ワイヤレス防犯カメラの設計に関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。
I社は有線の防犯カメラを製造している。有線の防犯カメラの設置には通信ケーブルの配線,電源の電気工事などが必要である。そこで,充電可能な電池を内蔵して,太陽電池と接続することで,外部からの電力の供給が不要なワイヤレス防犯カ,メラ(以下,ワイヤレスカメラという)を設計することになった。
ワイヤレスカメラは,人などの動体を検知したときだけ,一定時間動画を撮影する。撮影の開始時にスマートフォン(以下,スマホという)に通知する。また,スマホから要求することで,現在の状況をスマホで視聴することができる。
ワイヤレスカメラのシステム構成を図1に示す。ワイヤレスカメラはWi-Fiルータを介してインターネットと接続し,サーバ及びスマホと通信を行う。
図1 ワイヤレスカメラのシステム構成
・カメラ部はカメラ及びマイクから構成される。動画用のエンコーダを内蔵しており,音声付きの動画データを生成する。
・動体センサは人体などが発する赤外線を計測して,赤外線の量の変化で人などの動体を検知する。
・通信部はWi-FiでWi-Fiルータを介してサーバ及びスマホと通信する。
・制御部は,カメラ部,動体センサ及び通信部を制御する。
ワイヤレスカメラには,自動撮影及び遠隔撮影の機能がある。
(1)自動撮影
・動体を検知すると撮影を開始する。撮影を開始したとき,スマホに撮影を開始したことを通知する。
・撮影を開始してからTa秒間撮影する。ここで,Taはパラメタである。
・撮影した動画データは,一時的に制御部のバッファに書き込まれる。このとき,動画データはバッファの先頭から書き込まれる。Ta秒間の撮影が終わるとバッファの動画データはサーバに送信される。
・撮影中に新たに動体を検知すると,バッファにあるその時点までの動画データをサーバに送信し始めると同時に,更にTa秒間撮影を行う。このとき,動画データはバッファの先頭から書き込まれる。
(2)遠隔撮影
・スマホから遠隔撮影開始が要求されると撮影を開始する。
・撮影した動画データはスマホに送信され,そのままスマホで視聴することができる。
・スマホから遠隔撮影終了が要求される,又は撮影を開始してから60秒経過すると撮影を終了する。
・撮影中に再度,遠隔撮影開始が要求されると,その時点から60秒間又は遠隔撮影終了が要求されるまで,撮影を続ける。
・ワイヤレスカメラとスマホが通信するときに通信障害が発生すると,データの再送は行わず,障害発生中の送受信データは消滅するが,撮影は続ける。
(1)状態
ワイヤレスカメラの状態を表1に示す。
状態名 | 説明 |
待機状態 | カメラ部には電力が供給されておらず,撮影していない状態 |
自動撮影状態 | 自動撮影だけを行っている状態 |
遠隔撮影状態 | 遠隔撮影だけを行っている状態 |
マルチ撮影状態 | 自動撮影と遠隔撮影を同時に行っている状態 |
(2)イベント
状態遷移のトリガとなるイベントを表2に示す。
イベント名 | 説明 |
遠隔撮影開始イベント | スマホから遠隔撮影開始が要求されたときに通知されるイベント |
遠隔撮影終了イベント | スマホから遠隔撮影終了が要求されたときに通知されるイベント |
動体検知通知イベント | 動体センサで動体を検知したときに通知されるイベント |
動画データ通知イベント | カメラ部からのエンコードされた動画データが生成されたときに通知されるイベント |
自動撮影タイマ通知イベント | 自動撮影で使用するタイマでTa秒後に通知されるイベント |
遠隔撮影タイマ通知イベント | 遠隔撮影で使用するタイマで60秒後に通知されるイベント |
(3)処理
状態遷移したときに行う処理を表3に示す。それぞれのタイマは新たに設定されると,直前のタイマ要求は取り消される。
項番 | 処理名 | 処理内容 |
① | カメラ初期化 | 撮影を開始するとき,カメラ部に電力を供給して初期化する。 |
② | 撮影終了 | カメラ部の電力の供給を停止して撮影を終了する。 |
③ | 撮影開始 | バッファを初期化して,スマホに撮影を開始したことを通知する。 |
④ | バッファに書込み | 動画データをバッファに書き込む。 |
⑤ | サーバに動画データ送信 | バッファの動画データをサーバに送信する。 |
⑥ | スマホに動画データ送信 | 動画データをスマホに送信する。 |
⑦ | 自動撮影タイマ設定 | 自動撮影時のTa秒のタイマを設定する。 |
⑧ | 遠隔撮影タイマ設定 | 遠隔撮影時の60秒のタイマを設定する。 |
ワイヤレスカメラの状態遷移図を図2に示す。
図2 ワイヤレスカメラの状態遷移図
自動撮影のテストを行ったとき,サーバに異常な動画データが送られてくる不具合が発生した。通信及びハードウェアには問題がなかった。
この不具合は,自動撮影中に動体を検知したときに発生しており,バッファの使い方に問題があることが判明した。
そこで,撮影中に新たに動体を検知した時点で,書き込まれているバッファの続きから動画データを書き込み,バッファの d まで書き込んだ場合は,バッファの e に戻る方式の f に変更した。
出典:令和4年度春期 問7
設問1 時刻t₁に動体を検知して自動撮影を開始した。時刻t₁から時刻t₂まで途切れることなく自動撮影を続けており,時刻t₂に最後の動体を検知した。このときの自動撮影は何秒間行われたか。時間を表す式を答えよ。ここで,処理の遅延及び通信の遅延は無視できるものとする。
解答・解説
解答例
(t₂ - t₁) + Ta
解説
設問2 スマホから要求を行い動画の視聴を開始した。その10秒後に送受信の通信障害が20秒間発生した。通信障害が発生してから5秒後にスマホから遠隔撮影開始を要求した。スマホでの視聴が終了するのは視聴を開始してから何秒後か。整数で答えよ。ここで,処理の遅延及び通信の遅延は無視できるものとする。
解答・解説
解答例
60
解説
設問3 〔ワイヤレスカメラの状態遷移〕について,(1)〜(3)に答えよ。
(1)図2の状態遷移図の状態S1,S2に入れる適切な状態名を,表1中の状態名で答えよ。
解答・解説
解答例
S1:遠隔撮影状態
S2:自動撮影状態
解説
(2)図2中の a , b に入れる適切なイベント名を,表2中のイベント名で答えよ。
解答・解説
解答例
a:遠隔撮影開始イベント
b:自動撮影タイマ通知イベント
解説
(3)図2中の c に入れる適切な処理を,表3中の項番で全て答えよ。
解答・解説
解答例
①,③,⑦
解説
設問4 〔サーバに送られた動画データの不具合〕について,(1)〜(3)に答えよ。
(1)不具合が発生した理由を40字以内で述べよ。
解答・解説
解答例
書き込みと読み込みが同時に行われ,バッファの先頭のデータが上書きされた。
解説
(2)本文中の d , e に入れる適切な字句を答えよ。
解答・解説
解答例
d:終端 e:始端
解説
(3)本文中の f に入れるバッファの名称を答えよ。
解答・解説
解答例
リングバッファ
解説
IPA公開情報
出題趣旨
ネットワークに接続できるカメラは,防犯用,ペットの管理などで活用されており,近年は高速な通信が可 能な Wi-Fi 通信を利用したワイヤレスカメラが製品化されている。
本問では,Wi-Fi 通信を使用したワイヤレスカメラの設計を題材として,仕様に基づいた,特定の条件があるときの撮影時間の計算能力,状態遷移図を用いたワイヤレスカメラの状態と遷移及び遷移時の処理の理解と設計,バッファの使用方法の不備によって生じる不具合の原因と対策への理解について問う。
採点講評
問 7 では,Wi-Fi を使用したワイヤレスカメラを題材に,特定の条件が与えられたときの撮影時間の計算,状態遷移及びバッファの使い方について出題した。全体として正答率は平均的であった。
設問 2 は,正答率が低かった。通信障害が発生したときの状況を正しく理解することで,障害の及ぼす影響,その対策などが考察できる。与えられた条件から状況を正しく理解して,正答を導き出してほしい。
設問 3(3)は,正答率が高かったが,三つの処理の全てを挙げていない解答や,関係のない処理を挙げている解答が散見された。各状態とその状態を維持するための理解が不十分であると考えられる。状態遷移は,組込みシステムの設計ではよく利用されるので,ぜひ理解してほしい。
設問 4(2)は,正答率が低かった。リングバッファは,通信などのインタフェース処理でよく利用される。名称及びその仕組みについて理解を深めてほしい。