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DB 令和3年度秋期 午後Ⅰ 問2

   

データベースの実装に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

 クレジットカード会社のC社では,キャッシュレス決済の普及に伴いカード決済システムのオンライントランザクションの処理量が増えている。情報システム部のFさんは,将来の処理量から懸念される性能低下の対策を検討することになった。

〔RDBMSの主な仕様〕

1.アクセス経路,区分化,再編成

(1)アクセス経路は,RDBMSによって表探索又は索引探索に決められる。表探索では,索引を使わずに先頭ページから順に全行を探索する。索引探索では,WHERE句中の述語に適した索引によって絞り込んでから表の行を読み込む。

(2)テーブルごとに一つ又は複数の列を区分キーとし,区分キーの値に基づいて物理的な表領域に分割することを区分化という。

(3)区分方法にはハッシュとレンジの二つがある。どちらも,テーブルを検索するSQL文のWHERE句の述語に区分キー列を指定すると,区分キー列で特定した区分だけを探索する。

 ①ハッシュは,区分キー値を基にRDBMSが生成するハッシュ値によって一定数の区分に行を分配する方法である。

 ②レンジは,区分キー値の範囲によって区分に行を分配する方法である。

(4)テーブル又は区分を再編成することによって,行を主キー順に物理的に並び替えることができる。また,各ページ中に指定した空き領域を予約することができる。

(5)INSERT文で行を挿入するとき,RDBMSは,主キー値の並びの中で,挿入行の主キー値に近い行が格納されているページに空き領域があればそのページに,なければ表領域の最後のページに格納する。最後のページに空き領域がなければ,新しいページを表領域の最後に追加する。

2.データ入出力とログ出力

(1)データとログはそれぞれ別のディスクに格納される。同じディスクに対し同時に入出力は行われないものとする。

(2)データ入出力とログ出力は4,000バイトのページ単位に行われる。

(3)データバッファはテーブルごとに確保される。

(4)ページをランダムに入出力する場合,SQL処理中のCPU処理と入出力処理は並行して行われない。これを同期データ入出力処理と呼び,SQL処理時間は次の式で近似できる。
 SQL処理時間=CPU時間+同期データ入出力処理時間

(5)ページを順次に入出力する場合,SQL処理中のCPU処理と入出力処理は並行して行われる。これを非同期データ入出力処理と呼び,SQL処理時間は次の式で近似できる。ここで関数MAXは引数のうち最も大きい値を返す。
 SQL処理時間=MAX(CPU時間,非同期データ入出力処理時間)

(6)行を挿入,更新,削除した場合,変更内容がログとしてRDBMSに一つ存在するログバッファに書き込まれる。ログバッファが一杯の場合,トランザクションのINSERT文,UPDATE文,DELETE文の処理は待たされる。

(7)ログは,データより先にログバッファからディスクに出力される。これをログ出力処理と呼ぶ。このとき,トランザクションのコミットはログ出力処理の完了まで待たされる。ログ出力処理は,次のいずれかの事象を契機に行われる。

 ①ログバッファが一杯になった。

 ②トランザクションがコミット又はロールバックを行った。

 ③あるテーブルのデータバッファが変更ページによって一杯になった。

 

〔カード決済システムの概要〕

1.テーブル
 主なテーブルのテーブル構造を図1,将来の容量見積りを表1に示す。各テーブルの主キーには索引が定義されており,索引キーを構成する列の順はテーブルの列の順と同じである。


図1 主なテーブルのテーブル構造(一部省略)

主なテーブルの将来の容量見積り
テーブル名 行長
(バイト)
見積行数 1ページ当たり
の行数
ページ数 容量
(Gバイト)
加盟店 1,000 100万 4 25万 1
オーソリ履歴 200 480億 20 24億 9,600

2.オーソリ処理(オンライン処理)
 オーソリ処理は,会員がカードで支払う際にカード有効期限,与信限度額を超過していないかなどを判定する処理である。判定した結果,可ならば審査結果を'Y'に,否ならば'N'に設定した行を“オーソリ履歴”テーブルに挿入する。オーソリ処理は最大100多重で処理される。“オーソリ履歴”テーブルには直近5年分を保持する。

3.利用明細抽出処理(バッチ処理)
 請求書作成に必要な1か月分の利用明細の記録を“オーソリ履歴”テーブルから抽出しファイルに出力する。

 

参照処理の性能見積り
 将来の処理時間が懸念される利用明細抽出処理のSQL文を,図2に示す。


図2 利用明細抽出処理のSQL文

 Fさんは,利用明細抽出処理の処理時間を,次のように見積もった。

1.このSQL文での表の結合方法を調べたところ,“オーソリ履歴”テーブルを外側,“加盟店”テーブルを内側とする入れ子ループ法だった。“オーソリ履歴”テーブルのアクセス経路は表探索だったので,  a  ページを非同期に読み込む。

2.ディスク転送速度を100Mバイト/秒と仮定すれば,  a  ページを非同期に読み込むデータ入出力処理時間は,  b  秒である。

3.カード数を1,000万枚,カード・月当たり平均オーソリ回数を80回,審査結果が全て可であると仮定すると,“オーソリ履歴”テーブルの結果行数は,  c  行である。これに掛かるCPU時間は,96,000秒である。

4.この結合では,外側の表の結果行ごとに“加盟店”テーブルの主キー索引を索引探索し,“加盟店”テーブルを1行,ランダムに合計  d  回読み込む。

5.索引はバッファヒット率100%,テーブルはバッファヒット率0%と仮定すれば,“加盟店”テーブルを合計で  e  ページを同期的に読み込むことになる。同期読込みにページ当たり1ミリ秒掛かると仮定すれば,同期データ入出力処理時間は  f  秒である。

6.内側の表の索引探索と結合に掛かるCPU時間は,1結果行当たり0.01ミリ秒掛かると仮定すれば,  g  秒である。

7.外側の表のCPU時間は96,000秒,内側の表のCPU時間は  g  秒,内側の表の同期データ入出力処理時間は  f  秒なので,SQL文の処理時間を  h  秒と見積もった。

 

 処理時間が長くなることが分かったので時間短縮のため,次の2案を検討した。

案1 “加盟店”テーブルのデータバッファを増やしバッファヒット率100%にする。

案2 “オーソリ履歴”テーブルの利用日列をキーとする副次索引を追加する。

 

“オーソリ履歴”テーブルの区分化
 Fさんは,上司であるG氏から,次の課題の解決策の検討を依頼された。

課題1 月末近くに起きるオーソリ処理のINSERT文の性能低下を改善すること

課題2 将来懸念される利用明細抽出処理の処理時間を短縮すること

課題3 月初に行う“オーソリ履歴”テーブル再編成の処理時間を短縮すること

 

 Fさんは,課題を解決するために,“オーソリ履歴”テーブルを区分化することにし,区分キーについて表2に示す3案を評価した。いずれの案も600区分に行を均等に分配する前提であり,図2のSQL文を基に区分化に対応したSQL文を作成した。作成したSQL文のWHERE句を図3に示す。利用明細抽出処理及び再編成について,アクセスする総ページ数が最小になるようにジョブを設計した。このときジョブは,

表2 課題ごとに各案を評価した結果(未完成)


図3 区分化に対応したSQL文のWHERE句

更新処理の多重化
 “オーソリ履歴”テーブルの請求済フラグと請求日を更新する処理も同様に,将来の処理時間が懸念された。更新処理のSQL文を図4に示す。更新処理はバッチ処理であり,カーソルを使用して1,000行を更新するごとにコミットする。


図4 更新処理のSQL文

 Fさんは,次のように,区分化と併せて,更新処理を多重化することにした。

1.“オーソリ履歴”テーブルについて,カード番号,利用日の順の組で区分キーとし,レンジによって区分化する。

2.区分ごとのジョブで更新処理を多重化する。

3.更新処理を多重化しても競合しないように,各区分を異なるディスクに配置し,データバッファを十分に確保する。

 

設問1 〔参照処理の性能見積り〕について,(1)〜(3)に答えよ。

 

(1)本文中の  a    h  に入れる適切な数値を答えよ。

 

解答・解説
解答例

 a:2,400,000,000
 b:96,000
 c:800,000,000
 d:800,000,000
 e:800,000,000
 f:800,000
 g:8,000
 h:904,000

解説

 ー

 

(2)案1について,“加盟店”テーブルのデータバッファを増やすのはなぜか。また,“オーソリ履歴”テーブルはデータバッファを増やさないのはなぜか。アクセス経路に着目し,それぞれ理由を25字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 加盟店:ランダムアクセスの処理時間を短縮できるから
 オーソリ履歴:順次アクセスの処理時間に影響しないから

解説

 ー

 

(3)案2を適用した場合,オーソリ処理の処理時間が長くなると考えられる。その理由を25字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 行の挿入時に更新する索引が増えるから

解説

 ー

 

設問2 〔“オーソリ履歴”テーブルの区分化〕について,(1)〜(4)に答えよ。

 

(1)課題1について,案Aと案Bは案Cに比べてオーソリ処理のINSERT文の性能が良いと考えられる。その理由を25字以内で具体的に述べよ。

 

解答・解説
解答例

 挿入される行が複数の区分に分散するから

解説

 ー

 

(2)課題2について,区分限定の表探索を行う場合,1ジョブが探索する区分数及びページ数の最小値はそれぞれ幾らか。表2中の  イ    ロ  に入れる適切な数値を答えよ。

 

解答・解説
解答例

 イ:1
 ロ:40,000,000

解説

 ー

 

(3)課題2について,案Aではカード番号にBETWEEN述語を追加しても改善効果を得られないと考えられる。その理由を30字以内で具体的に述べよ。

 

解答・解説
解答例

 区分方法がハッシュでは探索する区分を限定できないから

解説

 ー

 

(4)課題3について,特に案Cは,区分キーの特徴から,案Aと案Bに比べて再編成の効率が良いと考えられる。その理由を20字以内で具体的に述べよ。

 

解答・解説
解答例

 1 区分だけを再編成すれば良いから

解説

 ー

 

設問3 〔更新処理の多重化〕について,1),(2)に答えよ。

 

(1)ジョブの多重度を幾ら増やしても,それ以上は更新処理全体の処理時間を短くできない限界がある。このときボトルネックになるのはログである。その理由をRDBMSの仕様に基づいて30字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 ・コミットはログ出力処理の完了まで待たされるから
 ・ログ出力処理は並列化されないから
 ・ログ出力処理は逐次化されるから
 ・ログバッファが一杯だと更新が待たされるから

解説

 ー

 

(2)更新処理では1,000行更新するごとにコミットしているが,仮に1行更新するごとにコミットすると,更新処理の処理時間のうち何がどのように変わるか。本文中の用語を用いて25字以内で述べよ。

 

解答・解説
解答例

 ・ログ出力処理の待ち時間の合計が長くなる。
 ・コミット時の待ち時間の合計が長くなる。

解説

 ー

 

IPA公開情報

出題趣旨

 近年,IT システムは重要な社会インフラとなり,高い負荷の下でも安定して稼働し続けることが期待されている。このような高負荷環境におけるデータベース設計では,RDBMS の機能を深く理解し,適切に使用して,性能要件を満たす設計を行う必要がある。
 本問では,クレジットカード会社におけるオーソリ業務を題材として,処理時間の見積り,バッファプールのチューニング,区分表の設計,ロギングの性能に関する考慮点を理解しているかを問う。

採点講評

 問 2 では,クレジットカードにおけるオーソリ業務を題材に,処理時間の見積り,バッファプールのチューニング,区分表の設計,ロギングの性能に関する考慮点について出題した。全体として正答率は低かった。 設問 1 は,特に(1)d~h の正答率が低かった。入れ子ループ法の動きを復習し,外側表の結果行数が内側表の検索回数になること,検索回数は内側表の総ページ数とは無関係に大きくなり得ることを理解してほしい。 設問 2 は,全体的に正答率がやや低かった。区分表の設計においては,範囲の限定,負荷分散を目的として,“時間的なキー”(例.利用日)と,“空間的なキー”(例.カード番号)を,組み合わせる技法がよく用いられる。区分表の利点をよく理解し,キーの特徴を利用した設計を行う技術を身に付けてほしい。 設問 3 は,(2)の正答率が低かった。トランザクションのコミット時には,ログバッファにあるログの量を問わず,ログがディスクに出力される。このとき,トランザクションのコミットは,ログ出力処理の完了まで待たされるので,過度にコミットを行うと,ログ出力処理の待ち時間が長くなる。バッチ処理では適度なコミットインターバルを設定することが重要であることを是非知っておいてもらいたい。

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