予防(不都合が起きないように予め防止すること)は,健康や生活環境を安全で快適に維持していくために最も基本的な考え方であり,行為である。予防的な行動をとることによって,より経済的に,労力も最小で,苦痛も小さく,しかも物質の無駄や汚染物の排出も抑えながら,暮らしの安全を確保することができる。
予防的な行動の有効性は,市民の生活レベルも国の政策レベルでも同じである。治療より予防のほうが,損害の補償より予防対策が,人,物,財産,社会資本,経済活動の損失がより少ない場合が多いことを東日本大震災で我々は再認識した。
しかし,行政等の予防行動は,製品の販売や開発に経済的な損害を生じる場合もあり,その結果自由な経済活動を阻害することにもなるため,予防による利害の対立が生じる。グローバルな社会の中で安全を立証し利害の対立を調整し決定するための国際的なルールの必要性から,1992年,ブラジルのリオデジャネイロで「国連環境開発会議」が聞かれ,「環境と開発に関するリオ宣言」が採択され,日本もそれを批准した。この宣言は環境に関する基本的な国連の思想と,各国が守るべき規範を示している。その第15原則に,予防的取組方法が言及されている。
2002年,ヨハネスブルクでの「国連持続可能な開発サミット」でも予防的取組方法が討議された。EU(欧州連合)は「予防的取組方法(precautionary approach)」としづ従来の表現をより広い概念である「予防原則(precautionary principle)」に変更することを提起し,サミットの場で論議されたが,米国,日本などの反対によって,前進することはなかった。
現在,予防的な取組行動を推進している国際組織,各国政府,あるいはNGOが採用している概念は,大半が「リオ宣言第15原則」に依拠している。
■リオ宣言第15原則
予防的取組方法(precautionary approach)は,環境を保護するため,各国の能力に応じて広く適用されなくてはならない。深刻な,あるいは不可逆的な危害の脅威のある場合には,完全な科学的確実性の欠如を理由に,環境悪化を防止するための費用対効果の大きな対策を延期してはならない。
リオ宣言の第15原則の予防的取組方法から,「因果関係が科学的に確実でない場合や,未だ結論に到達していない場合,脅威の解明はその時点において科学の限界と認め,さらなる時間を科学分析にのみ費やすことなく,必要であれば,社会的,行政的見地から早期に対策を講じるべきである」ということを導くことができる。
予防的取組で,考えるべき次のア)〜シ)のうち,不適切なものの数を選べ。
- 技術の鑑定と公共政策策定においては,不確実性とリスクのみならず無知に対しても認識し配慮すること。
- 早期警告が出されたら環境と健康についての長期的で、適切なモニタリングと研究をすること。
- 科学の知識については“盲点”と欠落を明確にし,それを減らすように務めること。
- 異なる分野間の学び合いに障害となっているものを特定し,これを減らすこと。
- 規制政策を鑑定する際には,現実世界の条件が適切に考慮されていることが保証されること。
- 潜在的リスクと並んで,指摘された正当性と利益を系統的に精査すること。
- 現に鑑定されつつある方策と並んで,必要に見合う別の選択肢をも評価すること。そして,予期せぬ災害の損失を最小化し,かっ技術革新の利益を最大化することがより確実で,多様性と適応性のある技術を推進すること。
- 鑑定に当たっては,当該分野の専門家だけでなく,“普通の人”や地方の知識をも用いることを保証すること。
- さまざまに異なった社会集団の受容と価値をすべて勘定に入れること。
- 情報と意見の収集に当たっては総括的な取組みをしながらも,規制者は利益集団から独立を保つこと。
- 事実を知ることと行動することに対する制度的障害をはっきりさせて,これを減らすこと。
- 懸念について合理的な基礎がある場合には,潜在的な被害を減らす行動を起こすことによって,“分析による麻庫”を避けること。
① 0 ② 1 ③ 2 ④ 3 ⑤ 4
解答
①
解説
いずれも,欧州環境庁編の「欧州環境庁(EEA)2013年1月 レイト・レッスンズ II」EEAの12の遅ればせの教訓に記述されているものです。