資格部

資格・検定の試験情報、対策方法、問題解説などをご紹介

適性科目 平成27年度 Ⅱ-14

◀︎ 前へ次へ ▶︎️

 文部科学省は,2013年に科学技術・学術審議会から「東日本大震災では,科学技術コミュニティから行政や社会に対し,その専門知を結集した科学的知見が適切に提供されなかったことや,行政や専門家が,社会に対して,これまで科学技術の限界や不確実性を踏まえた適時的確な情報を発信できず,リスクに関する社会との対話を進めてこなかったことなどの課題がある。」との指摘を受け,2014年に「リスクコミュニケーションの推進方策」を取りまとめた。この中で,リスクコミュニケーションを推進するに当たっての重要事項(基本的な視座)を,いくつか挙げている。
 次の記述のうち,最も不適切なものはどれか。

① リスクの概念は多様であるが,忘れてはならないリスク認知のモデルとして,個人はリスクを「ハザード」と「アウトレージ(怒りや不安,不満,不信など感情的反応をもたらす因子)」の和として捉えるという考え方がある。ハザードが十分小さくてもアウトレージが大きければリスクとして無視できない,というリスク認知を踏まえるならば,一方向の説得ではなく「対話・共考・協働」が重要となる。

② リスクコミュニケーションを実施する際,多くの場合に,発信側(専門家や行政等)と受け手側(一般市民等)との間の情報の非対称性,リスクに係る権限と責任の非対称性,そしてリスクそのものを引き受ける度合いの非対称性の課題が伴う。発信側は多くの情報を持ち,リスク対処の権限・責任を持つ一方で,リスクを引き受けるのは受け手側ということが多い。これらの特性を踏まえ,いかに非対称性に配慮、し,双方向性を担保したコミュニケーションの場に近づけていくのかが重要なポイントとなる。

③ 一般に,社会全体のリスクを俯瞰(ふかん)的に把握しようとする行政や専門家の「統治者視点」では統計的・確率論的な見方をするのに対して,リスクに直面する一人一人の「当事者視点」では,危害の確率がいくらであれ個人がその危害を受けるか受けないかの二者択一としてリスクを捉えたり,アウトレージの要素による価値判断に基づいた個別的な見方をしたりする。これらはどちらかが正しいというわけではなし対等に比較できるものでもない。リスクコミュニケーションは,この2つの視点が存在することを前提に取り組まねばならない。

④ ステークホルダ(利害関係者)間での信頼関係の確保はリスクコミュニケーションを成立させる上での前提である。この信頼関係は,対話・共考・協働を互いに積み重ねることによって初めて次第に構築されていくものであるが,その際,リスクコミュニケーションの実践を企画・運営する,又は場の進行やまとめを行う機能を担う人材(媒介機能を担う人材)の中立性がとりわけ重要となる。一般に,専門家が媒介機能を担う人材となる場合,専門家には特定のステークホルダの利害によらない,科学的な根拠に基づいた独立性のある発信をすることが求められている。

⑤ リスク情報の効果的な発信をするには,科学的な正確性を重視して細部の精微な情報発信を心がけるよりも伝えるべきメッセージを整理して明確にし,端的で、わかりやすい情報発信を実践することが重要である。この際に,発信側(専門家や行政等)で責任を持って十分に検証したリスク情報であれば,受け手側(一般市民等)の検証可能性を確保するために必要な情報公開を行わなくても信頼を得ることができる。

 

解答・解説

解答

 ⑤

解説

① リスクの概念は多様であるが,忘れてはならないリスク認知のモデルとして,個人はリスクを「ハザード」と「アウトレージ(怒りや不安,不満,不信など感情的反応をもたらす因子)」の和として捉えるという考え方がある。ハザードが十分小さくてもアウトレージが大きければリスクとして無視できない,というリスク認知を踏まえるならば,一方向の説得ではなく「対話・共考・協働」が重要となる。
適切です。

② リスクコミュニケーションを実施する際,多くの場合に,発信側(専門家や行政等)と受け手側(一般市民等)との間の情報の非対称性,リスクに係る権限と責任の非対称性,そしてリスクそのものを引き受ける度合いの非対称性の課題が伴う。発信側は多くの情報を持ち,リスク対処の権限・責任を持つ一方で,リスクを引き受けるのは受け手側ということが多い。これらの特性を踏まえ,いかに非対称性に配慮、し,双方向性を担保したコミュニケーションの場に近づけていくのかが重要なポイントとなる。
適切です。

③ 一般に,社会全体のリスクを俯瞰(ふかん)的に把握しようとする行政や専門家の「統治者視点」では統計的・確率論的な見方をするのに対して,リスクに直面する一人一人の「当事者視点」では,危害の確率がいくらであれ個人がその危害を受けるか受けないかの二者択一としてリスクを捉えたり,アウトレージの要素による価値判断に基づいた個別的な見方をしたりする。これらはどちらかが正しいというわけではなし対等に比較できるものでもない。リスクコミュニケーションは,この2つの視点が存在することを前提に取り組まねばならない。
適切です。

④ ステークホルダ(利害関係者)間での信頼関係の確保はリスクコミュニケーションを成立させる上での前提である。この信頼関係は,対話・共考・協働を互いに積み重ねることによって初めて次第に構築されていくものであるが,その際,リスクコミュニケーションの実践を企画・運営する,又は場の進行やまとめを行う機能を担う人材(媒介機能を担う人材)の中立性がとりわけ重要となる。一般に,専門家が媒介機能を担う人材となる場合,専門家には特定のステークホルダの利害によらない,科学的な根拠に基づいた独立性のある発信をすることが求められている。
適切です。

⑤ リスク情報の効果的な発信をするには,科学的な正確性を重視して細部の精微な情報発信を心がけるよりも伝えるべきメッセージを整理して明確にし,端的で、わかりやすい情報発信を実践することが重要である。この際に,発信側(専門家や行政等)で責任を持って十分に検証したリスク情報であれば,受け手側(一般市民等)の検証可能性を確保するために必要な情報公開を行わなくても信頼を得ることができる。
積極的な情報公開が求められているため,不適切です。