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DB 令和2年度秋期 午後Ⅱ 問2

 

調達業務及び調達物流業務に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。

 機械メーカのA社は,調達業務及び調達物流業務のシステム再構築に向けて,業務分析を行い,概念データモデル及び関係スキーマを設計している。

現状の業務分析の結果

1.品目の特性

(1)品目

 ①品目には,製品,部品,素材がある。品目は品目コードで識別し,品目名,評価額を設定する。部品と素材を併せて部材と呼ぶ。

 ・製品は,産業用機械が主で,大型なものから小型なものまである。

 ・部品には,切削部や搬送部などと呼ぶ,製品の主要な部位となる大型なものから,組立てに用いる金具やパイプなど小型なものまである。

 ・素材には,ロール状の鉄板やアルミ板,金属棒や塗料などがある。

 ②品目には,A社が設計する専用品と,それ以外の汎用品がある。専用品には設計番号を設定し,汎用品には汎用品仕様として,メーカ名,カタログ名,カタログ発行年月,カタログ品番を連結した文字列を設定する。

 ③製品,部品,素材が,それぞれ専用品と汎用品のいずれに該当するかは次のとおりである。

 ・製品の全ては専用品に該当する。/p>

 ・部品は,専用品に該当するものと汎用品に該当するものがある。専用品に該当する部品を専用部品,汎用品に該当する部品を汎用部品と呼ぶ。

 ・素材の全ては汎用品に該当する。

 ④専用部品には,その専用部品を輸送するときの個体重量を設定している。

 ⑤部材には,その部材の在庫をもつときのために,次を設定している。

 ・基準在庫数

 ・調達する一定の数である調達ロットサイズ(以下,調達LSという)

 ・調達に要する日数である調達リードタイム(以下,調達LTという)

(2)構成

 ①品目のうち,製品と専用部品には,それを生産する上で必要となる下位の品目があり,どの品目を幾つ用いるかの情報を,構成と呼ぶ。

 ②下位の品目の多くは,複数の品目の構成に共通して用いられる。

 ③製品の構成には,幾つかの専用部品,汎用部品,素材があり得る。

 ④専用部品の構成にも,幾つかの専用部品,汎用部品,素材があり得る。

 ⑤専用部品が,その構成に別の専用部品をもつ場合,構成から見て上位を親部品,下位を子部品と呼ぶ。

 ⑥子部品が,その構成に,更に専用部品をもつことはない。

2.組織の特性

(1)社内の組織

 ①A社の調達業務及び調達物流業務に関係する部門は次のとおりである。

 ・一つの物流部

 ・製品の種類ごとに3部門ある製品生産部

 ・部品の種類ごとに5部門ある部品生産部

 ②物流部は,調達手配,輸送手配及び在庫管理を行う。

 ③物流部は,倉庫を管轄する。倉庫はA社に一つだけある。

 ④製品生産部は,受注に基づいて,製品の生産に必要な部材の出庫指示を行い,製品を生産する。また,生産ライン数を設定している。

 ⑤部品生産部は,専用部品の生産指示に基づいて,A社が内製する専用部品を生産する。また,専用部品の生産用に,部材の出庫指示を行う。

(2)社外の組織

 ①部品及び素材を調達する先を調達先と呼び,調達先コードで識別する。

 ②調達先のうち,専用部品を発注する先を協力会社(以下,BPという)と呼び,BPフラグを設定している。

 ③BPが,専用部品の生産に子部品を要する場合,その子部品はA社から支給する。BPへの支給対象の子部品を支給部品とも呼ぶ。

 ④調達先のうち,汎用品を購入する先を仕入先と呼び,仕入先フラグを設定している。

 ⑤BPでかつ仕入先という調達先を禁じていない。

(3)社内と社外の組織を共通に見る見方

 ①部品生産部とBPを総称して生産先と呼び,生産先コードを付与している。

 ②倉庫とBPを総称して地点と呼び,地点コードを付与している。

(4)組織と品目の関係

 ①汎用品は,その汎用品を調達する仕入先を一つに決めている。

 ②専用部品は,その専用部品を生産する生産先を一つに決めている。

3.物流に関する資源の特性

(1)車両

 ①調達物流に用いるトラックを車両と呼ぶ。

 ②車両は車両番号で識別し,最大積載重量を設定している。

(2)ルート

 ①A社では,専用部品の調達を,巡回集荷で行っている。巡回集荷とは,車両が幾つかのBPを順に回って集荷するやり方である。

 ②車両が,A社倉庫を出発し,4〜8か所のBPを順に回り,再びA社倉庫に戻る単位をルートと呼ぶ。ルートはルート番号で識別し,標準で輸送する車両を設定している。

 ③ルートごとに,車両の出発地点の巡回順を1に,以降の到着する地点の巡回順を2から付与し,到着予定時刻を設定している。

 ④どのルートも,巡回順の最初と最後にA社倉庫を設定し,2番目以降に幾つかのBPを設定している。ルートのイメージを図1に示す。


図1 ルートのイメージ

4.業務のやり方

(1)在庫のもち方

 ①在庫をもつのは,倉庫と支給を行う対象のBPである。

 ②在庫は,地点,品目ごとに把握している。

 ③倉庫の在庫を倉庫在庫,BPの在庫をBP在庫と呼ぶ。

 ④倉庫在庫の在庫数は,入出庫の実績から求める。

 ⑤BPでは,在庫の入出庫を記録しないので,在庫数は理論値で,次の入出庫の実績から求める。この在庫数を理論在庫数と呼ぶ。

 ・荷卸実績のうち支給部品のBPへの荷卸実績は,支給部品理論入庫実績でもある。

 ・親部品の発注に基づいて,BPは構成から求められる子部品を使用数分使うので,その分の支給部品理論出庫実績を記録する。

(2)調達手配のやり方

 ①調達手配は,部材を対象に行い,定量発注で行う。

 ②定量発注とは,在庫数又は理論在庫数が基準在庫数を下回った場合,調達LS分の手配を行うやり方である。

 ③在庫数が基準在庫数を下回ったかどうかの確認は,毎営業日の営業時間終了時に行う。

 ④調達手配は物流部が行い,対象には部品生産部が内製する部品も含む。

 ⑤調達手配は,次のように行う。

 ・汎用品は,仕入先に発注する。

 ・専用部品でかつ生産先がBPの場合,そのBPに発注する。

 ・専用部品でかつ生産先が部品生産部の場合,その部品生産部に生産指示を行う。

 ・BPに支給する支給部品は,支給指示を行う。

(3)輸送のやり方

 ①一つの輸送は,荷物をある地点で荷積みして別の地点で荷卸しするまでの単位である。例えば,BPのc社に発注した専用部品の集荷の輸送は,c社で荷積みしてA社倉庫で荷卸しする。

 ②輸送において,荷積みする地点を積地,荷卸しする地点を卸地,それぞれの巡回順を積地巡回順,卸地巡回順と呼ぶ。

 ③輸送の必要な調達では,該当する調達手配に対応させて,輸送指示を行う。

 ④輸送指示は輸送番号で識別する。輸送指示には,調達手配の日に調達LTの日数を足した輸送日,積地巡回順及び卸地巡回順を設定する。

 ⑤輸送指示に基づき,荷積みした時点で荷積時刻の記録を行う。

 ⑥輸送指示に基づき,荷卸しした時点荷卸時刻の記録を行う。

5.業務の流水上情報
業務の流れを図2に,業務内容及び業務の流れにおける情報を表1に示す。


図2 業務の流れ

表1 業務内容及び業務の流れにおける情報

設計した現状の概念データモデル及び関係スキーマ
 概念データモデル及び関係スキーマは,マスタ及び在庫の領域と,トランザクションの領域を分けて作成し,マスタとトランザクションの間のリレーションシップは記述しない。マスタ及び在庫領域の概念データモデルを図3に,トランザクション領域の概念データモデルを図4に,マスタ及び在庫領域の関係スキーマを図5にトランザクション領域の関係スキーマを図6に示す。


図3 マスタ及び在庫領域の概念データモデル(未完成)


図4 トランザクション領域の概念データモデル(未完成)


図5 マスタ及び在庫領域の関係スキーマ(未完成)


図6 トランザクション領域の関係スキーマ(未完成)

現状業務の問題と解決策

 ①輸送時に荷物が車両の最大積載重量を超えないように,ルートの車両の大きさと巡回する先を設定しているが,まれに最大積載重量を超え,問題となっている。

 ②そこで,荷量計算という業務を,次のように追加して問題を解決する。

 ・営業時間終了時に,翌営業日分の輸送指示について,ルート別巡回順別に輸送重量の和を求める。

 ・求めた輸送重量の和が,車両の最大積載重量を超えていた場合,巡回順と輸送番号の順で,累計輸送重量が最大積載重量を超過した以降の輸送指示に対して,別の車両を割り当て,車両を確定させる。荷量計算のイメージを図7に示す。

 ③現状の関係スキーマが,2に示した荷量計算が可能なデータ構造であることを検証するために,関係スキーマ処理フローを作成した。関係スキーマ処理フローの表記法を表2に,検証のために作成した関係スキーマ処理フローを図8に示す。

 


図7 荷量計算のイメージ

表2 関係スキーマ処理フローの表記法


図8 検証のために作成した関係スキーマ処理フロー(未完成)

 解答に当たっては,巻頭の表記ルールに従うこと。ただし,エンティティタイプ間の対応関係にゼロを含むか否かの表記は必要ない。
 なお,次の1〜4についても従うこと。

 ①リレーションシップの対応関係は1対1又は1対多とし,多対多としないこと。

 ②属性名は意味を識別できる適切な名称とし,他の属性と区別できること。

 ③識別可能なサブタイプにおいて,他のエンティティタイプとのリレーションシップは,スーパタイプ又はサブタイプのいずれか適切な方との間に記述すること。また,サブタイプ固有の属性がある場合,必ずそのサブタイプの属性とすること。

 ④関係スキーマ中の属性名を答える場合,対象の関係スキーマは第3正規形を満たし,主キーを表す実線の下線,外部キーを表す破線の下線についても答えること。

 

設問1 マスタ及び在庫領域の概念データモデル及び関係スキーマについて,(1),(2)に答えよ。

 

(1)図3は未完成である。欠落しているリレーションシップを補って,図を完成させよ。

 

解答・解説
解答例

解説

 ー

 

(2)図5中の  ア    コ  に,適切な一つ又は複数の属性名を補って,関係スキーマを完成させよ。

 

解答・解説
解答例

 ア:生産ライン数
 イ:生産先コード
 ウ:生産先コード地点コード
 エ:設計番号
 オ:汎用品仕様,仕入先調達先コード
 カ:生産先コード,個体重量
 キ:部材品目コード
 ク:部材品目コード
 ケ:部材品目コード
 コ:専用部品品目コード

解説

 ー

 

設問2 トランザクション領域の概念データモデル及び関係スキーマについて,(1),(2)に答えよ。

 

(1)図4は未完成である。欠落しているリレーションシップを補って,図を完成させよ。

 

解答・解説
解答例

解説

 ー

 

(2)図6中の  サ    タ  に,適切な一つ又は複数の属性名を補って,関係スキーマを完成させよ。

 

解答・解説
解答例

 サ:調達番号
 シ:輸送番号
 ス:受注番号部材品目コード
 セ:専用部品生産指示調達番号部材品目コード
 ソ:支給指示調達番号
 タ:専用部品発注調達番号子部品品目コード,使用数

解説

 ー

 

設問3 〔現状業務の問題と解決策〕について,(1)〜(3)に答えよ。

 

(1)図8中の  a    k  に適切な字句を入れて,関係スキーマ処理フローを完成させよ。

 

解答・解説
解答例

 a:輸送日
 b:輸送日
 c:輸送重量
 d:ルート番号,積地巡回順
 e:輸送重量
 f:ルート番号,卸地巡回順
 g:ルート番号
 h:ルート番号
 i:積地巡回順
 j:卸地巡回順
 k:荷積重量 - 荷卸重量

解説

 ー

 

(2)(1)の検証ができたので,エンティティタイプ“確定輸送指示”を追加した概念データモデルを設計した。追加したエンティティタイプが関連する範囲の概念データモデルを図9に示す。欠落しているリレーションシップを補って図を完成させよ。


図9 追加したエンティティタイプが関連する範囲の概念データモデル

 

解答・解説
解答例

解説

 ー

 

(3)(2)で追加したエンティティタイプ“確定輸送指示”について,関係スキーマを答えよ。

 

解答・解説
解答例

 輸送番号確定車両番号

解説

 ー

 

IPA公開情報

出題趣旨

 概念データモデリングでは,データベースの物理的な設計とは異なり,実装上の制約に左右されずに実務の視点に基づいて,対象領域から管理対象を正しく見極め,モデル化する必要がある。そのために,業務内容などの実世界の情報を総合的に理解・整理し,その結果を概念データモデルに反映する能力が求められる。
 本問では,機械メーカの調達業務及び調達物流業務を例として,与えられた状況から概念データモデリングを行う能力を問うものである。具体的には,①トップダウンにエンティティタイプ及びリレーションシップを見抜く能力,②ボトムアップにエンティティタイプ及び関係スキーマを分析する能力,③概念データモデル及び関係スキーマを問題解決のために適切に変更する能力,④変更した概念データモデル及び関係スキーマを検証する能力を評価する。

採点講評

 問 2 では,機械メーカの調達業務及び調達物流業務を題材に,現状と問題解決のために変更した概念データモデルと関係スキーマ,変更した概念データモデル及び関係スキーマの検証について出題した。全体として正答率は低かった。
 設問 1(1)では,調達先のサブタイプ及び品目のサブタイプについての正答率は高かったものの,品目の構成を表すリレーションシップ及び在庫の対象品目を表すリレーションシップについての正答率が低かった。主キーが外部キーの組合せとなるエンティティタイプについて,参照先はマスタ領域のサブタイプ構造のどのエンティティタイプであるか,注意深く読み取ってほしい。
 設問 2 では,トランザクション間のリレーションシップ及び対応する外部キーの正答率が低かった。中でも在庫更新につながるリレーションシップ及び対応する外部キーに不十分な解答が散見された。業務がどのように連鎖しているか,業務の連鎖を外部キーとしてどのように実現しているかを注意深く読み取ってほしい。
 設問 3 の正答率は高かったが,(3)について不十分な解答が散見された。問題解決のための変更で,属性にどのような役割が必要かを注意深く洞察してほしい。
 状況記述を丁寧に読み,エンティティタイプ間のリレーションシップや求められる属性を検討する習慣を身に付けてほしい。また,対象領域全体を把握するために,全体のデータモデルを記述することが重要である。日常業務での実践の積み重ねを期待したい。

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