解答・解説
解答例

 項番5:規則管掌部署に押印不要とする改訂を依頼したか
 項番6:法務部に電子署名の利用の検討を依頼したか

解説

 ー

 

設問3 〔本調査の実施〕(3)について,監査チームが行った監査手続を,40字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 担当部署にヒアリングして,押印や署名を不要とする目標時期の設定を確認した。

解説

 ー

 

設問4 〔本調査の実施〕(4)について,監査チームが業務効率の観点から生じる可能性があると考えた支障の内容を,40字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 グループウェアの各機能と連携したワークフローの簡易な作成が難しくなる。

解説

 ー

 

設問5 〔本調査の実施〕(5)について,監査チームが確認した取組の内容を,40字以内で答えよ。

 

解答・解説
解答例

 ワークフローシステムのログを分析して,業務プロセスのボトルネックを解消する。

解説

 ー

 

IPA公開情報

出題趣旨

 近年,感染症対策としてリモートワークが増加したが,申請書等への押印や署名が必要なために出社せざるを得ない場合が多くあることも明らかになった。そこで企業などにおいて,申請書等を見直す取組が行われるようになったが,その取組においては,表面的に押印や署名を不要とするだけで,業務の見直しが十分に行われていない場合もみられる。
 本問では,システム監査人として,本来の取組の趣旨に沿って,必要な業務の見直しが行われているかどうかを見極めた上で監査が行える能力を問う。

採点講評

 問 2 では,ワークフローに関わるシステムの監査を題材に,リモートワークに対応した申請書等の見直しも含めた活動を推進する上でのリスクや監査手続について出題した。全体として正答率は平均的であった。設問 3 は,正答率が平均的であった。押印や署名を不要とする目標時期の設定を確認するという内容だけで,監査の対象・方法を示していない解答が多くみられた。監査手続としては,確認事項だけでは不十分ということを理解してほしい。
 設問 4 は,正答率がやや低かった。申請書等のワークフロー化など,業務要件をシステムとして実現する際の手段は,幾つか考えられることが多い。その際に,それぞれの手段の特徴は何かを理解して選択する必要がある。監査人としても,適切な手段が選択されているかどうかを見極められる能力を身に付けてほしい。
 設問 5 は,正答率が平均的であった。システムからのログを分析して,業務プロセスの改善に活用する取組は,有用な活動として普及しつつあるので,監査の観点からも理解を深めておいてほしい。

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